最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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二四二話

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鼻カゼと花粉症のダブルパンチで、鼻水で溺死しそうな一週間でした……
呼吸が出来るって素晴らしいね。

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「ようやく掃除も終わって、これでやっと内装に取り掛かれるな」

 塵一つない……とまでは言わないが、初期の頃から比べればすっかり見違えるくらい綺麗になった玄関に俺は仁王立ちし、ここ一週間の苦労の結果を前に満足げに頷いた。

 ただし、左右の二棟の内部は依然、汚れたままであることは考えないものとする。

 本来のこの屋敷の目的を考えれば、あくまでマキナバハムートの修理が終わるまでの仮住まいなので、別にこの屋敷にそこまで手を加える必要性はまったくない。
 ぶっちゃけ、風雨を凌げる環境で、寝泊まりと食事が出来るような人間らしい最低限の生活が出来ればそれで十分なのだ。
 しかし……
 手が加えられるというなら、トコトン突き詰めてみたくなるのが、凝り性のさがである。

 まぁ、流石に屋敷全体に手を入れるのはしんどいので、そこにはそっと目を閉じる。

「でも、内装って言ってもどうするつもりなのよ?
 今から家具職人にでも依頼を出すの?」

 と、隣に立っていたセレスがそんなことを聞いて来た。

「いや、人に頼むくらいなら自分で作るさ。その方が早いしな。
 てか、実はもうある程度の物は作ってあるんだよ」

 ここ一週間。日のあるうちは屋敷の掃除に掛かり切りだったが、宿に帰ったあとは特にすることもないので、後々必要になるであろう大まかな家具類などをこつこつと制作をしていたのだ。
 タンスとかベッドとかその他諸々な。
 勿論、製作の殆どはクラフトボックス大先生頼みである。

「で、だ。
 まずは照明関係に手を入れて行こうと思ってる」

 というのも、現状、この屋敷にはランプの様な光源の類が一切ない状態だった。
 その所為で、日が少し傾いただけで屋内が暗くなってしまい、作業が出来なくなってしまうのだ。
 それをここ数日で嫌というほど思い知らされたよ……
 今後の作業効率も考え、まずは光源の確保が最重要であるとそう判断した結果だ。

 というわけで、手始めは玄関からである。

 今日は高所での作業になると見越して、事前に用意しておいた、高所作業用の足場を亜空間倉庫から取り出すと、それによじ登り天井付近へと移動する。
 ここ一週間の作業で、ミラちゃんもこういった光景を何度も見て来たのですっかり見慣れた光景となり、最早誰も何も言わなくなって来た。
 慣れてくれたのはいいが、何の反応もないのはそれはそれで寂しいような気がしないでもないような……

 ちなみに、この高所作業用足場だが、流石に宿屋の部屋の中では作れなかったので、日中の作業の合間合間にコツコツ組み立てていた物だ。

 で、だ。
 暗いことが分かっていながら、掃除が終わるまで照明器具を取り付けなかったのは、この足場を安定して置くことが出来ないくらい、周囲がゴミで散らかっていたからである。
 なので、まず掃除、それが大前提だったのだ。

 そして、足場を登り切ったところで、インベントリにしまっておいた照明保持用の金具を取り出し、それを天井に結合バンドを使って取付ける。
 これで天井が崩れでもしない限り落ちたりはしないはずだ。

 次いで、亜空間倉庫にしまっておいた照明器具を、金具に引っ掛ける様な感じで取り出せば、はい、設置の完了である。

「うわ……すご……本当のお城みたい……」
「いえ……こんな手の込んだ豪華な物は、王宮にだってないわよ……」

 俺が取りつけた照明を見て、二人が驚いた様子でそんな感想を口にした。
 うんうん。それだけ驚いてくれれば、俺も苦労をして作った甲斐があるというものだ。
 
 俺が取りつけた照明というのは、所謂、シャンデリアと呼ばれる類の物だった。
 あのキンキンピカピカジャラジャラなアレだ。しかも、無駄に豪華っていうね。
 
 ちなみに、このシャンデリアは、クラフトボックスによる簡易製造ではなく、俺が部品を一つ一つこつこつと手作りした一点ものである。
 先日作ったガラスの余りと、エルフの村で手に入れた銀の余りをふんだんに使って作った自信作だ。

「これもあの箱で作ったのかしら?」
「いや、こいつは俺の自作だよ。ここ何日かで作ったんだが……結構苦労したんだぞ?」
「これを数日って……職人の人達が聞いたら、泡を吹いて卒倒しそうね……」

 確かにな。なんて、他人事のように俺もそう思う。
 まぁ、俺の場合はスキルでちょちょいで出来るが、手作業で作ろうと思ったら数ヶ月単位とか掛かりそうだよな、これ……

 なんて思いながら、自分で作ったシャンデリアをまじまじと見る。

「でも、そのシャンデリア。燭台が付いてないうえ、滑車もないようだけど、どうやって明かりを灯すつもりなのかしら?」

 で、俺製のシャンデリアを見て、セレスがそんな疑問を口にした。
 それもそのはず。俺が作ったシャンデリアは、この世界でのシャンデリアとは大きくかけ離れた造りをしていたからな。

 シャンデリアと聞くと、家具屋などに置いてある、あの煌びやかな電気照明器具を思い浮かべるが、この世界では当然違う。
 勿論、照明器具であることに変わりはないのだが、元居た世界の様に電気があるわけではないので、スイッチ一つで簡単に明かりを付ける、なんてことはないのだ。

 この世界での基本的な光源は、ロウソクか油を使ったランプが主流である。
 少し言い方を変えれば、この国におけるシャンデリアとは、装飾がされた超豪華なロウソク立て、もしくはランプ掛けというような感覚なのだ。
 つまり、シャンデリア自体が光を発するようなものではない、ということだ。

 一応、アグリスタにいたあのバ……何とかっていっていた貴族の屋敷では、魔術的な照明を使っていたが、あんなものを使っているのは極一部の例外である。

 で、光源がロウソクやランプであるなら、当然、ロウソクを立てたり、ランプを吊るす場所がなくてはいけないのだが、俺製のシャンデリアにはそれらが無い、とセレスは指摘していた、ということだ。

 合わせて、シャンデリアには、取り付けられたロウソクに火を灯せるよう、シャンデリア自体を上下に稼働させられるように、専用の装置によって吊るすのが通常であった。
 ロウソクに火を着ける時は下げて、着けたら上げる、といった感じだ。
 固定式になってしまうと、あんな高所まで毎日火を着けに行かないといけなくなってしまうからな。

 で、セレスはその為の昇降装置がない、と合わせて指摘しているのだ。

「ふっふっふ……このシャンデリアにはそれらが必要ないから着けてないんだよ。まぁ、見てな」

 と、俺は不敵な笑みを見せると、作業の続きを行うことに。
 インベントリから銀を糸状に加工したものを取り出すと、それをシャンデリアに結合し、そこから銀糸を天井に這わせ、壁へと向かう。

 広さが限られた足場の上での作業なので、当然作業出来るエリアにも限界がある。
 なので、作業エリアが限界に達したら、足場自体を黒騎士に押してもらいながら、適宜場所を調整しつつ作業を続ける。

 俺が現在乗っている足場には、フレキシブルキャスターが付いているので、地面が平な所なら、縦横斜めと自由自在に移動出来るのだ。
 で、こうやって作業しながら移動する為にも、まずは掃除が必要だった、ということだ。
 キャスターで移動出来ないとなると、足場をいちいち持ち上げて運ばないといけなくなるからな。

 で、壁まで行き着くと、今度は壁を伝い下へと降りる。
 そして、丁度俺の胸の辺りに、これまた事前に用意しておいた手の平より少し小さいサイズの銀板を壁へ埋め込み、引っ張って来た銀糸と結合する。

 さて、これにて作業は完了。次は実働テストなのだが……
 実は事前にテストをしていないので、上手く稼働してくれるかは不明だったりする。

「ん? なに?」

 ふと、近くで俺の作業を覗き込んでいたセレスと目合った。
 折角なので、ここから先はセレスにも協力してもらうことにしよう。俺以外がやってもちゃんと上手く行くかのいい実験にもなるしな。

「セレス、悪いんだが、その銀板に手を触れて“ライト・オン”って言ってもらえるか?」
「? ええ、いいけど……それじゃ……“ライト・オン”」

 俺に言われた通り、セレスが銀板に触れてそう口にすると、一瞬の間を開けて、先ほど設置したシャンデリアが煌びやかに輝きだした。
 今がまだ昼間なので、そこまで明るくは見えないが、それでも光がガラスにキラキラと反射しているのはよく分かる。

「うわっ! 光ったっ! 綺麗ー!」
「おお、上手く行ったな。これで少しくらい暗くなっても、作業が出来そうだ」

 突然、光を放つシャンデリアにミラちゃんからは驚きの声が上がり、俺は上手く行ったことに安堵する。

「スグミ……」

 で、そんな俺達を他所に、セレスが静かに俺の名を呼ぶので振り向けば……

「ぬおっ!」
「……説明」
「あっ……はい」

 あの深淵にでも引きずり込まれそうな無感情な目が、ジっと俺を捕らえていたのだった……
 

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