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二五七話
しおりを挟む翌朝。
昨日のセリカとの約束通り、俺は朝一で王城へと向かっていた。
ちなみに、ミラちゃん達は行政手続きを終え、今は引っ越しに向けての荷造り中である。
「は~い、スグミくん。お久~」
俺が城門前に辿り着くと、少し離れた所から小学生くらいの女の子が、メイド服姿で俺に向かって小さく手を振りながらテコテコと近寄って来た。
この子は……前に、セリカと一緒に王宮に来た時に会った人だな。
セリカの同僚とかで、名前は……あっ、そうそう……
「確か、マレア……だったけか?」
どうやら、セリカが用意するといった代わりの人物とはマレアのことらしい。
こんな小学生みたいなナリだが、中身は自称一七歳の二三歳だ。
「おっ? 覚えていてくれたの? 嬉しいなぁ~。
一応、改めて自己紹介ね。あたしは、王女陛下付近衛侍女隊所属のマレアよ。
今日はアンジーの代理ってことで、改めてよろしく~」
そう言って、マレアはその小さな手をすいっと突き出した。
「んじゃこっちも。銀級自由騎士のスグミだ。よろしく」
で、俺もそう返して、マレアの小さな手を握る。
「でも、もうすぐ金級になるって話しじゃない?」
握った手の離し際、マレアが唐突にそんなことを言い出した。
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、城内は勿論、巷でもその話題で持ち切りよ?
金級自由騎士が任命されるのこと自体久しぶりだし、何よりその任命理由が伝説の魔物を討伐した功績だっていうじゃない?
しかも、お披露目式も執り行われるってことで、ちょっとしたお祭り騒ぎになっているわよ」
まさかそんなことになっていたとはな……
最近は宿と屋敷を行ったり来たりで、碌に繁華街の方に行っていなかったので全然知らなかった。
ミラちゃん達の経営している宿屋は、繁華街から少し離れていて、むしろ住宅地に近いこともあって、そういう噂話を聞く機会があまりないのだ。
俺が頻繁に通っている銭湯も、繁華街からは少しばかり離れているしな。
「んじゃ、立ち話もなんだし、行きましょうか。着いて来て」
というわけで、俺はマレアの案内の下、番兵に会釈をしながら城門を潜ると、何度目かになる王城へと足を踏み入れた。
「にしても、案内だけならわざわざ女王付きの侍女のマレアでなくても、もっと普通の侍女でもよかったんじゃないのか?」
王城の入り口から、王宮の会議室……前回行った場所と同じだが……は歩きだとそこそこの時間が掛かるので、軽く世間話などをして暇をつぶすことにした。
「まぁ、今回はスグミくんの案内だけってわけでもないからねぇ~。そこんところは追々説明するよ」
ふむ。言葉から、暗に今だけでなく今後の俺にも関係している、みたいなニュアンスを感じるな。
ということは、研究員の世話役として屋敷に送るという侍女にマレアが関係している、と考えるのが妥当だろう。
まぁ、何にしても、本人も言っていたが詳しいことは追々分かるか。
「ねぇねぇ! それより伝説の魔物ってどんな感じのヤツだったの?
伝説って言われるくらいだからやっぱり強かった?
大きかった、とはアンジーから聞いてるけど、どれくらい?」
と、突然好奇心全開といった感じで、マレアから矢継ぎ早にそんな質問を受けることに。
ラルグスさんからは、俺がベルへモスの討伐を行うことになった経緯について……正確には、その進路がノールデン王国内を通過する可能性があった、ということについてだが……は他言無用と言われていたが、マレアはセリカの同僚、ということもあり、別に隠す必要もないだろうと、俺が知っていることをありのままを話すことにした。
事の経緯から始まり、遭遇と戦闘、そして現在。
「え~? でも、討伐に成功して貰った報酬が、討伐の時に使って壊れたゴーレムを修理する場所って、それっておかしくない?
もっといいものもらえたんじゃないの?」
大体のことを話し終えると、何故かマレアが不満そうにそんなことを言って来た。
ちなみに、マキナバハムートのことを細かく説明するのが面倒だったので、マレアにはゴーレムの様な物、だと説明していた。
「そりゃ、貰おうと思えば何か貰えただろうけど、別に金銭や名声目的で引き受けたわけでもないからな……
そもそもは、プレセア……女王陛下やセリカ、それにラルグスさんが困っていたから、ちょっと軽い気持ちで、じゃあ見てこようか? て、言っただけだしな」
本当はいないことを確認して戻って来るつもりだったのが、現場に行ったら実際になんかいた、ってだけの話しだ。
「それに、この一件で目的だった金級自由騎士になれるのが確定したわけだから、俺にとっては十分といえば十分なんだよ」
「いや……それは流石に人が良過ぎでしょ? 無欲にも程があるわよ……
普通だったらもっと多くのことを望むものなんじゃないの?」
そんな俺の答えが気に入らないのか納得出来ないのか……
マレアの渋い表情は続いていた。
まぁ、マレアの考えも分からんではないけどな。
貰える物があるなら、貰えるだけ貰っておく方がいいに決まっている。が、貰い過ぎても使い道に困るようでは意味がない。
宝の持ち腐れというやつだ。
それに、物品ではないが、この国……つまりは王家に貸しを作っておけるのも、ある意味一つの報酬だといえる。
貸の一つでも作っておけば、いざって時には王家の庇護を得られるかもしれないからな。
現状、この国での伝手が少ない俺に取っ手、王家と続くパイプは最上の切り札になりえるのだ。
「ああ、そういえば、ベルへモスの素材の一部の所有権とかは貰ったな。
詳しい子に聞いたら、俺の取り分全部現金化した場合、最低でも一億ディルグは下らないだろうって話だし」
詳しい子、とは勿論セレスのことである。とはいえ、別に今のところ売ることは考えていない。
カネには困っているわけでもないし、大体、売るくらいなら自分で何か作ることに使う。
「おほん……」
という話しをした途端、だ。
マレアが急に咳払いをしたかと思うと、身嗜みを整え、トトトっと俺へと近づいてくると、そっと俺の腕に自分のそれを絡めて来た。
「スグミくん……今夜、一緒に食事でもどうかしら?」
で、上目遣いにこのセリフである。
しかも、さっきまでのキャッキャッとした子供の様な声ではなく、しっとりと落ち着きのある大人な女性の声色で、だ。
ここまで違うと、最早別人である。てか、こんな芸当も出るのか、こいつ……
「そういう露骨な態度は嫌いじゃないが、一昨日にでも出直して来やがってドーゾ」
「え~っ! うそんっ! なんでよっ!」
そして、一瞬で剥がれるメッキ。
「嘘も何でも、その容姿で迫られてもなぁ……」
そう答えつつ、マレアの頭からつま先までを視線で一巡するが、どこからどう見ても小学生なんだよなぁ……
中身が二三だとはいえ、見た目がこれではなかなかどうして……
「ん~、おかしいな……スグミくんは隠れ少女性愛者だという調べが……」
で、脈無しと諦めたのか、マレアがすっと俺から腕を話したのはいいのだが、離れ際、何かとんでもないことを口走って行きやがった。
「おいちょっと待て。今、なんか聞き捨てならんことを言わなかったか?」
「ん? スグミくんが隠れ少女性愛者だってこと?」
「誰だっ! そんなデマを流してる奴はっ! とっ捕まえてブチのめしてやるっ!」
「ん~、誰っていうか、ここ連日、スグミくんが少女二人を連れて、人気のない森の中に入って行く姿が頻繁に目撃されている、っていう報告を受けているんだよね。
しかも、森の中にある廃屋に連れ込んで、日が沈むまで出て来ない……とか?
もっと言えば、屋敷から出て来た時は、少女が二人とも相当疲れている様子だった、とか?」
「言い方っ! 確かにその通りなんだ、言い方にだけは気を付けてくれっ!
それだけ聞くと、ホント、だだの変質者っぽいからっ!」
事実を陳列しただけで、なんだか変質者っぽく聞こえるってどんな風評被害だよっ!
「ったく、それだけ知ってるってことは、俺達があそこで何をしていたのかもちゃんと知っていて言ってるだろ?
てか、俺に監視でも付けてんのか?」
今まで、特にそれらしい反応は何も感じなかったが、俺の感知スキルだって絶対というわけではないからな。
例のワーウルフ達の一件もあるので、俺の感知スキルを凌駕するような隠遁スキルを持っているような人物に監視されていた場合、俺では気づけない可能性は十分にある。
にしても、それだけ知っているということは、当然今まで話して来たこと、それにまだ話していない事情についてだって、おそらくこの子はすべて知っているのだろう……
その上で、あんな話をしていた、ということだ。要は、今までのすべてがただの茶番だった、というわけだ。
「それは国家秘密なのでお答え出来ませ~ん。ただ、闇の中にも影は差す、って言うでしょ? まっ、そういうことよ」
それは実質答えているようなものだと思うが……つまりは、そういう感じの奴がこの国にはいる、ということだ。
そいつが必ずしも俺個人を監視しているかどうかは別として、人の動向などを調べる機関がこの国にはあるということなのだろう。
それも、かなり優秀な、だ。そして、それらを知り得る立場にマレアはいる、と。
まぁ、喩え俺を監視しているとしても、俺としては別にどうでもいい、という感じだがな。
探られて傷む腹があるわけでもなし。
ただ、先のミラちゃんとセレスの件のように、変な誤解を与えるような報告だけは絶対に止めて欲しいところだ。
変な容疑を掛けられるより、人としての尊厳を傷つけられる方が正直辛いっす……
俺はロリコンじゃねぇし、ボン、キュッ、ボンってしてる方が好っきやねん。
ちなみに、マレアが言った、闇の中に何とかという言葉だが、意味を聞いたら、壁に耳あり障子に目あり的な、何処に何が潜んでいるか分からない、ということを喩えた慣用句らしい。
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