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二八九話
しおりを挟む「……以上三五名が、今回の視察団になります」
所は食堂にて。
先触れの連絡から程なくして視察団の一行が屋敷に到着し、俺は視察団の代表者から、その一人ひとりの紹介を延々と聞かされれるはめになってしまっていた……
立場的にも一応の責任者ということもあり「いえ、結構です」、なんていえる状況でもなかったからな……
にしても、流石に三五名ともなると、紹介を受けるだけでもとんでもなく時間が掛かったな。
ここにいる誰々は何々の研究の第一人者で、これこれの分野に詳しいです。
とか、説明を受けても、ぶっちゃけ知らんがな、としかいいようがないうえ、流石にそんなに一度に覚えられないので、紹介された端から忘れて行く始末……
……あ~、しんどかった。
ちなみに、なんで集まっているのが食堂なのかというと、単純に屋敷の中でここが一番広い場所だからだ。
集まった人数が三〇人越えともなれば、俺の執務室兼寝室では到底収まりきるはずもない。
まぁ、厳密には他にも大きな広間はあるのだが、まだ整備が整っていないのでとても人を通せるような状態ではなかったから、というのも理由の一つだ。
にしても、三五名もの紹介を延々受けることになったのも驚きだが、それ以上に驚かされたのが……
「で? 何故に女王様がここに?」
その代表者がノールデン王国の女王陛下こと、プレセア本人だったということだろうか。
「勿論、視察ですよ? 我が国始まって以来の歴史的発見ですからね。ぜひ、自分の目で実物を確かめたいと思いまして。
それと、女王などとそんな畏まらず、以前の様に、プレセア、と気軽にお呼びくださいませ、スグミ様」
と、プレセアがニコリと軽く笑みを浮かべると、そう、悪びれた様子も無くしれっと答えたのだった。
そして、女王陛下直々のご紹介とあり、紹介される学者連中も無駄にガチガチになっていたっていうね……
「あの……ラルグスさん? プレセアが来るとは聞いていなんですが?」
そう、プレセアの対面に座っていたラルグスさんに抗議も兼ねてそう言及する。
ちなみに、現在の席順としては、長いテーブルの一番端っこに俺が一人で座り、その後ろに補助要員としてセレスが椅子に座る形で控えている。
これは俺がつまらないポカをしないようにするための保険である。
で、その右隣に先頭にプレセアが、左隣の先頭にラルグスさんが、そしてその後ろに視察団の面々が均等に並んでいる、というような状態になっていた。
事前の連絡では、ラルグスさんと視察団のみの訪問だと、俺は侍女隊……というかマレアからそう聞かされていたからな。
しかし、実際に出迎えてみればコレである。
この件に関しては侍女隊も寝耳に水だったようで、視察団の馬車からプレセアが出て来た時は、出迎えに立っていた侍女達の間でちょっとしたパニックが起きていたくらいだったからな。
そんな中、唯一冷静に対応していたのがマレアだっていうね……
平然と「あれ? 陛下? こんなところに何しに来たの?」とか、当たり前みたいに話し掛けていたからな。
まぁ、そう聞いていた辺り、マレア自身もプレセアが来ることは知らされていなかったのだろうな。
それにしても、だ。
マレアが女王付き侍女、という話しは聞いてはいたが、性格がアレな所為で話を盛っているのかと、半ば信じていなかったのだが……
二人が親しく話している姿を見るに、どうやら嘘でもハッタリでもなかったようだ。
余談だが、二日酔いでへばっていたマレアだが、視察団の本体が到着するちょっと前にギリギリで復活……というか、なんとかベッドから這い出して来ていた。
これは別にマレアが仕事熱心だから、とかそういう殊勝なことではなく、単純にラルグスさんが訪問するとあって、変な姿を見せるわけにはいかなかったからだろう。
聞く限りでは、現在のマレアの直属の上司がラルグスさんで、そんな人の前で二日酔いでへばっているみっともない姿など、とてもではないが見せられるものではなく、もし見られでもしたら、お説教や減給では済まないくらいのお叱りを受けることになるとかなんとか。
そんな話を侍女達がしているのを、ちらっと聞いていた。
なので、それを回避する為にも死に体の体にムチを打って無理やりにでも起きて来た、というわけだ。
まぁ、マレアに関しては自業自得以外のなにものでもないんだがな。
「一国の元首の動向を、そう易々と話せるとでも思っているのか?」
なんてことはさておき。
抗議も空しく、ラルグスさんからは、何を当たり前な事を? と言わんばかりにそう軽く返されてしまった。
まぁ、ラルグスさんの言わんとしてることは分からんでもないが……
日本だと首相動向として、昨日一日どう行動した、とか、今後の予定はこうなっている、とか普通に発表されたりしているが、プレセアの場合はガチで命を狙われているみたいだし、ほんの些細な情報漏洩から暗殺に繋がらないとも限らない、というのは理解する。
国家元首が、何時何時何処何処に行きますよ、なんてそのタイミングで狙って下さい、といっているようなものだ。
とはいえ、突然の国家のトップの訪問だ。
俺はそこまでではないにしろ、研究員や侍女、そうした周囲の人達が緊張のあまりガタガタと震えながら顔を青くしているのは、見ていてなんとも忍びないところではあった。
少しはどうにかならなかったものだろうかと、思わずにはいられない。
約一匹。まったく違う理由で顔を青くしている奴がいるが、そっちは同情の余地もないのでスルーである。
で、紹介やら挨拶も一通り終わったところで、プレセアの隣に座っていた白髭のおじいちゃんから、早く現物が見たい、という発言があったので、話もそこそこに早々に解体場へと移動することになった。
ちなみに、視察団としての代表はプレセアだが、研究団の代表はこのおじいちゃんであるらしい。
なんでも魔獣生物学の権威とかなんとか……説明を聞いてはいたが既にうろ覚えとなっていた。
まぁ、プレセアの隣に座っていた段階で、なんとなく偉い人だろうと予想は出来てたけど……
というわけで早速解体場に案内するも、現物は亜空間倉庫の中なので解体場は当然もぬけのカラ。
その光景に、どういうことだ、とざわつく研究員達。
その場を鎮める為に一通りの説明をした上で、現物の取り出しして見せれば……途端に静かになった。
息を飲む、という慣用句があるが、まさにこういう瞬間をいうのだろうと、妙に実感したよ。
その大きさ、迫力に、全員目が点になっているか、だらしくなく口が開きっぱなしになっている姿はなかなかに滑稽だったがな。
で、俺の仕事はここまで。
後はじゃあおませで、となった途端、研究者達が思い出したように一斉に慌ただしく動き出して行った。
「あれ? セレスも行くかと思ったんだが……行かなくていいのか?」
「私は一度、一通り見てるもの。この程度なら今更って感じかしら?」
同じ研究者だからセレスも乗っかるかと思ったんだが、そうでもなかったようだ。
代わりに、といってはなんだが……
「これが伝説と言われたベルへモス……ですか……」
「こうして改めて見ると、とてもではないが人の力でどうこう出来る生き物とは思えんな……」
プレセアとラルグスさんが、傍らで食い入るようにベルへモスを見上げていた。
そういえば、二人共鏡越しでは見ていたが、こうして実物を目の前にするのは初めてだったな。
そりゃ、鏡の画面越しに見るのと、実際に目にするのとでは迫力が違うだろうよ、迫力が。
実物特有の威圧感というものは、やはり実物を見ないと分からないものだ。
「ところでスグミ様。不躾というのは承知のうえで、一つ、お願いをしてもよろしいでしょうか?」
暫くベルへモスを見上げていたプレセアだったが、満足したのかその視線を俺へと向け直してそんなことを言って来た。
「お願い? まぁ、内容にもよるけど……なんだ?」
「はい。ベルへモスを討ったという赤きドラゴンや、黒き騎士など、スグミ様が所有している人形を、是非、この目で拝見できないものかと思いまして」
「ん~まぁ、それくらいなら……」
「有難う御座います」
ということで軽く了承。
もっととんでもなお願いをされるかと身構えていたのたが、そんなことは無かったでゴザル。
しかし、黒騎士はいいとしてもマキナバハムートをここで出すわけにも行かないので、一旦、近くにある俺の工房へと移動することにした。
「さぁ、どうぞ」
で、扉のユーザー認証のロックを解除して、四人を連れていざ工房中へ。
なんだかんだで、プレセアとラルグスさん以外にセレスとマレアまで俺に着いて来ていたからな。
「こっちには付いてくるのな?」
で、しれっと着いて来ていたセレスにそう声を掛ける。
「むしろ、向こうより興味があるわね」
とのことだった。
中に入ったところで、照明のスイッチをオンにする。途端、薄暗かった室内が明るく照らし出された。
「これは……魔道具による明かりか?」
「はぁ~、なんだか見慣れない物が沢山あるのですね……」
入って早々、ラルグスさんは今点けたばかりの照明に、そしてプレセアは明るくなった工房内を見回しながら、それぞれそんな言葉を口にする。
現状はまだ、マキナバハムートは亜空間倉庫の中なので、特に何があるというわけでもないのが、それでも工作用の人形や道具は色々と置かれているので、プレセアとしてはそれらが気になるらしい。
ラルグスさんも声にこそ出さないものの、興味はあるようで視線が右へ左へと忙しなく動き回っていた。
「それじゃ、今からマキナバハムートを取り出すんで、少し離れてもらっていいですか?」
工房内をウロウロし出すプレセアとラルグスさんに一言釘を刺しつつ、四人を壁際へと押しやり、取り出し用の空間を確保したうえで、マキナバハムートを取り出した。
次いで、黒騎士、ドーカイテーオー、エテナイトと、主要な人形を取り出しては適当に配置していく。
他にも色々とあるのだが、今回はこのくらいで十分だろう。
というか、ベルへモスを取り出した直後ということもあり、これで俺のMPはほぼスッカラカンになってしまったのだ。てか、マキナバハムートの所為で殆どスペースもないしな。
俺の性分としては、何があってもすぐに対応出来るように、常に最低量のMPは残しておきたいのだが、今回は仕方なし、だな。
まぁ、本当にいざとなったらポーションで回復すればいいか。
「こうして近くで改めて見ると、とても大きいのですね……」
と、マキナバハムートを見上げてプレセアがぽつりと零す。
「近づいても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
今は各種関節など、確りロックをしてある状態であるうえ、伏せ姿勢なので突然倒れたりするような危険はないだろうと判断し許可を出す。
一応、破損して落下する恐れがあるようなたパーツは、事前に一通り確認して既に外してもあった。
作業中に落ちて来たら危ないからな。
で、そう許可を出すや、とっとっとっと足取りも軽くマキナバハムートへとプレセアが近づいて行った。
そして、その後をラルグスさんが追う。
何かあった際に、プレセアを守るため、というのもあるのだろうが……
ラルグスさんも揃ってマキナバハムートを見て回っている辺り、単純な好奇心という可能性も無くはない気がしないでもない。
で、残っていたマレアとセレスも、気付けば思い思いに勝手にマキナバハムートを弄り出していたっていうね……
こいつらにまで……特にマレアに許可を出した覚えはないのだか、今更咎めるのもあれなのでそのままにすることにした。
なにせ、マレアなんて気付いた時にはマキナバハムートの背中の上とかにいたしな。
マキナバハムートの外装には、ハシゴやタラップの様な外部から登れる設備は一切ないはずなのだが……
マジどうやってあそこ行ったんだよ、あいつ……
その後は、セリカから中に入れると聞いたから入ってみたい、とか、動いているところが見たい、などなど……
プレセアからいくつか要求されたので、いつしかそれに一つ一つ応えていくという流れになっていってしまった。
しかしなんというか……
マキナバハムートを前にはしゃぐプレセアの姿を見るに、最早、遊園地のアトラクションに乗る子どものそれであった。
ベルへモスの視察というのは単なる方便で、本当はマキナバハムートが見たかっただけなのではないと邪推してしまうほどだ。
ただ、プレセア以上にはしゃいでるマレア。お前はもう少し落ち着け。プレセアより年上だろうが。
てか、二日酔いはどうした? 二日酔いはっ!
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