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三〇九話
しおりを挟む百貫百足の内部は、大きく二つのエリアに分類分けされている。
一つは、頭付近の保管庫エリア。
ここは、回収した瓦礫を一時保管するためのエリアである。
頭部、第二節、第三節の三つを倉庫化出来るようにしているが、回収した瓦礫の量が思ったより少なく済んだ為、現状は頭部のみを使用している。
そしてもう一つは、百貫百足の体の中央にある生活エリアだ。
こちらも倉庫エリア同様、全体で三つの節から構成されており、一つ一つの節にそれぞれの機能が備えつけられた空間が用意されている。
構成は、まず最初にあるのが、百貫百足を操作する為の操作ルーム。次に生活に必要な機能が備わった居住スペース、そして最後が寝室となっている。
操作ルームについてはもはや言わずもがなではあるが、ここは遺跡の探索中、主に俺達が居た場所だ。
俺が百貫百足を操る為の専用のシート、外の風景を見るための六枚のモニター、それ以外だと、簡単な会議が出来るよう、小さめだがテーブルとイス、ソファーなどが設置されている。
このソファーだが、今回は主にマレアがゴロゴロするために利用されてしまっていたがな……
また、乗降用のハッチがあるのもこの部屋である。
何だかんだで梯子が結構なスペースを食ってしまうので、外と繋がる部屋はこの場所のみなっている。
これは余談だか、百貫百足の稼働中の安全対策として、一応、俺専用シートだけでなくすべての座席にシートベルトが完備されている。
それは、操作ルームだけではなく、居住スペース、寝室、それらを含めてすべてだ。
なんなら、一応だがベッドにも固定用のハーネスが取り付けられているくらいだ。
なので勿論、セレスが噛り付いていたモニター席にも、マレアが転がっていたソファーにもシートベルトは設置されていた。
ただ……なぁ。
セレスはちゃんとシートベルトをしていたようだが、結局マレアはしていないかったみたいだ。
あっちをうろうろ、こっちをうろうろ、終いにはソファーでゴロゴロしていたと、探索中にセレスがそんなことを話していたことを思い出す。
今回はそこまで派手に動くことはなかったが、そのうちケガしても知らんからな?
こうした過剰とも思えるシートベルトの設置だが、実は安全対策という意味以外にももう一つ理由があった。
どちらかというとこちらが本命ともいえるのだが……
それが、俺が得た新しいスキル【一機入魂】をどこに居ても使えるようにする為だった。
【一機入魂】を使用すると、俺自身の体の自由が利かなくなってしまうため、完全に体を固定出来る様な安全な場所でなくては、使うのは逆に危険となってしまうのだ。
体を固定しなかったことで勝手に転がり、それでケガでもしたら目も当てられないからな。
かといって、いざという時、一々操作ルームの専用シートまで行って……では手間が掛かる為、何処に居ても簡単に体を固定出来る様、シートベルト付きの座席を数多く用意している、というわけだ。
で、その操作ルームから続いているのが、居住スペースである。
リビング、キッチン、トイレにシャワー室。
一応、シャワー室には長期滞在も考慮して、洗濯も出来るような設備……手動式の簡易洗濯機のようなものも設置しておいた。
流石に全自動は無理だったが、洗濯、脱水は勿論、乾燥まで出来る優れものである。
しかし、これだけの設備を狭いスペースに詰め込んだので、流石に三人ではやや手狭に感じるが、それでも生活に必要な設備は一通り揃っている感じに仕上がっていた。
ちなみに、探索中に必要な食料や水などはすべてチェストボックスの中にインされているので、キッチンとはいえ食料などがここに置かれているわけではない。
まぁ、多少の飲料水くらいはピッチャーに入れて置かれていたが、その程度だ。
しかも、メイドさん達に頼んで大量に調理済みの料理を用意してもらったので、基本自炊もしないで済むようになっている。
俺たちは食べるだけである。
なら、何の為のキッチンかといえば、主に洗い物をするのが目的だ。流石に、汚れた食器をそのまま返すってもアレだしな。
一応、コンロも設置されているので、料理が冷めてしまった場合など、温めなおしたりも出来るようにはなっている。
なので、食材さえあれば、自炊もしようと思えば出来ないこともない。
が、設備が整っていることと、それが可能なことは必ずしも=ではないのである。
なにせ、この場に居るのが俺、セレス、マレアだぜ?
この中に自炊スキルがある奴がいるかと聞かれるとなぁ……
俺は論外として、セレスは自炊不要の社員寮暮らしだと聞いているし、マレアはメイドではあるが、こいつが料理が出来るというイメージがそもそも湧いてこないという不思議。
二人の料理スキルについて確認したわけではないが、まぁ、自炊に関してはほぼほぼ絶望的であると思っていいだろう。
それに、今回は食料に関しては出来あえを大量に用意済みなので、その点を心配する必要もないしな。
そして、最後尾にあるのが寝室だ。ベッドしかないので、本当に寝る為だけの場所である。
一人一部屋、なんて大きなスペースは確保出来ないので、カプセルホテルの様に一人サイズのボックス型の寝床が縦に三つ重なっている様な作りになっている。
一応、寝台車をイメージして作ってみた感じだ。
……まぁ、実際に乗ったことはないんだがな。
ちなみに、一番下が俺で、一番上がマレアである。というわけで、残った真ん中がセレスだ。
なんかマレアの奴、妙に一番上に拘ってたんだよなぁ……
それこそ、小さな子が二段ベッドの上に乗りたがる、みたいな心境ではなかろうか?
いい年して、子供か? お前、二三やろ? といいたくなる。
俺が一番下なのは、単純に梯子を上り下りするのが面倒だったからだ。毎度寝起きにいちいち梯子を下りるなんてしたくはない。
一応、私物などをしまえるロッカーなどもベッドの横に設置されているので、個々人の荷物に関しては主にここに収納されている。
で、そのロッカーにはそれぞれセレス、マレア、と各自の名前が直に書き込まれているっていうね……
そう、直に、な……
別にいいけど……直に書くのはどうかと思うぞ? 直に書くのは。
準備段階で、二人がせっせと何かを運んでいる姿は見ているので、中に何かが入ってるのは間違いないと思うが……何を持ち込んだのかまでは、流石に知らん。
特に荷物検査などをしたわけでもないし。それに、女性の荷物を検査するってのもなぁ……マナー違反な気がする。
まぁ、流石に二人に限って危険物とかは持ち込んではいないだろうから大丈夫だろ。
ただ、ロッカーに関しては俺の分はなしである。
そもそも、亜空間倉庫やらチェストボックスなど、大量収納が可能な俺には実質不要なものだからな。
なので、ロッカーはセレスとマレアの二人分だけとなっていた。
で、この三つのエリアが通路で繋がっている、というのが生活エリアの全容である。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
「ふぅ~、食べた食べたぁ~♪」
メイドさんズお手製の夕食を綺麗に平らげると、マレアの奴は自分が使った食器もそのままに、近くに設置されていたソファーへと飛び乗り転がりだした。
角度が角度だけに、俺からはスカートの中身が丸見えになったのだが、下に履いていたのがドロワーズ……俗に、かぼちゃパンツと呼ばれるそれであるため、色気もクソもない。
なら、パンツが見えていたら嬉しいのかというと……マレアだからなぁ……
中身が大人でも見た目は幼女なので、ノーサンキューな方向でお願いします。
「自分の食器ぐらい片付けたらどうだ?」
「スグミくんヨロ~」
そんな、かぼパン晒してゴロゴロするマレアに呆れの眼差しを向けつつ、一言。
されどマレアは気にした様子もなく、小さくパタパタと手を振るだけだった。
「ヨロ~、じゃねぇよ……お前はメイドだろうが?」
「今のあたしはスグミくん監視要員なのですっ! なので、メイドのマレアちゃんは休業中なのですっ! なのですっ!」
何が休業中なのです、だ。じゃあ、なんでメイド服着てんだよ? とツッコミたくもなるが、こいつに何を言っても無駄なんだろうなぁ……という気もする。
なので、こういう場合は権力に訴えるのが一番だ。
「あんまサボってると、プレセアかラルグスさんに言いつけるぞ?」
「はいはい。つまりは抱かせろってことね」
「……何故そうなった?」
マレアの意味不明な結論に、脳内が宇宙ネコになり思考が停止する。
「え? 黙ってる代わりに体を要求して来た、ってことじゃないの?」
そんなマレアの言葉に、背後から妙に冷えた視線を感じるが、振り返ったら面倒なことになりそうなので知らないふりをする。
「……普通に働けと言ってる」
「えぇ~、やだぁ~。働くくらいならスグミに抱かれてた方がましだよぉ~」
なんてアホなことを言い出しては、手足をバタつかせて喚き散らす。見た目はまるで駄々っ子のそれである。
まぁ、マレアのことだから半分以上は質の悪い冗談なんだろうが……
「冗談にしてもセンスがないぞ。未成年者が居るんだから言葉には気をつけろ」
と、ここでマレアの言葉が冗談であるということを明確化しておく。
でないと、在らぬ嫌疑をかけられても困るからな。
「ぶ~。まったく、スグミくんはお堅いんだから……硬くするのは……」
「おっと、そこまでだ。それ以上言ったらマジでないことないこと付け加えてラルグスさんに報告するからな? 覚悟しろよ?」
マレアから不穏な発言を察して、直前で止めに入る。これ以上口を開かせると何を言い出すか分からんからな。
「……ないこいないことってそれもうただの捏造じゃん? この人、本気で脅しに来たよ……」
「お前が悪いんだろうが? これからは短くない期間一緒に生活することになるんだから、最低限のことはちゃんとしろ? いいな?」
「へいへ~い。もぉ、スグミくんもアンジーみたいなこと言うんだから……」
なんとも頼りない返事だが、マレアとて別に敢えて俺との関係性を悪化させるメリットもないので、今後はちゃんとしてくれるだろうと期待することにした。
ちなみに、アンジーとはセリカの愛称だ。確か、本名がアンジェリカ? なんだっけか?
その後、話し合いで食後の片づけは当番制ということが決まり、今日はセレス、明日は俺、で明後日がマレア、というローテーションが組まれることとなった。
というわけで、初日の当番であるセレスが食器の片付をすることに。
「ねぇ? さっき、一度通れば内部構造を記憶出来る、って言ってたけど、あれって本当なの?」
片づけが終わったのか、洗い終わった食器を手に、テーブルに座り寛いでいた俺の所へ、セレスがそんなことを聞きながら近づいてきた。
確か……遺跡を探索している時に、セレスからどうして道に迷わないのか? と聞かれた時に、そんな話しをした覚えがある。
「ああ、記憶してるよ。でも、それがどうかしたのか?」
綺麗になった食器を預かり、近くに設置しておいたチェストボックスにしまいつつそう聞き返す。
食料が入ったチェストボックスに関しては、いちいち出し入れするのも面倒なので、キッチンの近くに置きっぱにすることにしたのだ。
サイズがサイズだけにちょっと邪魔だけどな。
「もし記憶してるなら、それを地図に起こすことって可能かしら?」
そう言いながら、セレスは俺が座っていたテーブルの対面に腰を下ろした。
話しを聞くと、なんでもセレスは地図を描くのはあまり得意ではないらしいのだ。
ここに辿り着くまで何処をどう通って来たか、それは鮮明に覚えているそうなのだが、それをいざ地図に起こすとなると、縮尺が滅茶苦茶となり上手く図にすることが出来ないのだと言う。
地図描くの下手な人あるあるだな。それで代わりに俺に地図を描いてほしいと、そういうことらしい。
他にも、刺繍など指先を動かす技術などは、知識はあっても上手く出来ず、そういうものは不得手なのだと話してくれた。
一見、完璧超人に見えたセレスにも、苦手なものというのはあるらしい。
「にしても、ちょっと意外だな」
「何が?」
「そうやって不得意な分野を話すことが、だよ。
セレスって……こう、周囲の目とか気にしそうだから、自分が出来ないこととか苦手なこって隠しそうな気がしてたんだが……」
セレスは子供だからと、今まで周囲からは色々と言われて来たみたいだからな。
そういう、自分の弱みになりそうなことは口にしない、みたいなものが俺の中にはあったのだ。
「そんな見栄を張ったところで仕方ないじゃない?
出来ないものは出来ないし、苦手なものは苦手だもの。
逆に、出来もしないことを出来ると言って、失敗する方がよっぽど恥ずかしいと思うのだけど?」
ご高説ごもっともですな。
「大体、そうやって互いに出来ることを持ち寄って生まれたのが組織でしょ?
自分に出来ないことは、出来る人に任せればいいのよ。その方が効率的じゃない」
ご高説ごもっともですな。
「そうは言っても、世の中色々と柵があってねぇ……
苦手なことがバレればそこをバカにされたり、付け込まれたり……この世界、綺麗ごとばかりじゃ生きていけなのだよ。
でも、セレっちはそのまま真っ直ぐに育って欲しい」
と、ソファーに転がっていたマレアがそんなことを言う。
マレアが妙にしみじみと口にしているが、仕事柄、色々なことを見聞きしてきたマレアなりに、何か思うところがあるのかもしれないな。
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