しましま猫の届け物

ひろか

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06・しましまさんの縁結びー2

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「天神祭かぁ、懐かしいなぁ」

 子供のころから毎年三人で行った夏祭り。
 楽しかった思い出はたくさんあるけど、やっぱり思い出すのは総司そうじくんのことだ。
 彼は残念なほど不器用だった。
 りんごの皮を剥けば実がなくなるほどで、そんな彼が金魚すくいに挑戦した時は、予想通り一匹も取れず、ポイが全滅した。

「コレで最後にしてくれって、怒られたっけ」

 ムキになって何度も挑戦する総司くんに、屋台のおじさんも呆れていた。

 総司くんと町を出て以来、一度も天神祭には行っていなかった。


 庭に出ると朝顔が開いていた。青い花が二つ。
 植えるのが遅かったけれど元気に咲いてくれた。まだ蕾が二つ、咲くのが楽しみだ。

 縁側を水拭きしていると「うるにゃん」しましまさんの誘惑。
 ふわふわのお腹が。ゆらゆら誘う尻尾が。

「くぅっ! しましまさぁーん!」

 もふもふに顔を埋めお日様の匂いを堪能した。

 今日も敗北。
 掃除は進まない。


 庭の畑の世話してると女の人が訪ねてきた。足元では、しましまさんが身体を擦り寄せているから、きっとこの人が手紙の人なのだろう。

「こんにちは、あの、小宮さんからここに私宛の手紙が届いているって、聞いたんですが」

 小宮は桐矢くんの苗字。

「はい、芦田ヨウコさんですね」
「あ、いえ、沖野です、今は……」

 “芦田”は十七歳まで名乗っていたそうで、お母さんの再婚と同時に隣の県へ引っ越したとの話だった。ここに戻ってくるのは七年ぶりになると。

 冷たい麦茶を用意し、縁側に腰を掛けた。
 しましまさんは定位置のお座布にごろん。長い尻尾を左右に揺らしている。

「手紙はこれなんです」
「え……」

 色あせた、古い手紙をに、ぽかんと口を開ける沖野さん。「確かに、私宛ですね……」と、受け取り首を傾げる姿に、困惑している様子が見える。

「あのね、信じられないかもしれないけど、この猫、しましまさんは毎日どこからかいろんな物を拾ってくるの」

 沖野さんはカゴを覗き「わぁ」と声をあげた。

「すごい、賢いにゃんちゃんなんですね」
「にゃあ」

 自慢げに胸をそらせるしましまさん。
 その様子に笑いながら沖野さんは手紙を開き、すぐに「わぁぁ」と手紙で顔を隠した。

「天神祭……明日ですよね」
「ええ、そうね」

「大杉で待ってますって、天神祭に一緒に行こうって、デートの誘いでした! 七年前の!」
「……」

 七年前のデートの誘い、それって……。

 しましまさんは足を高く上げ毛づくろいを始めていた。

「Mって三島くんかー、懐かしー……、同級で、クラスは別だったんですけど、同じ委員会で、よく話するようになって……、なんとなくいいなーって思ってた人でした」

 うわぁ、なにそれ、私までドキドキしてきた。

「天神祭前に私、引っ越しちゃったんですけどね。ああー、もったいない! デートに誘われたの初めてなのに、運ないなー、はは……縁なかったのかなー……」

 空を仰ぐ沖野さんを、しましまさんも目を細めて眺めていた。

 しましまさんの拾い物には意味がある。

「繋がっているんじゃないかな……」
「え?」

 しましまさんが届けてくれたのもだから。

「まだ縁は繋がってんじゃないかな」
「にゃん」

 沖野さんの膝にしましまさんが身体をすり寄せる。

 ほら、しましまさんも大丈夫って言ってる。

「偶然かもしれなけど、七年も経って手紙が届いたなんて、縁があるって、そう思いたいなって……」
「……そうですね、ふふ」

 沖野さんは向日葵のような笑顔を見せてくれた。

「ダメ元で待ち合わせ場所に行ってみます!」
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