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15・おつかい猫のしましまさん
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「メロン冷やしといて」
「あらっ、立派なメロン、どしたの、これ」
「ユキに貰った」
はぁ? という母さんの顔から“あんた何 買わせてんの”の表情。
「違うって! ユキが二玉貰ったけど、食いきれないからって、くれたんだよ」
「それならいいけど」と、大きなため息。
「なんで、いい歳した男が、こんな明るい内から帰ってくるのかねー」
「…………」
「二人で帰ってくるならまだしも、一人ぼっちって」
「…………」
「ふん、ヘタレんぼめ」
「っ!?」
ウチの両親にはユキへの気持ちがバレバレだ。まぁ、あれだけ子供の頃から一緒にいるのを見ていれば、まる分かりなのだろうが、ユキがウチに嫁に来る、というのも、当然のように決めつけている。
「とぉやぁ、何かね、もぉ帰ったんかね」
次はばーちゃんだ。
オレの後ろを覗き込むように顔を傾け、一人であることを見れば、鼻で笑った。
「このヘェタレが」
「!!」
脱力して部屋に戻り、押入れを開いた。
大小あるダンボール箱を次々に出し、開けていく。
「あ、この漫画ここにあったのか……」
捲ると、懐かしさにそのまま読み入ってしまい……。
「じゃなくてっ! どこだ、これか? 絶対捨ててないんだ、よっと、あった」
大きなおかきの缶から出てきたのは、総兄との秘密だった。
「はは、やっぱりクモの巣にしかみえねーって、総兄……」
それは、総兄が小五の図工の授業で作った、雪の結晶を彫ったハンコと、
「……」
オレが小五になって作ったハンコだった。
「なぁ、トウヤ……これ、何に見える?」
総兄の顔は暗かった。そう云い手渡したハンコに、小三のオレは真っ直ぐ素直だった。
「クモの巣!」
「……」
総兄の顔を見て違うと気づき、連想した。
総兄が好きなもの、と、そう考えればすぐにユキに直結して、雪、気づけば図鑑で見たソレにしか見えなくなって、
「雪の結晶……」
オレの言葉にホッとした総兄に、これはユキにあげたくて作ったものだと、そう繋がった。
ユキに渡して欲しくなかった。
その感情は嫉妬だと今では分かる。ユキの特別を作って欲しくなかった。
「すごい! 総兄これちょーだい!」
無邪気に、そう強請った。
総兄は困った顔をしながらも、二つ年下の弟分にハンコを譲ってくれた。
罪悪感からそれはいつまでも心に残り、二年後、図工の授業でオレが彫ったのは、雪の結晶だった。
手先が器用だと言われるオレの作ったソレは、誰が見ても雪の結晶にしか見えない出来栄えで、しかし、ユキに渡すことも出来ず、総兄にも見せることも出来ず、苦い思いと共に、総兄のハンコと一緒にこの缶の中に隠したのだった。
タンッ!
「うわぁっ!?」
外から網戸を引き開けたのは、しましま!
「わ、え、おま……」
のっそりと重たい体で窓から侵入し、とん、と、床に飛び降りる姿は軽やかだった。
「えー……、しましまぁ……、お前、そーやって入ってくんの?」
のそりのそりと足元まで来て、半眼で見上げるしましまの視線は、
シャ!
「うわ!」
しましまの狙いはハンコだった。
飛びかかり、何度もハンコ目掛けて爪を出すしましま。
「ダメだって! コレはやらんからな!」
イカ耳で不満げなしましまの尻尾が床を叩く。
たしん! たしん! たしん!
「オレからユキに渡すから!」
その言葉にイカ耳が立った。
「にゃぁ」
その声はまるで、本当か? と問うているかのようで、
「本当だ」
と、言ったのに、しましまは半眼で尻尾を揺らして、
シャ!
また爪が出た。
こいつ、しつこい! しましまはハンコ目掛けて何度も手を出してくる!
「ちょ、やめろって!」
その攻防を止めたのは十七時のサイレンだった。
しましまは不服そうに窓枠に飛び上がり、たしん! と、尻尾で壁を打ちつけ、出て行った。
「何なんだ……あいつは」
オレは手にある二つのハンコ見つめ、ため息をついた。
しばらく考え、オレは自分の作ったハンコを缶に戻した。
渡すのは総兄のだけでいい。そう思って行ったユキの処で、
「桐矢くんのはくれないの?」
と、その言葉は不意打ちで、言い訳なんて何も用意してないオレは、どんな顔して何を言ったのか、記憶に全くないのだけれど……。
「あらっ、立派なメロン、どしたの、これ」
「ユキに貰った」
はぁ? という母さんの顔から“あんた何 買わせてんの”の表情。
「違うって! ユキが二玉貰ったけど、食いきれないからって、くれたんだよ」
「それならいいけど」と、大きなため息。
「なんで、いい歳した男が、こんな明るい内から帰ってくるのかねー」
「…………」
「二人で帰ってくるならまだしも、一人ぼっちって」
「…………」
「ふん、ヘタレんぼめ」
「っ!?」
ウチの両親にはユキへの気持ちがバレバレだ。まぁ、あれだけ子供の頃から一緒にいるのを見ていれば、まる分かりなのだろうが、ユキがウチに嫁に来る、というのも、当然のように決めつけている。
「とぉやぁ、何かね、もぉ帰ったんかね」
次はばーちゃんだ。
オレの後ろを覗き込むように顔を傾け、一人であることを見れば、鼻で笑った。
「このヘェタレが」
「!!」
脱力して部屋に戻り、押入れを開いた。
大小あるダンボール箱を次々に出し、開けていく。
「あ、この漫画ここにあったのか……」
捲ると、懐かしさにそのまま読み入ってしまい……。
「じゃなくてっ! どこだ、これか? 絶対捨ててないんだ、よっと、あった」
大きなおかきの缶から出てきたのは、総兄との秘密だった。
「はは、やっぱりクモの巣にしかみえねーって、総兄……」
それは、総兄が小五の図工の授業で作った、雪の結晶を彫ったハンコと、
「……」
オレが小五になって作ったハンコだった。
「なぁ、トウヤ……これ、何に見える?」
総兄の顔は暗かった。そう云い手渡したハンコに、小三のオレは真っ直ぐ素直だった。
「クモの巣!」
「……」
総兄の顔を見て違うと気づき、連想した。
総兄が好きなもの、と、そう考えればすぐにユキに直結して、雪、気づけば図鑑で見たソレにしか見えなくなって、
「雪の結晶……」
オレの言葉にホッとした総兄に、これはユキにあげたくて作ったものだと、そう繋がった。
ユキに渡して欲しくなかった。
その感情は嫉妬だと今では分かる。ユキの特別を作って欲しくなかった。
「すごい! 総兄これちょーだい!」
無邪気に、そう強請った。
総兄は困った顔をしながらも、二つ年下の弟分にハンコを譲ってくれた。
罪悪感からそれはいつまでも心に残り、二年後、図工の授業でオレが彫ったのは、雪の結晶だった。
手先が器用だと言われるオレの作ったソレは、誰が見ても雪の結晶にしか見えない出来栄えで、しかし、ユキに渡すことも出来ず、総兄にも見せることも出来ず、苦い思いと共に、総兄のハンコと一緒にこの缶の中に隠したのだった。
タンッ!
「うわぁっ!?」
外から網戸を引き開けたのは、しましま!
「わ、え、おま……」
のっそりと重たい体で窓から侵入し、とん、と、床に飛び降りる姿は軽やかだった。
「えー……、しましまぁ……、お前、そーやって入ってくんの?」
のそりのそりと足元まで来て、半眼で見上げるしましまの視線は、
シャ!
「うわ!」
しましまの狙いはハンコだった。
飛びかかり、何度もハンコ目掛けて爪を出すしましま。
「ダメだって! コレはやらんからな!」
イカ耳で不満げなしましまの尻尾が床を叩く。
たしん! たしん! たしん!
「オレからユキに渡すから!」
その言葉にイカ耳が立った。
「にゃぁ」
その声はまるで、本当か? と問うているかのようで、
「本当だ」
と、言ったのに、しましまは半眼で尻尾を揺らして、
シャ!
また爪が出た。
こいつ、しつこい! しましまはハンコ目掛けて何度も手を出してくる!
「ちょ、やめろって!」
その攻防を止めたのは十七時のサイレンだった。
しましまは不服そうに窓枠に飛び上がり、たしん! と、尻尾で壁を打ちつけ、出て行った。
「何なんだ……あいつは」
オレは手にある二つのハンコ見つめ、ため息をついた。
しばらく考え、オレは自分の作ったハンコを缶に戻した。
渡すのは総兄のだけでいい。そう思って行ったユキの処で、
「桐矢くんのはくれないの?」
と、その言葉は不意打ちで、言い訳なんて何も用意してないオレは、どんな顔して何を言ったのか、記憶に全くないのだけれど……。
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