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2・バレた……
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「ただいま! ミヤ!」
片手にはお土産のおやつ。そして両手を広げ玄関でハグ体制!「おかえりなさい!」と駆けてくるカワイイカワイイ最愛の彼女!
彼女のふわっふわっな胸に顔を埋めれば、一日の疲れが吹き飛ぶ。――なのに。
「ミヤ?」
彼女は丸い目を大きく見開き、オレの二メートルも前で立ち竦んでいた。
「ミ、ミヤコ?」
伸ばした手を避けるように後ずさる彼女。
「ど、どうしたんだい? ミヤ? ミ、ミヤコ!?」
踵を返したミヤを追い寝室へ行くと、彼女は布団に潜り込んでいた。
「ミヤ?」
こんなこと初めてだった。だから、彼女の行動に、いつもと違う彼女に、オレは気付いてしまった。
「ま、さか……」
コートの襟元、袖を嗅ぐ。
――残り香?
慌ててコートを脱ぎ捨て、ミヤコが被った布団を捲るが、
「ミっ」
パシッ
伸ばした手はミヤコに振り払われてしまった。
「ミ、ミヤコ、違う、待って、ミヤ!」
キッチンで、背を向けたままのミヤコに、オレは、かける言葉を失った。
彼女に、浮気が、バレました。
***
「なぁ、頼むよ! 須藤、お前しか頼めないんだって!」
手を合わせるのは幼馴染の大野トモヤ。
小中高と一緒だったが、大学は別となりそれっきり会うことも、連絡を取ることもなくなったヤツだったが、大野の出向という形で再び出会い、六年ぶりだったがなんの壁もなく、また、つるむようになった。
「お前だってあの店、興味持ってたんだろ? オレの彼女実家暮らしだからさ、こっち呼べないしさ、ぶっちゃけ溜まってんの。なぁ、須藤なら分かってくれるだろ?」
「……」
「一人じゃ、入りにくいっていうかさぁ、なぁ、一度だけでいいんだ、頼む!」
分かるよ。オレだって、もちろんミヤコが一番可愛いけど、そりゃ、他の子にも目が行く……。
「しょうがないな……、一度、だけだからな」
「感謝!」
しょうがないなと、大野に誘われたからと、オレは別に興味ないからと、なんていい訳で、実はオープン当初からその店のことは気になっていた。
彼女と同棲をしているオレにはそんな店に用はない、そう自分に言い聞かせていたのだ。ずっと。
人目を避けるように大野と訪れたその店は、オレの想像以上だった。
ミヤコとは違う、別格の魅力を持って彼女は、一番人気だというレナはオレを魅了した。
向けられた視線に、頬を寄せ甘く囁く声に、膝の上で甘える仕草に。オレは夢中になった。
勧められるままに上乗せ料金を払い、別室で彼女と二人きりの時間を過ごした。
ミヤコとは違う細くしなやかな肢体に、顔を埋め、堪能した。
気づけば、彼女のために、多くの金をその場で使ってしまっていた。
だが、後悔はなかった。
まさに夢のような、としか言えない満たされた時間だった。
余韻に浸りっぱなしの大野とは違い、夢から冷めれば、湧き上がるのはミヤコへの罪悪感だけだった。
いつもより遅くなってしまい、食事を取らずオレを待っているミヤコの姿が目に浮かび、小走りでマンションを目指した。途中、コンビニで彼女の好きなお菓子を買ったのはミヤコの喜ぶ顔が見たかったから。脳裏に焼き付いたレナの姿をミヤコで消してしまいたかったから。
なのに、レナの残り香にミヤコは気づいてしまった。
***
「おおのぉぉぉ」
「え、ちょ、なに!?」
休憩所で大野を締め上げる。
「お前のせいで、ミヤコにっ」
「えっ」
今朝も彼女は顔を合わせてくれなかった。
用意した食事もクチにしてもらえず、一人で食べるが、なんの味もしなかった。
「あ……まさか、気づかれた?」
恨みを込めた視線を向ければ、
「うっわ! え、匂い!? まじか、あぶっ! コートクリーニング出しとこ! うわぁっ、彼女実家暮らしで良かったぁ、バレたら最悪、あ、あぁぁ、悪かった! ゴメン! 謝る! まじ、すみません!」
言いながらも完全に人ごとで、面白がってる顔に本気でイラついた。
「これ、ミヤちゃんに」
「なに?」
大野の手には紙袋。
「ほんと、悪いと思ってるんだぜ? ここのケーキ、ミヤちゃんも好きだって言ってただろ?」
「は? あ、いや、そこまで」
大野の言うケーキ屋は一つ一つがとても小さく、可愛らしく、甘いもの苦手なオレもミヤと一緒に何度か食べたことのあるモノ。特に素材に気を使っており他の店の何倍もの値段がするモノだ。
昼休みを使いわざわざ買いに行ってくれた大野に、オレは慌てた。
思い返せば今朝のことは完全に八つ当たりだ。なのに、ここまで気を使わせてしまうと、申し訳なくなる。
店に誘われたとは言え、追加料金まで出し、レナとの時間を楽しんだのはオレなのだから……。
「大野、今朝はすまなかった」
「いいよ、誘ったのはオレだし、オレも、店に行ったこと彼女にバレたらって思うと、ゾッとした。ミヤちゃんと仲直りしてくれよ」
「あぁ」
***
見上げたマンションの暗い部屋の窓。
まだ、怒ってる……?
目も合わせてくれなかったミヤの姿が浮かび、足が重くなった。
音を立てないように扉を開け、た、瞬間!
「うるぐるにゃぁぁーん!」
「ミヤ!!!」
彼女は大野がくれたケーキ目掛けて飛びかかってきたのだ!
「ミヤ! ミヤコぉぉ!!」
良かった!
彼女は機嫌が戻ってる!
「ミヤ、待って、うんうん、すぐに出すからな? 一緒に食べような?」
「うにゃにゃにゃぁーん!」
「はは、待てって」
「うにゃぁーん、うるにゃはーん!」
大好物のケーキを堪能し、膝上で喉を鳴らすミヤの、肉付きのいい腹を撫でながら大野に感謝を伝えた。
「良かったよ、ミヤちゃん機嫌直ってさ、あー、オレも早くナナに会いたいよ、寂しがってオレのベッドで寝てんだって、もう泣きそ」
そう言い送られてきた画像には、ベッドで丸くなった太めのマンチカン。
あぁ、良いモフモフだな。うちのミヤの方が良いモフタプ具合だがな。
幸せそうなミヤの顔を見て、オレは、もう猫カフェには行かないと固く誓った夜だった。
片手にはお土産のおやつ。そして両手を広げ玄関でハグ体制!「おかえりなさい!」と駆けてくるカワイイカワイイ最愛の彼女!
彼女のふわっふわっな胸に顔を埋めれば、一日の疲れが吹き飛ぶ。――なのに。
「ミヤ?」
彼女は丸い目を大きく見開き、オレの二メートルも前で立ち竦んでいた。
「ミ、ミヤコ?」
伸ばした手を避けるように後ずさる彼女。
「ど、どうしたんだい? ミヤ? ミ、ミヤコ!?」
踵を返したミヤを追い寝室へ行くと、彼女は布団に潜り込んでいた。
「ミヤ?」
こんなこと初めてだった。だから、彼女の行動に、いつもと違う彼女に、オレは気付いてしまった。
「ま、さか……」
コートの襟元、袖を嗅ぐ。
――残り香?
慌ててコートを脱ぎ捨て、ミヤコが被った布団を捲るが、
「ミっ」
パシッ
伸ばした手はミヤコに振り払われてしまった。
「ミ、ミヤコ、違う、待って、ミヤ!」
キッチンで、背を向けたままのミヤコに、オレは、かける言葉を失った。
彼女に、浮気が、バレました。
***
「なぁ、頼むよ! 須藤、お前しか頼めないんだって!」
手を合わせるのは幼馴染の大野トモヤ。
小中高と一緒だったが、大学は別となりそれっきり会うことも、連絡を取ることもなくなったヤツだったが、大野の出向という形で再び出会い、六年ぶりだったがなんの壁もなく、また、つるむようになった。
「お前だってあの店、興味持ってたんだろ? オレの彼女実家暮らしだからさ、こっち呼べないしさ、ぶっちゃけ溜まってんの。なぁ、須藤なら分かってくれるだろ?」
「……」
「一人じゃ、入りにくいっていうかさぁ、なぁ、一度だけでいいんだ、頼む!」
分かるよ。オレだって、もちろんミヤコが一番可愛いけど、そりゃ、他の子にも目が行く……。
「しょうがないな……、一度、だけだからな」
「感謝!」
しょうがないなと、大野に誘われたからと、オレは別に興味ないからと、なんていい訳で、実はオープン当初からその店のことは気になっていた。
彼女と同棲をしているオレにはそんな店に用はない、そう自分に言い聞かせていたのだ。ずっと。
人目を避けるように大野と訪れたその店は、オレの想像以上だった。
ミヤコとは違う、別格の魅力を持って彼女は、一番人気だというレナはオレを魅了した。
向けられた視線に、頬を寄せ甘く囁く声に、膝の上で甘える仕草に。オレは夢中になった。
勧められるままに上乗せ料金を払い、別室で彼女と二人きりの時間を過ごした。
ミヤコとは違う細くしなやかな肢体に、顔を埋め、堪能した。
気づけば、彼女のために、多くの金をその場で使ってしまっていた。
だが、後悔はなかった。
まさに夢のような、としか言えない満たされた時間だった。
余韻に浸りっぱなしの大野とは違い、夢から冷めれば、湧き上がるのはミヤコへの罪悪感だけだった。
いつもより遅くなってしまい、食事を取らずオレを待っているミヤコの姿が目に浮かび、小走りでマンションを目指した。途中、コンビニで彼女の好きなお菓子を買ったのはミヤコの喜ぶ顔が見たかったから。脳裏に焼き付いたレナの姿をミヤコで消してしまいたかったから。
なのに、レナの残り香にミヤコは気づいてしまった。
***
「おおのぉぉぉ」
「え、ちょ、なに!?」
休憩所で大野を締め上げる。
「お前のせいで、ミヤコにっ」
「えっ」
今朝も彼女は顔を合わせてくれなかった。
用意した食事もクチにしてもらえず、一人で食べるが、なんの味もしなかった。
「あ……まさか、気づかれた?」
恨みを込めた視線を向ければ、
「うっわ! え、匂い!? まじか、あぶっ! コートクリーニング出しとこ! うわぁっ、彼女実家暮らしで良かったぁ、バレたら最悪、あ、あぁぁ、悪かった! ゴメン! 謝る! まじ、すみません!」
言いながらも完全に人ごとで、面白がってる顔に本気でイラついた。
「これ、ミヤちゃんに」
「なに?」
大野の手には紙袋。
「ほんと、悪いと思ってるんだぜ? ここのケーキ、ミヤちゃんも好きだって言ってただろ?」
「は? あ、いや、そこまで」
大野の言うケーキ屋は一つ一つがとても小さく、可愛らしく、甘いもの苦手なオレもミヤと一緒に何度か食べたことのあるモノ。特に素材に気を使っており他の店の何倍もの値段がするモノだ。
昼休みを使いわざわざ買いに行ってくれた大野に、オレは慌てた。
思い返せば今朝のことは完全に八つ当たりだ。なのに、ここまで気を使わせてしまうと、申し訳なくなる。
店に誘われたとは言え、追加料金まで出し、レナとの時間を楽しんだのはオレなのだから……。
「大野、今朝はすまなかった」
「いいよ、誘ったのはオレだし、オレも、店に行ったこと彼女にバレたらって思うと、ゾッとした。ミヤちゃんと仲直りしてくれよ」
「あぁ」
***
見上げたマンションの暗い部屋の窓。
まだ、怒ってる……?
目も合わせてくれなかったミヤの姿が浮かび、足が重くなった。
音を立てないように扉を開け、た、瞬間!
「うるぐるにゃぁぁーん!」
「ミヤ!!!」
彼女は大野がくれたケーキ目掛けて飛びかかってきたのだ!
「ミヤ! ミヤコぉぉ!!」
良かった!
彼女は機嫌が戻ってる!
「ミヤ、待って、うんうん、すぐに出すからな? 一緒に食べような?」
「うにゃにゃにゃぁーん!」
「はは、待てって」
「うにゃぁーん、うるにゃはーん!」
大好物のケーキを堪能し、膝上で喉を鳴らすミヤの、肉付きのいい腹を撫でながら大野に感謝を伝えた。
「良かったよ、ミヤちゃん機嫌直ってさ、あー、オレも早くナナに会いたいよ、寂しがってオレのベッドで寝てんだって、もう泣きそ」
そう言い送られてきた画像には、ベッドで丸くなった太めのマンチカン。
あぁ、良いモフモフだな。うちのミヤの方が良いモフタプ具合だがな。
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