旦那様、愛人を頂いてもいいですか?

ひろか

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「わかりましたわ、クロード様」
「ありがとう、オリヴィア」

 ビリっとまっ二つに破かれたソレは、青い炎に包まれ灰も残さず消えた。

「これで私たちの愛人契約は破棄された」
「……」
「君は他の愛人と違って物分かりがよくて助かるよ。愛人でありながら、いつか私の妻になれると勘違いしている者も多かったからね」
「……」
「君となら妻との生活が落ち着いた後、また愛人にしてもいいが?」
「お断りしますわ」

 不愉快そうに扇子を広げる女と、背を向け立ち去る男。こうして残された女は十五人目。
 すっげーな、十五股とか、この世界の男どんだけなん? 大丈夫だよな? 変な病気持ってないよな?
 男の背中を口端を下げて見送るのは、わたくし、アリスフィナ・ローズウェル。一週間後、あの男の妻になりますの。

「ふっ、う……」

 あの男、クロードの前では見せなかった涙を、一人になった今、静かにこぼす女の姿は、ゾクリとするほど美しく、思わず口元が緩んだ。

 ねぇ、クロード様? 貴方がいらないのなら、彼女も、わたしが頂いていいですよね?




 わたしはニホンからこの世界へ転生した“異界の神の愛子”と云われる、前世の記憶持ちです。
 生まれた頃より断片的にある、この世界には存在しないモノの記憶は、小等部入学前の魔力測定で『魂の色が違う』との診断をきっかけに前世の記憶、全てを思い出すことになったのです。

 久城タカヤ、二十八歳の、男の記憶を。

 前世を思い出したオレは七歳、女児な自分の姿に愕然として、そして……狂喜した。
 アリスフィナはオレの推し推しのMMORPGキャラ、“有津川ありす”そのままだったのだから!

 有津川ありす。肌は汚れない雪のように白く、唇は紅い花びら。クセのない長い黒髪は高い位置で一つに束ねられ、日本刀を手にケモノを狩る。その姿は多くの男を魅了し、彼女専用の衣装に多額の金を貢がせた。

 アリスフィナは黒に近い濃紺の髪は一筋のクセもなく艶やかな直毛。つり目がちの瞳も同じ色でありながらも光を受け輝き、小さな唇は化粧をしなくても鮮やかな紅を持つ。まさに有津川ありすの幼体!

 前世で、オレの中で有津川ありすは理想の女だった。彼女にしたのも全て有津川ありすにどこか似た女ばかり。しかしニホンに彼女のような気高い女は存在しなかった……。
 オレの理想とする有津川ありすは、オレが課金愛情を注ぎ作り上げた存在キャラだけなのだから!

 何をどうして死んだのか思い出せもしないが、オレがアリスフィナとして、ニホンとは違う異世界に生を受け、それが理想の姿なら、そりゃもう、リアル有津川ありすを目指すしかないだろ?

 過去前世を思い出したオレがしたことはまず、アリスフィナの服の総入れ替え!
 ピンクのふりふりだぁ!? 有津川ありすはそんなモノ着ません! ベッドも、カーテンも! その無駄なヒラヒラしさは有津川ありすに必要なし! 
 服も部屋も藍色を主に濃淡をつけ、甘さのない落ち着いた色合いに統一した。
 七歳の子供らしからぬものにはなったのだが満足した。

 オレの行動は家族にとって奇怪なものであるはずなのに、あっさり受け入れられたのは“異界の神の愛子”、前世持ちと云われるレア度からようだった。
 さすがに貴方たちの愛娘の中身は二十八歳の男ですよー。なんて言えず、ある程度の記憶を思い出したことを伝えただけたっだが。

 そして有津川ありすに大事なものは剣術! アリスフィナの父親はこの国の王の片腕と呼ばれる、騎士団の長。父に憧れ剣術を学んだ有津川ありすの設定環境そのまま。アリスフィナは有津川ありすとして生きるために生まれてきたようにも思える出来過ぎな環境だった。
 オレは父に剣術に馬術の教えを請うことにした。

 この世界には魔法というものがあるが、ニホンからの転生者であるオレは魔法を扱うことができないらしい。異世界転移の醍醐味は魔法だというのに、まったく使えないとか、普通ないだろ? 有津川ありすの氷鳥はどうなる? 妖刀“蒼月”に宿る氷鳥はどうするっ!? 魔法が使えなくても、何か他の魔法道具マジックアイテム的な、別の方法があるはずだと父親につめよれば、生ぬるーい、引き気味な目に頬まで引きつらせて聞かれたよ。「アリスフィナよ、お前は何になりたいのだ?」と。

 うちは八領主と云われる大貴族。四剣四盾の一剣ローズウェル家。
 女は基本、家の繋がりのための大切な嫁ぎ要因。
 異界の神の愛子と知り、さらに大切に大切に、多少の我儘も許されるほど大切に、甘やかされて育てられているアリスフィナ。刺繍や、詩、花を愛でる、そんな生き方しかないお嬢様が剣を扱うことを許されるほど甘やかされたのだが。

「森には魔物がい」
「森のずっと奥にな」
「わたくしも森にっ」
「女神の聖域である森に入る者は、遺跡を探索する者くらいだな」
「遺跡でっ」
「ははは、八領の一つ、ローズウェル領主、このグリード・ローズウェルの娘がか?」
「うっ、あっ」
「はははは!」
「……いえ」
「ははははははははは!」
「…………」

 流石にMMORPGばりに魔物を狩ることは許されなかったよ。おとうちゃん、七歳のか弱い娘を本気で威圧しないでください。ちびる。

 魔石という魔法道具マジックアイテムで刀身が蒼く輝く、有津川ありすの妖刀“蒼月”も、氷鳥の再現も可能らしいが、魔力のないアリスフィナには全く、これっぽっちも扱えないと分かり諦めた。
 剣術を習うことは許されたが、異世界といっても、有津川ありすアリスフィナは家格から制限された生き方しかできないようだ。

 なら、目指すは、男の心を財布をガッチリ握った有津川ありすによる逆ハーレムだろう!
 ふふふ、男共よ! 有津川ありすオレに跪くがいい!!

 目標を掲げ、オレは理想の女を目指し鍛錬を怠らなかったのだが……。



「アリスフィナ様は私と約束をしてますのよ!」
「なによ! 昨日だって、そうだったじゃない!」
「わたしだって、アリスフィナ様とお昼をっ!」

 今日も可愛い子ちゃんたちが、争うのはアリスフィナオレと誰がお昼を一緒にとるかというもの。
 魔法の使えないアリスフィナが在籍するのは、魔力持ちである高位貴族の多いが多い魔導科ではなく、平民も混じる一般科。

「やめなさい。わたしは皆と食事をとりたいと思っているのだが?」

「アリスフィナさまぁっ!」
「アリスフィナ様がそうおっしゃるのでしたら」

 アリスフィナ、七歳を囲うのは可愛い女の子ばかりだった。
 まぁ、まだ未発達の女児だからな。同性で連むお年頃か。

 と、思ってた小等部卒業時。

「アリスフィナさまぁぁ!」
「いやぁ! アリスお姉さまぁー!」
「お姉さまが卒業なんて、寂しいですぅぅ」

 まだアリスフィナオレを囲むのは女の子たちだった。

 いやいや、これからは蕾も開き始める中等部! つるんペタから女の身体に変わるこの期間こそ、男たちは有津川ありすアリスフィナを女として意識し始めるだろう!

 が。

「アリスフィナさまぁ」
「アリスフィナ様、こちらも召し上がってくださいまし」
「アリスフィナ様ぁ、私のも、さぁ」

 またしても、アリスフィナオレは同性にだけ囲まれていた。
 待て待て待て、クラスの半分は男だろ、どうした? なぜ来ない? ほら、チラチラ見てないで、男ならガンガン来いやぁ! と常時ウェルカム状態だったのだが、おかしい。
 そして。

「わたくし、ずっと、アリスフィナ様のとこを……」

 人気のない教室へ、アリスフィナオレを呼び出したのは、なぜか、女子。同性のはずの女子。

「好きなのです、アリスフィナ様……」

 おかしい。なぜにアリスフィナオレは同性に告白されているんだ?

「迷惑なのは、わかっているんです、でも、わたくし……」

 きゅん。
 見上げる潤む瞳に、アリスフィナオレの中の男心がガッチリ掴まれた。

「かわいい……」

 するっと本音が出てしまった。
 潤む瞳をまん丸にした彼女が見上げてくる。
 やっば、めっさ可愛いな、この子。

 中等部に入り、女へと変化したのはアリスフィナオレだけじゃない。オレの周りにいた女の子たちも、皆柔らかく膨らみ始め、日々、蕾の成長を間近で見せつけてきていたのだ。

「かわいいよ」

 溢れそうになる涙を拭ってやり、真っ赤に染まった頬に触れた。
 大丈夫。久城タカヤ、二十八歳。中学生には手加減します。



 有津川ありすアリスフィナ十五歳。周りと比べ頭一つ分高い身長と、鍛え、引き締まった身体は少年のようでもあり、整った顔立ちは中性的な印象をあたえ、視線が合うだけで顔を赤らめるのは、なしてか女子ばかりだった。

 ニホンを基準にしていたオレは気がつかなかったが、アリスフィナは八領主である大貴族の娘。平民はもちろん、ちょっと名のある貴族程度の男は近ずくには重い名だったらしく、寄ってくるのは女だけ。
 掲げた逆ハーレムという目標は、久城タカヤオレにとっては正しいハーレム化となっていた。
 有津川ありすアリスフィナの容姿を以ってまさに入れ食い状態。ひと気のない場所での告白なんてもう何度あったか数えていない。
 クラスの女子はもちろん。他クラス女子からも誘われ、オレは楽しいひと時を過ごさせてもらっていた。

 なんてことをしていたら、中等部の卒業式。
 泣き縋るのはやっぱり可愛い後輩たち。

「お姉さま! お姉さまぁぁ!」
「アリス姉さま!」

 あー、もう、うん。ここまで来たら最後まで行くしかないだろ。
 路線変更。開き直り、有津川ありすを目指しつつ、アリスフィナオレは同性によるハーレム作りを開始した。

 高校生活も女に囲まれ、家でもメイドを部屋に連れ込み、誘われるままに彼女たちとの楽しい時間を過ごした。

 そんな生活の終わりは父の一言から。

「アリスフィナ、婚約者が決まった」

 ひっと息を飲んだのは控えたメイドたち、目頭を押さえ、鼻を啜る者までいる。
 オレより、メイドたちの動揺に怪訝な顔をする父だが、告げた婚約者の名前に思わず半眼になった。

「ファンベルド領の次期当主、クロード・ファンベルド公爵だ。」

 アリスフィナが異界の神の愛子だと知れた七歳の時、それは一気に広まり婚約者にと名乗り出た貴族は皆同じこの国の高位貴族なボンボンたち。魔法の扱えない転生者は神から特別な加護をもらい、その上、生まれにくいと云われる魔術を扱う者をポンポン産む安産型。名乗り上げた婚約者候補も皆、魔術師であり、下は二歳から上は九十八歳まで! じーさん勃つのかよ!? と心の中で叫んだが、魔力を多く持つ術師は二、三百年と超長生きな上に、魔力が安定する二十代から三十代で身体の成長を止め、百歳超えてもバリバリ現役という。異世界あるあるらしい。
 で、オレの婚約者と決まったのが九十八歳年上の現役。

「うーん、現役の百十五歳かぁ」

 婚約期間は一年。来年、高等学校を卒業と同時に婚姻。お貴族様には婚約期間一年とは短いものらしいが、そこは複雑なお家事情があったのだろう。婚姻と共に彼は当主の座に就くらしく、アリスフィナは領主の正妻となる。

 嫁ぎ先まで一緒に行きたいと泣くメイドたちを慰めながら、結婚後は女として受け入れる側になることに、覚悟を決めるしかないのだが、このクロード・ファンベルドという男は派手な女性関係で有名な男だった。

 密かに可愛い女の子を囲むオレもメラメラと対抗心を燃やしたり、なんてしてたのだ。


 
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