オアシス都市に嫁ぐ姫は、絶対無敵の守護者(ガーディアン)

八島唯

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第1章 タルフィン王国への降嫁

王族ロシャナク=クテシファン

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 つかつかと広間の中をあゆみくる鎧姿の兵士。騎士であろうか。その姿にシェランは見覚えがあった。
「シェラン皇女殿下、またお目にかかります」
 そう言いながらうやうやしく礼をする騎士。長い黒髪がふわっと中に舞う。
 思い出す。砂漠の中でシェランを出迎えてくれた将軍である。
「ロシャナク=クテシファンです。皇女殿下。王宮の警護も任されています」
 身のこなしの優雅さに思わずシェランは息をのむ。
 侍女たちも同様にため息を漏らす。男装の麗人、という言葉がぴったりくる。背も高く、顔立ちも精悍そのものだ。
(......?)
 シェランはなにかひっかかる。これと同じ顔をどこかで見たような......
「ロシャナクさまは、国王陛下の叔母上さまにあたります。前国王陛下の妹君で」
 中年の侍女がシェランに耳打ちする。
 そうだ。ファルシードの顔だ。似ているのは当然である。血がつながっているのだから。
「皇女殿下、少しお話したいのですが」
 ロシャナクはシェランを自室に誘う。
 王宮の一角に彼女の部屋があった。
 軍人らしく、質実剛健さを感じさせる一方部屋の手入れの良さがロシャナクの性格を感じさせた。
 あたりをキョロキョロと見回すシェラン。壁にはあの骸骨の鎧も飾られていた。
 じっとロシャナクと鎧を見比べる。
 今は軽装の鎧をつけているロシャナク。どうも不似合いである。
「このあたりは――」
 茶の準備をしながら、ロシャナクは話し始める。
「物騒でして。外に出るときにはあのような脅しを書けたほうがめんどくさいことにならないので」
 こぽほぽとポットがなる。気持ち良い香り。お茶が差し出される。
 カップを両手で持ちながらもじもじするシェラン。
 どうも落ち着かない。
(......こういう人が美人っていうんだろうな。そもそも王家の娘なんだし。『お姫様」っていうやつだ。本物だよ、本物)
 心のなかでシェランは何度も繰り返す。
「あっ」
 シェランの声にロシャナクは反応して振り返る。
「あ、あの、この間はありがとうございました。迎えに来てくださって。あ、あと今日もみんなの前で褒めてくれてありがとうございます......銀の髪をそういうふうに言われたの、はじめてでうれしいというか......」
 くすっとロシャナクは笑みをもらす。
「先程も言いましたが、この国では『銀』が好まれます。金髪の人は結構多いのですが『銀』髪の、それも美しい方はなかなかおられません。甥もこのようなかたをお迎えしてうれしい限りでしょう」
 あはは、と思わず照れるシェランだったが何かに引っかかる。
 甥......ってあの、無表情男......?
「甥はあまり感情を出さない方なので。むかしはそうでもなかったのですが。兄、つまり父親の国王が若くして死んでしまってから、あの子はあんなかんじなのですよ」
 情報量の多さに、とまどうシェラン。とりあえずなにか深い事情がありそうなのは理解できた。
「さて、本題に入りましょう」
 そう言いながら、椅子に座るロシャナク。
「現在、婚姻の儀式が始まりつつあります。私も王族ということで典礼官とともにその任についています」
 はあ、婚姻......そうだった、自分は嫁いできたのだということをシェランは思い出す。
「そして......この国では王妃となる女性には、婚姻の式の前に必ずしていただく『つとめ』があるのです」
 『つとめ』.....え、なに、それ。
 あらたなパワーワードにシェランはがたっ、と体勢をくずす。そんな話は聞いていない。というかなんで教えてくれなかったのか。
「それほど難しいことでもないので。まあ、死んでしまうようなこともそうそうないですし」
 たまにはあるのかよ!とシェランは心のなかで突っ込む。
 そもそもそんな苦労をしてまで、この国のそしてあの無表情男の妻になる必要が――
 あるんだよな、とため息をつく。
 もう都には戻れない。かといってこの国でどうやって生活することが可能だろうか。
 自分の生きる道はもう、王妃になることしかないように思われた。
 それでは――とロシャナクが口を開く。
 それは一つ目の『つとめ』の説明であった――
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