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第1章 タルフィン王国への降嫁

結婚式

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「困ったなぁ......」
 頭を抱えるシェラン。
 そんなシェランを見ながら、ルドヴィカはなにか思い出したように部屋の奥にある箱をあさる。
「たしかこの辺に......」
 ホコリの中から取り出した紙切れが一枚。古びているが、珍しく色塗りの紙らしい。
「先王の結婚式を知らせたチラシだ。国民全員にお祝いということで渡された。きれいだったんで以前、もらったんだ」
 それをシェランに差し出す。
 そこには先王とその妃が並んで王冠を受けている絵が描かれていた。
 結婚式の規模は『大鳳皇国』のそれとは比べ物にならないが、並々ならぬ気品が感じられた。
(......あいつの父親なんだけどね)
 下に書かれた文字。猛勉強の末、なんとか読めるようになったタルフィン文字を指でなぞっていく。
『シーヴァ王が婚姻の儀を挙げられた。妃となるエルナーズ殿下は出身の蔡国の名物である花を『妃のつとめ』としてふるまわれた。式を彩るあでやかな花はまるで王妃のごとき。みずみずしくこの国を癒やしてくれるものでしょう――』
「へ、へぇ~」
 手が震えるシェラン。
 自分がふるまえるもの。
 ない、気がした。
「美人だよなぁー、前の妃様。まけんなよ!」
 どんと肩を叩かれるシェラン。なにか魂が抜けていくような気がした。


 王宮の自室。
 シェランは自分の行李をひっくり返して、それを並べていた。
 父様からもらった腕輪。大事なものではあるが、それほど高級なものではない。
 宝石箱。中には珍しい岩石が色々詰まっている。金銭的な価値はない。
 書物。主に鉱物や草花など自然科学の本。
「こう、結婚式で珍しい石でも並べて『見たことないでしょ、この石?!』とか.....」
 がっくりしてしまうシェラン。色艶やかな宝石なら見栄えもするが、シェランが詳しいのは黒かったり土色のまさに『鉱石』である。その知識のおかげで水脈を発見し、さらには二つ目の『妃のつとめ』もゲットできたのだったが......
「あー、私水脈探せます、水脈。ここでこういう感じでね、枝持って歩き回ると......ほら!ここ!枝が動いた!ここほって!水出るよ!」
 結婚式でダウンジング。何かの芸だろうか。
「どうせ芸なら、もっと華やかなのをしたかったよ......」
 机の上にある紙を見つめるシェラン。そこには先代の国王の結婚式のようすが描かれていた。
「花かぁ......毒のあるなしとか、血止めとか。そういうのなら知ってるんだけどなぁ。ましてこの砂漠の真ん中ではろくに花もないし。だから、先代の妃さまは国民を喜ばせることができたんだろうけど......」
 ん?、とシェランは首を傾げる。
 花花はなはなはなは......何度か繰り返した後、一冊の本に飛びつく。
 それは『大鳳皇国』の書物。古代より伝わる金属や鉱物に関する書物であった。
 それを何度も読み返すシェラン。
 彼女は腹を決める。これにすべてをかけてみようと――


 結婚式当日。
 つつがなく儀式は始められる。
 皇帝より下賜された結婚衣装をまとうシェラン。やや幼さは残るものの、その美しさを見たものはただため息を漏らすばかりである。
 正直ファルシード自身が何より彼女の美しさに驚いていた。この地域ではなにより高貴とされる銀色の髪をまとい、儀式を立ち振る舞う姿――一方ファルシードのほうも、王家代々の衣装に身を包み、堂々たるものである。
 少年少女の少し背伸びした婚姻のように感じられ、見ている国民も喝采をあげる。
 都市のほとんどの民がこの儀式を見にきているようだった。
「妃どの」
 ファルシードがつとめて無関心を装ってシェランに話しかける。
「は、ふぁい?」
 震えながら答えるシェラン。
「......大丈夫なのか?『妃のつとめ』は」
 心配そうにつぶやくファルシード。しきたりにより結婚式までその内容を国王は知ってはいけないことになっていた。ロシャナクはそれを良しとしたようだが、どうもシェランが頼りない。
「失敗したときには......国に送り返すの?」
 震えながらシェランがつぶやく。
「......そうしたいのなら。おまえはどうしたいんだ」
「わたしは......この国にいたい。色々、勉強になるし友だちもできたし――」
 そう言った後、言葉が途切れる。いや、大きな音によってファルシードの一番聞きたい言葉が聞こえなくなってしまった。
 音のする方を見る。
 すでに陽は暮れかかっていた。
 町外れの石造りの塔からその音が響き渡る。そして――
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