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第2章 絹の十字路
ルドヴィカの願い
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二人のそばに近づいてくる影。それはラクダの姿だった。コブのところになにか荷物をぶら下げて。
「......人だな」
ルドヴィカが懐のものを探りながら、そうつぶやく。
ボロ布が風にまっている。そのボロ布の本体は――
「死んでる!?」
シェランが大声でそう叫ぶ。その声に反応したのか、ラクダが立ち止まる。
どさっ、と人が落ちる。ボロ布をまとった体が崩れ落ちるように。
そばに駆け寄る二人。男性のようである。そっとルドヴィカが頭の布をめくった。
そこには――薄汚れた金色の髪の男性が目を閉じていた。
ルドヴィカの家。石造りのベッドの上に、男性が横たわっていた。息はしている。
「どうやら、衰弱しているようだ。怪我はない」
ルドヴィカがそう見立てる。はらはらしながら見つめるシェラン。
ひげは伸び、髪もボサボサである。しかし、その燃えるような金色の髪色が印象的だった。
「王妃さまは、関わらない方がいい」
ルドヴィカがそう言い放つ。
この男を拾ったことは誰にも告げていない。秘密、である。
「正直、まともな旅人とも思えないしな。話せるようになるまで、面倒を見る。その上で必要であればしかるべきところに訴え出る。シェランには迷惑はかけない」
うん、とシェランはうなずく。
なんとなくシェランは感じていた。同じ髪の色。それになにか通じるものを感じているのかと。
男が目を覚ましたのは次の日の朝だった――
「助けていただいて、感謝します」
ベッドの上で体を起こしてそう頭を下げる男性。ひげはそられ、こざっぱりとしていた。
(以外に若い......)
シェランはその顔をじっと見つめる。年の頃は二〇代なかばくらいだろうか。言葉は丁寧な大鳳官語であった。
「大鳳皇国から来たらしい」
茶を入れながらそうルドヴィカが説明する。
「もともとはオウリパから来た商人らしい。私と同じ地域の出身のようだ――」
へえー、とシェランが相槌を打つ。男を助けた理由がなんとなく腑に落ちて。
「......すこし話を聞いてやってくれないだろうか」
ルドヴィカがそう申し出る。シェランはうなずく。男は口を開き、説明を始めた。
「私はカルロ=ヴィッサリーオという商人です。ルドヴィカどのとおなじオウリパのエリアニアン出身です。子供の時父親に連れられて、あなたの国『大鳳皇国』にわたりました」
なるほど、大鳳官語が達者なわけである。青い瞳、金色の髪そしてほりの深い表情――確かにこういう風体の外国人が都にはいた。
「私は親子代々、宮廷に仕えました。龍権帝祝捷さまにも何度も謁見させていただきました――皇帝陛下は西の国のことについて色々考えるとことがあったようですから」
(わたしはあったことも、宮殿に入ったこともないんだけどね)
「ある日、私は皇帝陛下より直々に命令をくだされました。それは私の母国リアニアンと関係を結びたいと――名誉なことです。私は使節を組み、西の道へと旅立ったのですが――」
そこで言葉を区切る。
「旅路はつらく厳しいものでした。砂嵐や熱波そして野盗などの襲撃......気がつけば使節はばらばらになり私一人がはぐれていました。もう水もなくすべてを諦めていた時――ルドヴィカどのに救われたのです」
確かに厳しい旅路であった。シェランは共感する。
「それだけでも奇跡だというのに、ルドヴィカどのはその皇帝陛下の親戚、皇族とお知り合いと聞きました。さらに最近この国の国王陛下と結婚されたとか。これも神のお導き」
そう言いながら、頭を深々と下げるカルロ。
「どうか、国王陛下に便宜を図ってはいただけないでしょうか?リアニアンと大鳳皇国の橋渡してはいただけないかと――」
便宜――べんぎ。なんどもそのことばを頭の中で繰り返すシェラン。
ルドヴィカが哀願するような目でシェランを見つめる。
断ることはどうしてもできないシェランであった――
夜の王宮。
シェランは廊下をひとり歩く。
(便宜を図る、つまり国王にお願いするっていうことで――)
国王、それはあの生意気なファルシードに頭を下げるということ。
くびをぶるんぶるんとシェランは振る。
結婚したというのに、全く自分のところを訪れようとしないファルシード。
「それはどうなんだろ......いや、寝室に来られても困る......っていうか、夫婦なのでそれは当たり前だけど......でも、しかし......」
関係性の矛盾になにか赤くなってしまう。
ふと、ルドヴィカの顔を思い出す。
必死に嘆願するあの様子。
「おなじ国の出身――ってだけでもなさそうだな。カルロさん、っていったっけ。思ったより若いし、結構イケメンだったし。ルドヴィカちゃん、もしかしたら――」
顔をパン、と両手ではたき気合を入れる。
ルドヴィカにはこの間、お世話になっているシェランである。
ここで少しでも恩返しをしなければ、友達の名がすたるというものだ。
いけ好かない感じもあるが、あたってくだけろ。
シェランは王の間への歩みを足早に進めていった――
「......人だな」
ルドヴィカが懐のものを探りながら、そうつぶやく。
ボロ布が風にまっている。そのボロ布の本体は――
「死んでる!?」
シェランが大声でそう叫ぶ。その声に反応したのか、ラクダが立ち止まる。
どさっ、と人が落ちる。ボロ布をまとった体が崩れ落ちるように。
そばに駆け寄る二人。男性のようである。そっとルドヴィカが頭の布をめくった。
そこには――薄汚れた金色の髪の男性が目を閉じていた。
ルドヴィカの家。石造りのベッドの上に、男性が横たわっていた。息はしている。
「どうやら、衰弱しているようだ。怪我はない」
ルドヴィカがそう見立てる。はらはらしながら見つめるシェラン。
ひげは伸び、髪もボサボサである。しかし、その燃えるような金色の髪色が印象的だった。
「王妃さまは、関わらない方がいい」
ルドヴィカがそう言い放つ。
この男を拾ったことは誰にも告げていない。秘密、である。
「正直、まともな旅人とも思えないしな。話せるようになるまで、面倒を見る。その上で必要であればしかるべきところに訴え出る。シェランには迷惑はかけない」
うん、とシェランはうなずく。
なんとなくシェランは感じていた。同じ髪の色。それになにか通じるものを感じているのかと。
男が目を覚ましたのは次の日の朝だった――
「助けていただいて、感謝します」
ベッドの上で体を起こしてそう頭を下げる男性。ひげはそられ、こざっぱりとしていた。
(以外に若い......)
シェランはその顔をじっと見つめる。年の頃は二〇代なかばくらいだろうか。言葉は丁寧な大鳳官語であった。
「大鳳皇国から来たらしい」
茶を入れながらそうルドヴィカが説明する。
「もともとはオウリパから来た商人らしい。私と同じ地域の出身のようだ――」
へえー、とシェランが相槌を打つ。男を助けた理由がなんとなく腑に落ちて。
「......すこし話を聞いてやってくれないだろうか」
ルドヴィカがそう申し出る。シェランはうなずく。男は口を開き、説明を始めた。
「私はカルロ=ヴィッサリーオという商人です。ルドヴィカどのとおなじオウリパのエリアニアン出身です。子供の時父親に連れられて、あなたの国『大鳳皇国』にわたりました」
なるほど、大鳳官語が達者なわけである。青い瞳、金色の髪そしてほりの深い表情――確かにこういう風体の外国人が都にはいた。
「私は親子代々、宮廷に仕えました。龍権帝祝捷さまにも何度も謁見させていただきました――皇帝陛下は西の国のことについて色々考えるとことがあったようですから」
(わたしはあったことも、宮殿に入ったこともないんだけどね)
「ある日、私は皇帝陛下より直々に命令をくだされました。それは私の母国リアニアンと関係を結びたいと――名誉なことです。私は使節を組み、西の道へと旅立ったのですが――」
そこで言葉を区切る。
「旅路はつらく厳しいものでした。砂嵐や熱波そして野盗などの襲撃......気がつけば使節はばらばらになり私一人がはぐれていました。もう水もなくすべてを諦めていた時――ルドヴィカどのに救われたのです」
確かに厳しい旅路であった。シェランは共感する。
「それだけでも奇跡だというのに、ルドヴィカどのはその皇帝陛下の親戚、皇族とお知り合いと聞きました。さらに最近この国の国王陛下と結婚されたとか。これも神のお導き」
そう言いながら、頭を深々と下げるカルロ。
「どうか、国王陛下に便宜を図ってはいただけないでしょうか?リアニアンと大鳳皇国の橋渡してはいただけないかと――」
便宜――べんぎ。なんどもそのことばを頭の中で繰り返すシェラン。
ルドヴィカが哀願するような目でシェランを見つめる。
断ることはどうしてもできないシェランであった――
夜の王宮。
シェランは廊下をひとり歩く。
(便宜を図る、つまり国王にお願いするっていうことで――)
国王、それはあの生意気なファルシードに頭を下げるということ。
くびをぶるんぶるんとシェランは振る。
結婚したというのに、全く自分のところを訪れようとしないファルシード。
「それはどうなんだろ......いや、寝室に来られても困る......っていうか、夫婦なのでそれは当たり前だけど......でも、しかし......」
関係性の矛盾になにか赤くなってしまう。
ふと、ルドヴィカの顔を思い出す。
必死に嘆願するあの様子。
「おなじ国の出身――ってだけでもなさそうだな。カルロさん、っていったっけ。思ったより若いし、結構イケメンだったし。ルドヴィカちゃん、もしかしたら――」
顔をパン、と両手ではたき気合を入れる。
ルドヴィカにはこの間、お世話になっているシェランである。
ここで少しでも恩返しをしなければ、友達の名がすたるというものだ。
いけ好かない感じもあるが、あたってくだけろ。
シェランは王の間への歩みを足早に進めていった――
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