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第2章 絹の十字路
ルドヴィカの気持ち
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ルドヴィカの家。ファルシードにたしなめながらも、たびたびシェランはここを訪れていた。
(......王宮はなんか居づらくて......わがままかも知れないけど)
王妃、といっても飾りのようなものだ。この間の結婚式で少し有名にはなったけれど、街の中で直接シェランの顔を知っている人はそういない。
むかしから、街がシェランにとっての居場所だった。
ルドヴィカのそばで荷物を整理しているカルロの姿。ファルシードからの手配で再びオウリパまでの使節を整えることができたのだった。その様子をじーっと見つめるシェラン。数か月前まではこの人と同じ国に住んでいたんだという感慨。
「どうしました?」
その視線には反応するカルロ。ヒゲもそり、涼し気な表情で。
「......い、いえ。私も大鳳皇国に住んでいたので。なんか、なつかしいなぁと...」
くすっと笑うカルロ。青い目が輝く。
「王妃殿下におかれては、王宮のさぞかし奥にお住まいでありましょう。私は王宮に出入りしていたとはいえ、外国人。普段は街に住んでいました」
「私もだよ」
不思議そうな顔をするカルロ。ルドヴィカが説明する。
「シェラン――いや王妃殿下は街なかに家を持っておられたんだ。皇族の中にはそういう人もいるってことさ」
カルロがなにかわかったようなわからないような、微妙な顔をする。
「大鳳皇国のことをなにか教えてくれませんか?なんでもいいです」
シェランが身を乗り出して問う。考えてみるとこのタルフィン王国ではじめて大鳳皇国の話題をできた人間かもしれない。シェランの興味はましていく。
「そうですね――なんといっても皇帝陛下に謁見できたことが一番すごい出来事でした。王妃殿下は普段からお会いしてご存知のことでしょうが」
(それがびっくり、あったことないんだよねぇ......親戚、なんだろうけど)
シェランが少し曇った顔をする。
「龍権帝陛下はすごいお方でした。まだお若いのに、その目はわたしなどより遥か遠く彼方を見つめておられるようでした。何度も王宮に呼ばれました。オウリパのこともよく聞かれました。どのような生活をしているのか、国を治めている王はどういう人なのか、税金は重いのか......など。とにかく色々なことを聞かれました。さらにはオウリパの言葉まで覚えられる始末。間違いなく名君として歴史に名を残すお方でしょうな」
シェランは少し誇らしい気になる。自国の皇帝が褒められれば、それはうれしいものだ。見たことはないとはいえ、親戚ではあるのだし。極めて遠い親戚だが。
「......すぐに旅立つのか?」
ルドヴィカがそう問う。聞かれたカルロは少し沈黙した後静かにうなづいた。
「一刻でも早く、皇帝陛下のご意思を母国の国王に伝えたい。大事な勅書は奪われてしまったが、タルフィン国王がエリアニアン国王に向けて勅書をしたしめてくれた。それを差し出せば大体の仔細は通じるだろう。そうすれば、わが故郷と大鳳皇国は同盟関係を結ぶことができる」
「どんな国なの?――いや、わたしのそのあたりの出身のようなんだけどよくわかんなくて。子供の時エリアニアンをでてからずっと、タルフィンにいるから」
「美しい国さ」
ルドヴィカの質問に遠い目をしながらカルロは答える。
「大地に草が生い茂り、川はただ静かに悠々と流れる。春には花々が咲きほこり、秋には果実が我々の喉の乾きをいやす。かつて、大帝国が存在したわが故郷――エリアニアン」
そこで言葉をカルロは切る。
「しかし――人々の生活は豊かにならない。色々な勢力が入り乱れ、強盗や放火などが日常茶飯事なのです。外敵をしりぞけ、国内をもっと統一することができれば――そのためにも」
ぐっと、拳に力を入れるカルロ。その指には皇帝から下賜された指輪が光っていた。
「......そうなんだ。早く故郷が平和になるといいね」
そういったきり、口を閉じるルドヴィカ。
カルロもまた――
夜の王宮。王妃の部屋にルドヴィカはいた。当然シェランも。
公的には王妃と出入りの商人であるが、実際には友人の関係である。
すこし、シェランのほうが年上ではあるがルドヴィカが大人びているために同級生のような感じであった。
(同年の友達とかいたら、こんな感じなのかな)
シェランはルドヴィカの存在がなによりありがたく感じていた。
知り合いもいないこの国で、数少ない頼れる存在。実際、色々お世話になったのも事実である。
(すこしは、恩返しないとな)
王妃の部屋に招待し、二人で夜を過ごすことにした。
こっそり集めたお菓子もある。小さなランプに火をともし、二人で夜を明かすつもりであった。
そして、目的はもう一つ。
浮かない顔をしているルドヴィカに対して、確かめることがあった。
「ええと、ルドヴィカちゃん――カルロさんのこと――どう思っているの?」
いきなりシェランは核心をついた――
(......王宮はなんか居づらくて......わがままかも知れないけど)
王妃、といっても飾りのようなものだ。この間の結婚式で少し有名にはなったけれど、街の中で直接シェランの顔を知っている人はそういない。
むかしから、街がシェランにとっての居場所だった。
ルドヴィカのそばで荷物を整理しているカルロの姿。ファルシードからの手配で再びオウリパまでの使節を整えることができたのだった。その様子をじーっと見つめるシェラン。数か月前まではこの人と同じ国に住んでいたんだという感慨。
「どうしました?」
その視線には反応するカルロ。ヒゲもそり、涼し気な表情で。
「......い、いえ。私も大鳳皇国に住んでいたので。なんか、なつかしいなぁと...」
くすっと笑うカルロ。青い目が輝く。
「王妃殿下におかれては、王宮のさぞかし奥にお住まいでありましょう。私は王宮に出入りしていたとはいえ、外国人。普段は街に住んでいました」
「私もだよ」
不思議そうな顔をするカルロ。ルドヴィカが説明する。
「シェラン――いや王妃殿下は街なかに家を持っておられたんだ。皇族の中にはそういう人もいるってことさ」
カルロがなにかわかったようなわからないような、微妙な顔をする。
「大鳳皇国のことをなにか教えてくれませんか?なんでもいいです」
シェランが身を乗り出して問う。考えてみるとこのタルフィン王国ではじめて大鳳皇国の話題をできた人間かもしれない。シェランの興味はましていく。
「そうですね――なんといっても皇帝陛下に謁見できたことが一番すごい出来事でした。王妃殿下は普段からお会いしてご存知のことでしょうが」
(それがびっくり、あったことないんだよねぇ......親戚、なんだろうけど)
シェランが少し曇った顔をする。
「龍権帝陛下はすごいお方でした。まだお若いのに、その目はわたしなどより遥か遠く彼方を見つめておられるようでした。何度も王宮に呼ばれました。オウリパのこともよく聞かれました。どのような生活をしているのか、国を治めている王はどういう人なのか、税金は重いのか......など。とにかく色々なことを聞かれました。さらにはオウリパの言葉まで覚えられる始末。間違いなく名君として歴史に名を残すお方でしょうな」
シェランは少し誇らしい気になる。自国の皇帝が褒められれば、それはうれしいものだ。見たことはないとはいえ、親戚ではあるのだし。極めて遠い親戚だが。
「......すぐに旅立つのか?」
ルドヴィカがそう問う。聞かれたカルロは少し沈黙した後静かにうなづいた。
「一刻でも早く、皇帝陛下のご意思を母国の国王に伝えたい。大事な勅書は奪われてしまったが、タルフィン国王がエリアニアン国王に向けて勅書をしたしめてくれた。それを差し出せば大体の仔細は通じるだろう。そうすれば、わが故郷と大鳳皇国は同盟関係を結ぶことができる」
「どんな国なの?――いや、わたしのそのあたりの出身のようなんだけどよくわかんなくて。子供の時エリアニアンをでてからずっと、タルフィンにいるから」
「美しい国さ」
ルドヴィカの質問に遠い目をしながらカルロは答える。
「大地に草が生い茂り、川はただ静かに悠々と流れる。春には花々が咲きほこり、秋には果実が我々の喉の乾きをいやす。かつて、大帝国が存在したわが故郷――エリアニアン」
そこで言葉をカルロは切る。
「しかし――人々の生活は豊かにならない。色々な勢力が入り乱れ、強盗や放火などが日常茶飯事なのです。外敵をしりぞけ、国内をもっと統一することができれば――そのためにも」
ぐっと、拳に力を入れるカルロ。その指には皇帝から下賜された指輪が光っていた。
「......そうなんだ。早く故郷が平和になるといいね」
そういったきり、口を閉じるルドヴィカ。
カルロもまた――
夜の王宮。王妃の部屋にルドヴィカはいた。当然シェランも。
公的には王妃と出入りの商人であるが、実際には友人の関係である。
すこし、シェランのほうが年上ではあるがルドヴィカが大人びているために同級生のような感じであった。
(同年の友達とかいたら、こんな感じなのかな)
シェランはルドヴィカの存在がなによりありがたく感じていた。
知り合いもいないこの国で、数少ない頼れる存在。実際、色々お世話になったのも事実である。
(すこしは、恩返しないとな)
王妃の部屋に招待し、二人で夜を過ごすことにした。
こっそり集めたお菓子もある。小さなランプに火をともし、二人で夜を明かすつもりであった。
そして、目的はもう一つ。
浮かない顔をしているルドヴィカに対して、確かめることがあった。
「ええと、ルドヴィカちゃん――カルロさんのこと――どう思っているの?」
いきなりシェランは核心をついた――
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