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第2章 絹の十字路

ロシャナクの心配

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「どうって......言われてもな.....」
 なにか居心地が悪そうなルドヴィカ。頭をかく。
「ほら、なんていうの、興味があるというか」
 シェランも遠回りな質問をする。
「興味......はあるかな。同じ出身だしな」
 遠い目をするルドヴィカ。
 青い目。そして金色の髪。このオアシスにはない風貌。
「一緒に、オウリパに帰りたくない?」
 シェランがそうつぶやく。
 驚いたような顔をするルドヴィカ。
「もし、そうしたいんなら――ううん、それでルドヴィカちゃんが幸せになれるんなら――」
 そう言いながら、なぜか涙が溢れてくるシェラン。
「あ、あれ、なんでだろ。悲しくなんか――」
 そっとルドヴィカが指でその涙をぬぐう。そしてぎゅっとシェランの体を抱きしめた。
「いかないよ」
 そう耳元でささやく。
「まあ......ちょっと心は動いたけどな。でも私のすみかは『ここ』だ。いまさらオウリパにいってもなぁ。なによりシェランがいるし」
 だーとさらにシェランは涙を流す。
「ルドヴィカちゃん、ありがとう!わたし......また......ひとりに......」
 あー、とルドヴィカは頭をかく。
「この国の王妃さまがなにをいっているのやら。国王陛下が悲しむぞ」
 国王陛下――ファルシードのことである。
「なんかね、嫌われてる気がして」
「自分の妻を?」
 うん、とシェランはうなずく。
「やっぱり、こうもっと立派なお姫様じゃないとだめなのかも。まあ、しょうがないけどね。そのうちむこうもなれるだろうし」
 はあとため息をルドヴィカはつく。
「おまえさんが考えているより、国王陛下はもおまえのことを大事に思っていると思うけどな」
「それはない」
「......まあ、とにかく」
 そういいながらルドヴィカは再び強く、シェランを抱きしめる。
「そばにいてやる。わたしは身分は低いけど、二人っきりの時はシェランのこと妹のように思ってる。いくらでも甘えろ」
 その言葉にニコッと微笑むシェラン。本来はシェランのほうが歳上なのに、その事も忘れて。
「色々話ししたい。まだ寝ないよね」
 お菓子を並べながらそうシェランはつぶやく。それに静かにうなずくルドヴィカ。
 次の日の朝、並んでいびきをかいて寝ている二人を部屋にやってきた女官長が発見する。
 無言で、そっと二人の上に毛布をかけた。すこし口元をほころばせながら――

「明日、あの男カルロが旅立ちます」
 鎧姿のロシャナクが王座のファルシードに報告する。
「三人ほど供の者もつけました。あわせて西に向かうキャラバンも同行させて――それでよろしいでしょうか?」
 無言でうなずくファルシード。
「気になることが?」
 ロシャナクの問いかけにファルシードは席を立つ。
「――本当にあの男は龍権帝の使節なのだろうか」
 ロシャナクはただ聞き入る。
「指輪は持っていた。王妃の言う通りそれは事実だ。しかし、もっとも大切な勅書をなくしたというのは不思議な気がする」
「まったく」
「そもそも、あの皇帝が使節などを派遣するだろうか。あのくらいの大国であれば、まず使節を朝貢させよというのがすじなのでは」
 ロシャナクは満足した顔をしていた。自分の甥にして、国王が年に似合わない緻密な分析をしている。このまま成長すれば、立派な為政者になるだろうと。
「どうしますか?旅立ちを中止させて取り調べますか?」
「かくたる証拠があるわけでもない」
 そういいながら再び玉座に身を預けるファルシード。
「なにより、そんなことをしたら――あの女商人が悲しむだろう」
 女商人――ルドヴィカのことである。
「あの娘が悲しめば、王妃殿下も悲しむでしょうね。とっても仲が良いみたいですし」
 無言になるファルシード。
 正直、甘い判断である。とはいえ国家の一大事につながるというわけでもない。ここはカルロを泳がせてみるのも手かもしれないとロシャナクは判断する。
「まあ、悪いことをするような御仁でもなさそうですしね。とりあえずしばらく彼の使節を追跡しましょう。念のために、ではありますが」
「そうしてくれ」
 そういいながら、再び書類に目を落とすファルシード。
 まだ十五歳の少年である。必死に背伸びをしているようにも見える。
(せめて、私がしっかりしないとな)
 ロシャナクは鎧の音をさせながら王の間を退出する。
(そういえば――)
 ふと足を止め、ロシャナクは思い出す。
(この間、トュルタン部の兵士が発見されたな。なぜこんなところにまでと思っていたが)
 シェランたちを襲った騎馬民族。ファルシードによってその時は事なきをえたが、彼らがなぜタルフィン王国の領土の中までやってきていたのかは不明であった。
(平行して街道はずれの警備を強化することも必要かもしれない。何があっても大丈夫なように――)
 その時、ロシャナクになにか予感があったわけではない。
 その心配は最悪な形で発露することとなる――
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