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第2章 クリューガー公国との戦い
姉と弟
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晴れやかな入城パレード。その一番先頭にラディムがいた。轡をとるのは市民のボジェク。その姿を見て市民たちは歓喜の声と花を浴びせかける。
『我らがクリューガー公!』
『慈悲深き公太子殿下!』
町の中にあった砦は燃えてなくなってしまったので、軍の大部分は城壁の外に野営し、ラディムなどは商業参事会が用意した宿舎に逗留することとなった。
贅を極めた家具が部屋に並ぶ。ラディムでら鼻白むほどの、調度である。
「ラディム殿。お疲れか?」
鎧姿のままのハルトウィンがそう問いかける。椅子に座っていたラディムがはっとして目を覚ます。「失礼しました、ハルトウィン様。すこし」
「無理もない」
昼の喧騒を思い出す二人。これほどの歓迎を受けたことは人生で初めてであっただろう。
「それにしても、調子のいい連中です」
ラディムが複雑な表情でそうつぶやく。
「商業参事会の連中か。まあやむをえまい。彼らにとって死活問題だからな。一体誰にこの都市を守ってもらうか、というのは」
「商人らしい、汚い考えです」
ハルトウィンはその言葉に、あえて反応を見せず椅子を引いてすっとラディムの前に座る。
「ラディム殿」
じっとラディムを見つめるハルトウィン。目はどこまでも青く、白銀の長い髪がその目をさらに彩っているようだった。
「ひとつ、聞いて欲しい話がある。これはあくまでも年長者としての意見だ。自分の主義主張に合わないと思えば忘れてもらっても構わない」
こくんとラディムがうなずく。
「人は......その生まれを選べない。誰が父親か、どんな身分に生まれてくるかなどということは。当然それによって職業も決まってくるし、また生まれた環境で能力の開発も制限されるだろう」
たんたんと続く、ハルトウィンの言葉。
「人間にとって大事なことはその与えられた職業、人生をまっとうすることだ。領主には領主の人生、商人には商人の人生。幸せや喜びという価値観も人それぞれだ。ただ、気をつけてほしいのは――他人の幸せを必要以上に妨げないこと。商人の金銭欲が他の人の幸せを必要以上に妨げない限り、それは最大限尊重されるべきであるだろう」
「ならば」
ラディムが質問する。
「領主――貴族階級に生まれた人間は何を幸せとして生きるべきなのでしょうか」
うん、とハルトウィンは一呼吸おく。
「我々は人々から無条件で尊敬され、政治の権力もおのずから持っている。その結果裕福な生活も送ることが許されている。すでに物質的な幸せは満たされていると言っていいだろう。ならば――他人を幸せにすること、つまり領民を幸せにすること、さらにはそれにとどまらず自分を頼りにしてくる人々を助けることが責務なのではないのだろうか」
自分の力で、自分の領民たちを幸せにする可能性がある、そうできるはずと説くハルトウィン。
「永遠にラディム殿がその責務を果たす必要はない。自分がその人に耐えられないと思えば、他の更に能力ある人物にそれを委ねても良い。我らは権威のみ保持して社会を安定化させればよいのだ」
「ハルトウィン様......」
ラディムがじっとハルトウィンの顔を見つめる。
「今後も色々教えて下さい。若年の身ゆえ、知らないことが多すぎます。領主としてあるべき、いや『人』としてあるべき姿を教授いただければ、私ができることはすべてさせていただきます」
「いや」
ハルトウィンは苦笑して、そうさえぎる。
「これはいささか、演説が過ぎたようだ。僅かに年長で、恥ずかしいことだ」
「ハルトウィン様」
ラディムがじっと、ハルトウィンを見上げる。男女の違いがあるとはいえ、まだ一四歳になったばかりのラディムはハルトウィンより頭一つ小さい。
「お願いがあります」
「私でできることなら」
「二人でいる時は.....あの......その」
「?」
「お、おねえさま......とお呼びしては......だめですか......私にはそういう肉親がおらず......そのような方がおられれば......私も」
にこっとほほえみを返す、ハルトウィン。
「造作もない。私も聡明な弟が出来てなによりだ。よろしく頼むぞ」
破顔するラディム。両手を差し出し、ギュッとハルトウィンの手を握る。
次の日の朝、ハルトウィンは後悔する。自分があまりに恥ずかしいことを言ってしまったことに対して――
『我らがクリューガー公!』
『慈悲深き公太子殿下!』
町の中にあった砦は燃えてなくなってしまったので、軍の大部分は城壁の外に野営し、ラディムなどは商業参事会が用意した宿舎に逗留することとなった。
贅を極めた家具が部屋に並ぶ。ラディムでら鼻白むほどの、調度である。
「ラディム殿。お疲れか?」
鎧姿のままのハルトウィンがそう問いかける。椅子に座っていたラディムがはっとして目を覚ます。「失礼しました、ハルトウィン様。すこし」
「無理もない」
昼の喧騒を思い出す二人。これほどの歓迎を受けたことは人生で初めてであっただろう。
「それにしても、調子のいい連中です」
ラディムが複雑な表情でそうつぶやく。
「商業参事会の連中か。まあやむをえまい。彼らにとって死活問題だからな。一体誰にこの都市を守ってもらうか、というのは」
「商人らしい、汚い考えです」
ハルトウィンはその言葉に、あえて反応を見せず椅子を引いてすっとラディムの前に座る。
「ラディム殿」
じっとラディムを見つめるハルトウィン。目はどこまでも青く、白銀の長い髪がその目をさらに彩っているようだった。
「ひとつ、聞いて欲しい話がある。これはあくまでも年長者としての意見だ。自分の主義主張に合わないと思えば忘れてもらっても構わない」
こくんとラディムがうなずく。
「人は......その生まれを選べない。誰が父親か、どんな身分に生まれてくるかなどということは。当然それによって職業も決まってくるし、また生まれた環境で能力の開発も制限されるだろう」
たんたんと続く、ハルトウィンの言葉。
「人間にとって大事なことはその与えられた職業、人生をまっとうすることだ。領主には領主の人生、商人には商人の人生。幸せや喜びという価値観も人それぞれだ。ただ、気をつけてほしいのは――他人の幸せを必要以上に妨げないこと。商人の金銭欲が他の人の幸せを必要以上に妨げない限り、それは最大限尊重されるべきであるだろう」
「ならば」
ラディムが質問する。
「領主――貴族階級に生まれた人間は何を幸せとして生きるべきなのでしょうか」
うん、とハルトウィンは一呼吸おく。
「我々は人々から無条件で尊敬され、政治の権力もおのずから持っている。その結果裕福な生活も送ることが許されている。すでに物質的な幸せは満たされていると言っていいだろう。ならば――他人を幸せにすること、つまり領民を幸せにすること、さらにはそれにとどまらず自分を頼りにしてくる人々を助けることが責務なのではないのだろうか」
自分の力で、自分の領民たちを幸せにする可能性がある、そうできるはずと説くハルトウィン。
「永遠にラディム殿がその責務を果たす必要はない。自分がその人に耐えられないと思えば、他の更に能力ある人物にそれを委ねても良い。我らは権威のみ保持して社会を安定化させればよいのだ」
「ハルトウィン様......」
ラディムがじっとハルトウィンの顔を見つめる。
「今後も色々教えて下さい。若年の身ゆえ、知らないことが多すぎます。領主としてあるべき、いや『人』としてあるべき姿を教授いただければ、私ができることはすべてさせていただきます」
「いや」
ハルトウィンは苦笑して、そうさえぎる。
「これはいささか、演説が過ぎたようだ。僅かに年長で、恥ずかしいことだ」
「ハルトウィン様」
ラディムがじっと、ハルトウィンを見上げる。男女の違いがあるとはいえ、まだ一四歳になったばかりのラディムはハルトウィンより頭一つ小さい。
「お願いがあります」
「私でできることなら」
「二人でいる時は.....あの......その」
「?」
「お、おねえさま......とお呼びしては......だめですか......私にはそういう肉親がおらず......そのような方がおられれば......私も」
にこっとほほえみを返す、ハルトウィン。
「造作もない。私も聡明な弟が出来てなによりだ。よろしく頼むぞ」
破顔するラディム。両手を差し出し、ギュッとハルトウィンの手を握る。
次の日の朝、ハルトウィンは後悔する。自分があまりに恥ずかしいことを言ってしまったことに対して――
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