銀髪のカイゼリン~オストリーバ帝国物語

八島唯

文字の大きさ
28 / 35
第2章 クリューガー公国との戦い

ヘルツフェルトの応対

しおりを挟む
 陰気な顔が二人の前に立っていた。その後ろから二人の従者が飛び出してくる。腰の兼に手をかけるの二人。カレルが体を乗り出しラディムを後ろに下げる。同じようにヘルツフェルトが両手で従者を制した。そしてうやうやしく、しかしその完璧な礼は逆に慇懃にも感じられるような深い礼をラディムの側に行った。
「これは、長い道のりをお疲れ様でございました」
 うむ、大義ないとラディムが定型句で答える。
「公太子殿下におかれては、こちらでゆっくり逗留ができますように取り計らわさせていただきます。当帝都クリューガー公邸執事のラルス=ヘルツフェルトと申します」
「二つ質問がある」
「いかようにも」
 カレルの問いに、ヘルツフェルトがハキハキと答える。
「公太子殿下という言い方、なにか含むところがあるのか。現在の当主はラディム様をおいて他にいないはずだが。旧主への未練か」
 カレルの厳しい問いに、小さく首を振るヘルツフェルト。うつむいたまま続ける。
「まだ正式に襲爵を済ませておいででございませんので。正しき呼び方が失礼ないかと」
「もう一つ」
 少し間をおいてカレルは問いただす。
「公邸の主は公使のはず。こちらの公使はアンデションなるものと聞き及んでおるが、彼は如何に?」
「アンデション公使閣下は」
 今まであまり感情を見せなかったヘルツフェルトが、少し大きな声で質問に答える。
「四日ほど前に、出奔されました」
 なるほど、それならば合点がいくなとカレルはうなずく。不甲斐ないこととはいえ。
 それにしても、このヘルツフェルトなる執事の責任感にカレルは少し感心する。やや慇懃無礼なのを除けば。


 夕食。質素ではあるが心のこもった料理がテーブルに並ぶ。油はあまり使用されず、商家の良さそうな皿が並べられる。毒味、をする必要もなさそうだとカレルは感じた。最もラディムくらいの貴人になると、食事によく見る種類の毒が入っていても気づくような能力が備わっているようだが。
「美味しい」
 ラディムがそうつぶやく。
「ありがとうございます」
 事務的なヘルツフェルトの答え。
 フォークをテーブルの上にそっとラディムは置く。
「長旅、正直色々消耗しきっていたところだ。しかし――このディナーの中に少しだけ薬物の感じがした」
 そっと指輪をラディムは掲げる。鈍く青く光る指輪。
「ひとくち食べてみてわかった――これははるか東方のほうで珍重される薬膳の手法を使っていると」
 カレルは当惑する。全くそんなことは気づかなかったからだ。
 うやうやしく礼をするヘルツフェルト。
「アンデション公使は出奔の際にこの公邸の金目の物を持ち出したに違いない。なのにこのような振る舞いができるというのは――執事の個人的な判断と負担であろう」
 そう言いながら、そっと短剣をラディムは取り出す。
「この心遣いに報いたい。汝ラルス=ヘルツフェルトを準騎士にすることを認めるとともに、当公邸の正式な公使に任ずるものとする。私はまだ当主ではないが、前当主はすべての権限を放棄したことを認めている。私にクリューガー公家臣の人事権はあると思うが」
 驚いた顔を見せるヘルツフェルト。少しの沈黙の後、膝を付き今までにはない真摯な態度でラディムの差し出す短剣の鞘を両手でおしいだいて、受け取る。
(......公太子殿下、実はすごい方なのか。それとも......)
 カレルはその様子を見ながらそう心の中に思い浮かべる。
 帝国首都、最初の夜はゆっくりとふけることなった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...