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番外編
*傾国の美貌
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「王妃様、こちらの宝石、嫋やかな王妃様の首元にぴったりでしょう。ぜひとも身に着けていただきたく……」
「わあ、綺麗ですね。けど必要ありません」
アージュ様の目の色の方が綺麗。
「この毛皮、遠い大陸にしかいない柄で、処理も最高のものを施しております。ぜひ王妃様にご贔屓にしていただきたく……」
「ふわふわですね。けれどいりません」
アージュ様の毛の方がふわふわしている。
特にアージュの体温を感じられる点が優れていて、温かさなど段違いだ。
「この楽人、美しい声、美しい姿でございましょう。ぜひ王妃様の側に侍ることをお許しいただけないでしょうか」
「わあ、綺麗な方ですね。けど必要ありません」
アージュ様の方がずっと綺麗で格好良い。
それに、リューのなによりの宝物は、アージュと二人きりになれる時間なのだ。だから今まで通り、アージュが薦めてくれた最小限の護衛と使用人がいてくれればいい。
リューは回廊を小走りする。曲がり角で振り返り、王妃付きの護衛以外、誰も追ってきていないのを確認する。
そして、ふう、と肩の力を抜いた。
「また捕まりそうになっちゃった」
王妃になってから、リューの元にはすごいものを自慢しに沢山の人が訪れるようになった。
皆、何かを譲ってくれようとするいい人たちだ。
けれどアージュもリュー自身も望んでいないことなので、少し困る。
リューの持ち物は、できるかぎりアージュからのプレゼントで統一している。あまりこだわりのないリューの、唯一のこだわりだ。
ほとんどの来訪は、アージュの指示で退けられている。
それでも、庭仕事のため城内を移動しているときに声を掛けられることがあるのだ。
護衛のリーダーが間に入って断ってくれることもあるが、相手の押しに逆らえなくて受け取ってしまうことがある。
そういう場合は、アージュに頼むと送り返してくれる。アージュは毎日、リューが今日何していたか聞いてくれるので、その時伝えるのだ。
(けど……)
アージュに伝えた相手は、二度とリューに会いに来なくなる。リューのことを失礼な奴だと思って、嫌いになってしまったのかもしれない。
(王妃って難しい……)
静かな回廊をとぼとぼと歩く。
(欲しいものなんてないのに……。アージュ様がくれるものが一番素敵。アージュ様は僕に……沢山のものをくれる)
自慢になってしまうから、人前では言いたい気持ちを抑える。穏やかな笑顔で皆の話を聞く素敵な王妃像を目指しているのだ。
(まだまだ遠い……)
けれど、謙虚な態度が望ましいって小説に書いてあったから、頑張らないと。
考え事をしていたら、角を曲がったところでまた、贈り物を抱えた人に見つかってしまった。
「花がお好きとお聞きしたので、こちらを受けとっていただけませんか。この辺りでは見られない花でしょう」
「綺麗ですね。けど、お花はアージュ様からのプレゼントしか受けとっちゃだめって言われているんです」
ああ、だめ。頬が緩む……。アージュ様にやきもち妬いてもらえるなんて、なんて幸せ者だろう。
その時は我慢できたけれど、夜になって、アージュと話しているうちに、その時のうずきを思い出してしまった。
「アージュ様、我慢できなくなったので自慢話してもいいですか」
こんなこと、夫のアージュにしか言えない。
「いいぞ」
「それでは……」
すうっと息を整える。
「僕はアージュ様のお嫁さんです!」
はあ……、すっきりした!
リューの得意顔を、アージュは驚いた顔で見る。
「……今のが自慢か」
「はい!」
「私も自慢話をしていいか」
「もちろんです」
「私はリューの夫だ」
「!」
「部屋に帰ると、可愛いリューがずっと側にいてくれる」
「えへへ……」
「くっついて、甘えてくれる」
「甘えているのは他の人には秘密ですよ」
「ああ、私がリューに甘えているのもな」
アージュはリューの膝に頭を載せた。
「はい」
リューはその頭を撫でる。
気持ち良さそうに目を閉じるアージュが可愛らしい。
うっとりと見つめながら、髪のふわふわの感触を楽しんだ。
(……毛皮、くれようとしていた人もいたな)
リューはベッドの上をじっと見て、手を伸ばす。
「何だ?」
「アージュ様の抜け毛を拾っています」
「!」
せっせと手を動かすリューを、アージュはわなわなと震えて見上げる。
「き、気になるのか。その、今は換毛期で……」
「わあ、じゃあいっぱい手に入りますね。あのね、アージュ様の毛で何かふわふわのものを作って、いつも身に着けるのです」
リューは自分の名案を満面の笑みで教えた。
「……そうか」
アージュは胸を撫で下ろしたが、
「リュー……」
ちょっと弱弱しい声で、アージュはリューの腰を抱き寄せた。
「どうしました」
「…………」
少し不機嫌そうな顔で、リューの腰に頬ずりしている。
リューは戸惑ったが、そろそろとアージュの獣耳の後ろを撫でる。アージュの表情は気持ちよさそうに緩んだ。
数日後、リューは裁縫の指導を受けに、応接間へと向かった。
アージュが頼んでくれた先生が来ているはずだ。
「あ、花嫁衣装を作ってくれた方です」
「ご記憶いただき嬉しく思います。王妃様自らお裁縫をなさるということで、お手伝いさせていただきますね」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。ポンポンをご希望でしたね。いくつか材料をお持ちしましたが、お好みのものはございますか」
「材料は持ってきました! アージュ様の毛ですよ」
リューは意気揚々と毛を包んだ布を広げる。
「え……、あ……、かしこまりました」
「昨日アージュ様に切らせてもらったんです。足りなかったらもっと切っていいって言ってくれました」
「いえいえいえ、十分ですから! 大事に……、丁寧に、絶対足りなくならないよう作りましょう……」
「もちろんです!」
仕立て屋が丁寧に教えてくれるのを見聞きしながら、一から全てリューの手で作りあげた。
リューは作った髪飾りを身に着けた。
ポンポンが二つ、耳の上で揺れる。アージュと同じ感触のふわふわがこめかみに触れるのだ。
意味もなく首を傾げたりしながら、アージュの帰りを待った。
居室に帰ってきたアージュをソファに座らせて、その前で格好良くポーズをきめる。
「えへへー、お揃いの毛色です。これで僕も魔獣族ですか」
「そうだな」
「やった」
アージュの元に走り寄り、ソファの上に引き上げて座らせてもらう。
「魔法も使えるようになりたいなー」
「魔法なら……、リューは私を誘惑する魔法を使えるよ」
「――!」
リューはぱちくりと目を瞬かせる。
「……えいっ」
人差し指を杖代わりにアージュに向かって振る。
「愛してる。私の可愛いリュー……」
甘い声で囁いて、抱き寄せて口付けしてくれた。
「アージュ様……、ん……、もっとぉ……」
「はぁ……、ん……リュー、……今のでは呪文が足りないぞ」
「アージュ様……大好き」
抱きついて耳元で囁く。
「愛してます」
「……素敵な魔法だ」
(アージュ様……)
優しい笑顔がすぐ近くにある。
「目を瞑れ」
もっとアージュの笑顔を見ていたかったけど、再び近づいてきた唇も嬉しくて、リューは目を閉じた。
「アー……ジュ……さま……」
何度も、何度も口付けを受けた。吐息が混ざり合って、体が熱くなっていく。
「リュー……」
息を乱したリューを、アージュは優しく抱きしめ、自身の上着を掛ける。アージュの胸と、腕と、服に包まれ、リューは二人の寝所へと運ばれた。
ベッドの上に横たえられる。
「汗をかくから、これは外すぞ」
「はい」
耳のポンポンの感触がなくなる。そのついでに、アージュは頬に口付けを落としていった。それだけのことが、熱を持ってしまったリューの体には毒のように沁みる。
涙目でアージュを見上げるリューを、アージュは満足そうに見下ろしている。
ほのかな灯りの中で、熱い体が交わり合う。
「あ……、――……っ、アージュ様ぁ……」
「リュー……」
アージュがくれるものの中で、とてもとても熱いもの……。
体から力が抜けて、リューはベッドに背を預けた。
リューの上で、アージュが静かに息を吐く。
彼の上の目が横を向き、魔力の蔦がテーブルの水差しとコップに伸びた。
「休憩だ」
リューの上半身を起こし、水を飲ませてくれる。いっぱい喘いだ喉に沁み渡る。
「……ん」
水が美味しくて勢いよく飲み過ぎたせいで、口の端から零してしまった。裸体を伝う水を、アージュが唇を寄せて止めてくれた。
「……あっ……」
あばらの浮いた辺りに触れた唇が、水が伝った跡を上り、胸を舐めて、小さな尖りをそっと包んだ。
「も、もう……、休憩でしょう?」
「……交合じゃない。癒されたいだけだ」
(何が違うんだろう……?)
アージュはリューの胸の上に頭を預け、そのまま目を瞑った。
……確かに熱っぽい愛撫ではない。
温かい唇が優しく吸うだけ。なんだか心地良い。
「……えへへ」
熱いものを出した脱力感と、一つになった達成感。同じものをアージュも感じているのだろう。リューの鼓動をゆりかごにして……、でもまだ寝たくはない。離れがたいような……。
リューはアージュの頭を優しく撫でる。胸を吸うのを褒めるように。
ゆったりとした時間。リューにとって世界で一番美しい顔を眺めながら、ふわふわの髪を手で梳く。
だんだんと吸う力が弱くなってきた。アージュの目がぼんやり細くなり、眠そうな表情。
リューは眠気を妨げないよう、穏やかに声を掛ける。
「アージュ様、このままお休みになりますか?」
「…………」
アージュは答えるかわりにリューの足を取った。
「あっ……」
アージュの股の間に引き寄せられて、ふくらはぎに熱い感触が擦りつけられる。
「……っ。……いっぱい大きくなってくれて、嬉しいです」
ちゅうっと元気よく吸われ、
「あぁんっ!」
リューは声を上げて身悶えた。
「ああ……、ん……」
舌でぺろっと押された後、しばらくぶりに解放されて空気に触れる。
赤く熟れて尖ってしまった……。もう一つも、赤くはなっていないが期待するように張っている。
「こんなに腫らして……ごめんな」
甘い声で謝ると、もう一つの方を舌で撫でた。
「……――っ。……いいのです。嬉しいから……」
アージュの頭を抱き寄せる。
許されたアージュは、口元にある乳首を唇で閉じ込めて吸った。休憩とは違う、リューを煽るように唇と舌で愛撫している。
「……ん……っ」
「ふふ」
アージュ様、嬉しそう。微笑みながら咥えてくれる。
リューをぞわぞわさせる快感に耐えて、アージュの頭を抱き寄せる。
「好き……、あ……んっ、……気持ちいい……」
「私もだ。いっぱい……いっぱい吸いたい」
「これから……、ずっと二人だけの家族ですから……、赤ちゃんの分までアージュ様が吸ってください」
「――……!」
(んっ――……、おちんちん、びくってした)
アージュは口を開いた。けれど言葉を失ったように、開いたままだ。
リューはその唇に期待するように見蕩れながら、アージュの髪を撫でる。
撫でているうちに、アージュの口元からふっと力が抜けた。
「リューに国が傾くようなことをねだられても、抗える気がしない……」
ちょっと困ったように言う。
「ねだりませんよ……?」
リューは立派な王妃になって、アージュを助けたいのだから。
(ああ、でも、この部屋にアージュ様を閉じ込められたら……)
今ここにある甘い時が、永遠に続いたら……。
「リュー?」
「はっ」
アージュの声で、思考の中に入っていたリューは正気を取り戻した。
「……ねだりませんよ? けど、期間限定とかなら……」
「期間限定? ずっとで構わないが、何か頼みがあるのか」
「えへへ、頼むとき教えますね。今は内緒ですっ」
アージュがリューをじっと見つめてくる。内緒のこと、今ばれるのはちょっと恥ずかしい。リューはにこにことごまかそうとする。アージュもふっと笑った。
「頼んでくれる時が楽しみだ」
そう言って、優しく口付けてくれる。
(アージュ様……)
ゆったりと食まれながらうっとりしていると、
(熱い……)
足に擦りつけられる熱から、くちゅっと濡れた音がした。
「わあ、綺麗ですね。けど必要ありません」
アージュ様の目の色の方が綺麗。
「この毛皮、遠い大陸にしかいない柄で、処理も最高のものを施しております。ぜひ王妃様にご贔屓にしていただきたく……」
「ふわふわですね。けれどいりません」
アージュ様の毛の方がふわふわしている。
特にアージュの体温を感じられる点が優れていて、温かさなど段違いだ。
「この楽人、美しい声、美しい姿でございましょう。ぜひ王妃様の側に侍ることをお許しいただけないでしょうか」
「わあ、綺麗な方ですね。けど必要ありません」
アージュ様の方がずっと綺麗で格好良い。
それに、リューのなによりの宝物は、アージュと二人きりになれる時間なのだ。だから今まで通り、アージュが薦めてくれた最小限の護衛と使用人がいてくれればいい。
リューは回廊を小走りする。曲がり角で振り返り、王妃付きの護衛以外、誰も追ってきていないのを確認する。
そして、ふう、と肩の力を抜いた。
「また捕まりそうになっちゃった」
王妃になってから、リューの元にはすごいものを自慢しに沢山の人が訪れるようになった。
皆、何かを譲ってくれようとするいい人たちだ。
けれどアージュもリュー自身も望んでいないことなので、少し困る。
リューの持ち物は、できるかぎりアージュからのプレゼントで統一している。あまりこだわりのないリューの、唯一のこだわりだ。
ほとんどの来訪は、アージュの指示で退けられている。
それでも、庭仕事のため城内を移動しているときに声を掛けられることがあるのだ。
護衛のリーダーが間に入って断ってくれることもあるが、相手の押しに逆らえなくて受け取ってしまうことがある。
そういう場合は、アージュに頼むと送り返してくれる。アージュは毎日、リューが今日何していたか聞いてくれるので、その時伝えるのだ。
(けど……)
アージュに伝えた相手は、二度とリューに会いに来なくなる。リューのことを失礼な奴だと思って、嫌いになってしまったのかもしれない。
(王妃って難しい……)
静かな回廊をとぼとぼと歩く。
(欲しいものなんてないのに……。アージュ様がくれるものが一番素敵。アージュ様は僕に……沢山のものをくれる)
自慢になってしまうから、人前では言いたい気持ちを抑える。穏やかな笑顔で皆の話を聞く素敵な王妃像を目指しているのだ。
(まだまだ遠い……)
けれど、謙虚な態度が望ましいって小説に書いてあったから、頑張らないと。
考え事をしていたら、角を曲がったところでまた、贈り物を抱えた人に見つかってしまった。
「花がお好きとお聞きしたので、こちらを受けとっていただけませんか。この辺りでは見られない花でしょう」
「綺麗ですね。けど、お花はアージュ様からのプレゼントしか受けとっちゃだめって言われているんです」
ああ、だめ。頬が緩む……。アージュ様にやきもち妬いてもらえるなんて、なんて幸せ者だろう。
その時は我慢できたけれど、夜になって、アージュと話しているうちに、その時のうずきを思い出してしまった。
「アージュ様、我慢できなくなったので自慢話してもいいですか」
こんなこと、夫のアージュにしか言えない。
「いいぞ」
「それでは……」
すうっと息を整える。
「僕はアージュ様のお嫁さんです!」
はあ……、すっきりした!
リューの得意顔を、アージュは驚いた顔で見る。
「……今のが自慢か」
「はい!」
「私も自慢話をしていいか」
「もちろんです」
「私はリューの夫だ」
「!」
「部屋に帰ると、可愛いリューがずっと側にいてくれる」
「えへへ……」
「くっついて、甘えてくれる」
「甘えているのは他の人には秘密ですよ」
「ああ、私がリューに甘えているのもな」
アージュはリューの膝に頭を載せた。
「はい」
リューはその頭を撫でる。
気持ち良さそうに目を閉じるアージュが可愛らしい。
うっとりと見つめながら、髪のふわふわの感触を楽しんだ。
(……毛皮、くれようとしていた人もいたな)
リューはベッドの上をじっと見て、手を伸ばす。
「何だ?」
「アージュ様の抜け毛を拾っています」
「!」
せっせと手を動かすリューを、アージュはわなわなと震えて見上げる。
「き、気になるのか。その、今は換毛期で……」
「わあ、じゃあいっぱい手に入りますね。あのね、アージュ様の毛で何かふわふわのものを作って、いつも身に着けるのです」
リューは自分の名案を満面の笑みで教えた。
「……そうか」
アージュは胸を撫で下ろしたが、
「リュー……」
ちょっと弱弱しい声で、アージュはリューの腰を抱き寄せた。
「どうしました」
「…………」
少し不機嫌そうな顔で、リューの腰に頬ずりしている。
リューは戸惑ったが、そろそろとアージュの獣耳の後ろを撫でる。アージュの表情は気持ちよさそうに緩んだ。
数日後、リューは裁縫の指導を受けに、応接間へと向かった。
アージュが頼んでくれた先生が来ているはずだ。
「あ、花嫁衣装を作ってくれた方です」
「ご記憶いただき嬉しく思います。王妃様自らお裁縫をなさるということで、お手伝いさせていただきますね」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。ポンポンをご希望でしたね。いくつか材料をお持ちしましたが、お好みのものはございますか」
「材料は持ってきました! アージュ様の毛ですよ」
リューは意気揚々と毛を包んだ布を広げる。
「え……、あ……、かしこまりました」
「昨日アージュ様に切らせてもらったんです。足りなかったらもっと切っていいって言ってくれました」
「いえいえいえ、十分ですから! 大事に……、丁寧に、絶対足りなくならないよう作りましょう……」
「もちろんです!」
仕立て屋が丁寧に教えてくれるのを見聞きしながら、一から全てリューの手で作りあげた。
リューは作った髪飾りを身に着けた。
ポンポンが二つ、耳の上で揺れる。アージュと同じ感触のふわふわがこめかみに触れるのだ。
意味もなく首を傾げたりしながら、アージュの帰りを待った。
居室に帰ってきたアージュをソファに座らせて、その前で格好良くポーズをきめる。
「えへへー、お揃いの毛色です。これで僕も魔獣族ですか」
「そうだな」
「やった」
アージュの元に走り寄り、ソファの上に引き上げて座らせてもらう。
「魔法も使えるようになりたいなー」
「魔法なら……、リューは私を誘惑する魔法を使えるよ」
「――!」
リューはぱちくりと目を瞬かせる。
「……えいっ」
人差し指を杖代わりにアージュに向かって振る。
「愛してる。私の可愛いリュー……」
甘い声で囁いて、抱き寄せて口付けしてくれた。
「アージュ様……、ん……、もっとぉ……」
「はぁ……、ん……リュー、……今のでは呪文が足りないぞ」
「アージュ様……大好き」
抱きついて耳元で囁く。
「愛してます」
「……素敵な魔法だ」
(アージュ様……)
優しい笑顔がすぐ近くにある。
「目を瞑れ」
もっとアージュの笑顔を見ていたかったけど、再び近づいてきた唇も嬉しくて、リューは目を閉じた。
「アー……ジュ……さま……」
何度も、何度も口付けを受けた。吐息が混ざり合って、体が熱くなっていく。
「リュー……」
息を乱したリューを、アージュは優しく抱きしめ、自身の上着を掛ける。アージュの胸と、腕と、服に包まれ、リューは二人の寝所へと運ばれた。
ベッドの上に横たえられる。
「汗をかくから、これは外すぞ」
「はい」
耳のポンポンの感触がなくなる。そのついでに、アージュは頬に口付けを落としていった。それだけのことが、熱を持ってしまったリューの体には毒のように沁みる。
涙目でアージュを見上げるリューを、アージュは満足そうに見下ろしている。
ほのかな灯りの中で、熱い体が交わり合う。
「あ……、――……っ、アージュ様ぁ……」
「リュー……」
アージュがくれるものの中で、とてもとても熱いもの……。
体から力が抜けて、リューはベッドに背を預けた。
リューの上で、アージュが静かに息を吐く。
彼の上の目が横を向き、魔力の蔦がテーブルの水差しとコップに伸びた。
「休憩だ」
リューの上半身を起こし、水を飲ませてくれる。いっぱい喘いだ喉に沁み渡る。
「……ん」
水が美味しくて勢いよく飲み過ぎたせいで、口の端から零してしまった。裸体を伝う水を、アージュが唇を寄せて止めてくれた。
「……あっ……」
あばらの浮いた辺りに触れた唇が、水が伝った跡を上り、胸を舐めて、小さな尖りをそっと包んだ。
「も、もう……、休憩でしょう?」
「……交合じゃない。癒されたいだけだ」
(何が違うんだろう……?)
アージュはリューの胸の上に頭を預け、そのまま目を瞑った。
……確かに熱っぽい愛撫ではない。
温かい唇が優しく吸うだけ。なんだか心地良い。
「……えへへ」
熱いものを出した脱力感と、一つになった達成感。同じものをアージュも感じているのだろう。リューの鼓動をゆりかごにして……、でもまだ寝たくはない。離れがたいような……。
リューはアージュの頭を優しく撫でる。胸を吸うのを褒めるように。
ゆったりとした時間。リューにとって世界で一番美しい顔を眺めながら、ふわふわの髪を手で梳く。
だんだんと吸う力が弱くなってきた。アージュの目がぼんやり細くなり、眠そうな表情。
リューは眠気を妨げないよう、穏やかに声を掛ける。
「アージュ様、このままお休みになりますか?」
「…………」
アージュは答えるかわりにリューの足を取った。
「あっ……」
アージュの股の間に引き寄せられて、ふくらはぎに熱い感触が擦りつけられる。
「……っ。……いっぱい大きくなってくれて、嬉しいです」
ちゅうっと元気よく吸われ、
「あぁんっ!」
リューは声を上げて身悶えた。
「ああ……、ん……」
舌でぺろっと押された後、しばらくぶりに解放されて空気に触れる。
赤く熟れて尖ってしまった……。もう一つも、赤くはなっていないが期待するように張っている。
「こんなに腫らして……ごめんな」
甘い声で謝ると、もう一つの方を舌で撫でた。
「……――っ。……いいのです。嬉しいから……」
アージュの頭を抱き寄せる。
許されたアージュは、口元にある乳首を唇で閉じ込めて吸った。休憩とは違う、リューを煽るように唇と舌で愛撫している。
「……ん……っ」
「ふふ」
アージュ様、嬉しそう。微笑みながら咥えてくれる。
リューをぞわぞわさせる快感に耐えて、アージュの頭を抱き寄せる。
「好き……、あ……んっ、……気持ちいい……」
「私もだ。いっぱい……いっぱい吸いたい」
「これから……、ずっと二人だけの家族ですから……、赤ちゃんの分までアージュ様が吸ってください」
「――……!」
(んっ――……、おちんちん、びくってした)
アージュは口を開いた。けれど言葉を失ったように、開いたままだ。
リューはその唇に期待するように見蕩れながら、アージュの髪を撫でる。
撫でているうちに、アージュの口元からふっと力が抜けた。
「リューに国が傾くようなことをねだられても、抗える気がしない……」
ちょっと困ったように言う。
「ねだりませんよ……?」
リューは立派な王妃になって、アージュを助けたいのだから。
(ああ、でも、この部屋にアージュ様を閉じ込められたら……)
今ここにある甘い時が、永遠に続いたら……。
「リュー?」
「はっ」
アージュの声で、思考の中に入っていたリューは正気を取り戻した。
「……ねだりませんよ? けど、期間限定とかなら……」
「期間限定? ずっとで構わないが、何か頼みがあるのか」
「えへへ、頼むとき教えますね。今は内緒ですっ」
アージュがリューをじっと見つめてくる。内緒のこと、今ばれるのはちょっと恥ずかしい。リューはにこにことごまかそうとする。アージュもふっと笑った。
「頼んでくれる時が楽しみだ」
そう言って、優しく口付けてくれる。
(アージュ様……)
ゆったりと食まれながらうっとりしていると、
(熱い……)
足に擦りつけられる熱から、くちゅっと濡れた音がした。
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