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2:妖狐~盗賊少女~女盗賊
第19話 き、きもちくなんかないしっ……!
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「な!? バレたのか!?」
朧の化けた『イメルダ』のことを、キアが看破してみせた。たしかに俺も朧も、もちろん本物に会ったことがない。
どこかでボロが出るおそれはあったが――朧が風呂に入ろうとしたその途端に態度が変わった。
「姉御は絶対に肌を見せない!」
マジックミラーの向こうでキアが朧を指さし、
「水浴びだって1人でする! 男どもだけじゃなくて、女のウチにも見せないんだ!」
極度の恥ずかしがりなのか? ゲームで見た限りではそんな感じじゃなかったが。これも裏設定ってやつか――朧も慌てている。ここはどうにか誤魔化さないと。
とはいえ、ここからの軌道変更は厳しい。
イメルダの性格の深いところを知らない以上、取り繕うほど疑われるだろう。
「気を逸らすか、《クリエイト》!」
遠隔で風呂場を改造する。
ゴゴゴゴゴっと籠もった音がして、
「――なっ、なんだよ!?」
キアの足下から泡が噴出する。
ジャグジーだ。
「やっぱトラップかよ!? こんなの、くすぐったいだけで――」
むろん、こうなったキアが黙って入浴を続けるとは思えない。ジャグジーの泡、強制的に浴びせてやる!
俺はとあるモンスターに呼びかける。
「来い、ローパー!」
■ ■ ■
「うわわっ、今度はなんだよ!?」
キアの手足に、緑色のぬめった触手が絡みついた。
モンスターだ。陸を這うタコ……とでも形容すべきだろうか。いつの間にかその化け物は浴室の隅に現れて、4本の触手を伸ばしてきていた。
やはり、ここはダンジョンだったのだ。
「くっ、なにする気だ! やめろ離せばかっ!……ふ、風呂に浸ける気かっ!?」
何を考えているのか、特に危害を加えるでもなく、泡が吹き出す湯船へとキアの体を沈めてくる。
溺れさせようという意図でもない。さっきのようにリラックスした体勢で入浴させようとしているのだ。
「おいこら! そ、そんな際どいトコロ触んなっ!? きもい! やんっ!」
「ふぅむ、これはあるじ殿の助けじゃな」
「!?」
ボウン、と煙とともに『イメルダ』が姿を変えた――いや、正体を現したと言うべきか。
「わらわの完璧な変化が見破られるとは」
「き、キツネ女!?」
イメルダに匹敵する長身。さらりと流れる純白の髪に、頭からは三角形の獣耳が生えている。しっぽもある。妙なドレス姿で、悩ましいほどのボディラインがくっきりと現れている。
「このキツネ女! ウチをどーする気だ! こんな……こんな変態モンスターまで使って!」
「『じゃぐじー』というらしい」
「はあ!?」
「その気泡が湧き出る風呂の名じゃ。わらわも体験したことのない装置。喜ぶがよいぞ?」
「い、意味わかんなっ、――おぉっ?」
泡は、床面と壁面から噴き出していた。それもかなりの勢いだ。その泡がキアの身体を叩く。
「んっ、んッ!?」
腰が浮かされ、足や背中が揺らされる。
かつて味わったことのない感覚だ。変な声が出てしまう。
「ふぉっ!? ちょ、ストップ! これなにっ、あっ、あぁあ……?」
「しっかり洗わねばな。……おぬしよ。臭いのは本当じゃぞ? まともに風呂に入っておらんかったじゃろ?」
「あ、当たり前だ! つーか盗賊に風呂とかいらねーんだよ!」
「盗賊である前に1人のメスじゃろ? そのような調子では、強いオスに選んでもらえぬぞ?……もっとも、そういう趣味の紳士もおるかもしれんが。じゃがそれ、たぶん変態じゃぞ」
「い、いらねーよ! は、離せよぉ……」
抵抗はするのだが、湯でほぐれた身体には力が入らず、触手の拘束から抜け出せない。
「あとはそうじゃな――髪も大事じゃぞ。どれ、こちらに来い」
「は? えっ!?」
今度は触手に持ち上げられる。ジタバタしても無駄だった。
裸のまま、湯船の横にあった洗い場へと連行され、これまた木製の小さなイスに座らされた。
すぐ隣で、キツネ女が大胆に服を脱ぐ。同性であっても目を引かれるような豊満な女体。
「その汚れた髪を洗うてやる。光栄に思えよ?」
「え? ぷあっ――!?」
キツネ女がシャワーを手に、キアの頭頂部から湯を浴びせかける。湯船と同じで綺麗な温水。本当に、ただ髪を洗おうとしているらしい。
「い、いいってば! んぶぶぶ」
「これ、暴れるでない。――このシャンプーという代物、良いものじゃぞ? ほれ。こうして手の平で泡立ててじゃな……えい!」
――グシュッ
頭部にシャンプーの泡が染みこむ。
背後に立った女の、長くてしなやかな両手の五指がキアの髪を弄び、頭皮を揉みほぐす。
「まったく、いつから洗っておらんのじゃ? 不潔はいかんぞ。……とはいえ。わらわもあるじ殿に洗ってもらって色々と目覚めたワケじゃがな」
「あ、あるじ?」
「…………」
女は一瞬、不自然に押し黙ったあと、
「はるか東方、わらわの故郷におわす『あるじ殿』じゃ。ここにはおらん。絶っっっ対おらん。じゃから探しても無駄じゃぞ?」
「??」
「――ともかく。わらわは、そのあるじ殿の身体を洗ってご奉仕し、そしてあるじ殿から洗ってもらって、真の『主従』となったのじゃ」
「主従……」
――シュグ、シュグッ、ジュグッ
「うっ、あっ!? あ、あたま……」
泡が揉み込まれる。温かい。汚れが落ちて皮脂が溶かされる。凝り固まっていた頭皮のうえで、細いが力強い指が前後左右し、円を描き、踊りまわる。
「気持ち良かろう?」
「き、きもちくなんかないしっ……! んぅ、ぅう!?」
「力を抜くのじゃ。わらわに任せい」
――グシュッ、ジュグ、ジュグっ
「ふぅ、う……!!」
悔しいが、上手い。
いつの間にか抵抗を忘れ、頭皮の快感に涙すら溢れてきた。
「ふふ。ようやく快楽の味を知ったか、小娘よ? じゃがな。あるじ殿が与えてくださる快感はこの程度ではないぞ?」
「う、うそ」
「疑うなら、味わわせてやろうか? わらわが変化してやろうぞ、我が『あるじ殿』にな――」
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