転生悪役令嬢とモブ貴族

その1

私は大人しく、この不可思議な婚約披露宴に参加することになった。私が過ごす人生が、実は2回目であることを、なんとなく思い出した。平たく言えば、ぐれていた。思春期の反抗とでも言えばいいのだろうか。しょせんは、モブ令嬢だった。不良みたいに、存在感を示したかった。だから、私は色々なイタズラを試みた。

その究極は、皇帝の愛人という噂のあった同級生を、谷に突き落とした。彼女は死んだ。私は人殺しの罪で、しかも、皇帝に関わることだから、死刑になったのだ。

私は失うものなんてなかったから、死ぬことを恐れなかった。そして、そのまま死んだはずだった。目を覚ますまでは気がつかなかった。

目を覚ますと、非常に美しい男性が身をかがめて、私のことを見つめていた。

「こんにちは。お嬢さん……」

男性は私の頬にキスをした。私はこの時、恋って感情を抱いた。本当に。あれは恋だった。男性がこの世界の王子様であることを知ったのは、翌日のことだった。

「この辺りでは見かけない顔ですね。ひょっとして迷子ですか？私の家に来ませんか？」

なんとも親切な男性であった。私は今まで人に甘えることがなかった。貴族のくせに共働きで家計を支えていた両親に愛されることなんてなかったから。

甘えるのも結構いいものだと思った。

「可愛らしい」

男性はそう言ってくれた。

「よろしくお願いします」

私は、男性についていくことにした。