日常的な婚約破棄を眺めてみる

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日常

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「婚約破棄の会場はこちらかしら?」

今日もまた新しい令嬢がやってきた。婚約と婚約破棄の届け出を司る役所で事務作業をしている。今は、婚約よりも婚約破棄の申請に来る令嬢や貴族が多い。

「一刻も早く旦那の名前を消してください!そうしないと、修道院送りになっちゃうから!」

令嬢が恐れる修道院送りを回避するには、主人がやってくる前に手続きを済ませる必要がある。そうでないと、主人がやってきて、不届きものだと叫んで修道院送りになってしまう。

そんな駆け引きをずっと見てきた。最近の令嬢は慣れている。だから、修道院送りになる人は少ない。

そんなドラマの生まれる会場に、新たな令嬢がやってきた。

「こんにちは。婚約破棄の申請所へようこそ……あなたが婚約破棄を請け負ってくださるのですか?」

あまりにも話が噛み合わないのだが、それはそれで仕方がなかった。

「お名前を教えてください」

「お名前……忘れました」

「忘れた?あなたの名前を教えてください」

「忘れてしまいました」

自分の名前を忘れる令嬢なんているものだろうか。私は不信感を抱いた。

「それだと、ご主人の名前も分かりませんよね?」

「ああっ、それなら分かります!ええっと、チャールズ王子です」

「チャールズ王子ですって!」

思わず声を上げてしまった。あのチャールズ王子である。目の前の令嬢が王子の婚約者だなんて、とても信じられなかった。

「すると……あなたのお名前はルーシー様ですか?」

「ルーシー……そういう名前だったと思います」

なるほど、王子が相手では婚約破棄も大変なのだろう。

「それでは……こちらにサインしてください」

王族の婚約について、本来は役所の裁定だけで決定することはできない。しかしながら、何も知らないことにしてしまえば、問題はないと思った。

「王子との婚約を抹消しましたよ」

「ありがとうございます!」

令嬢は婚約破棄を達成したことで、安心したようだった。

「ありがとうございますありがとうございまーすありがとうございま……ムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャ……」

眠ってしまっていいのだろうか?

とりあえず、毛布をかけた。令嬢は夢の中を漂っているようだった。美しい寝顔だった。

万が一王子がやってきたら、この令嬢は修道院送りになってしまう。こんな令嬢が……もったいないと思った。


「私は魔がさしました。嫌ならば断ってくださいね」

令嬢を部屋に連れ込んだ。そして、窓口を閉め切った。

王子がやってきたら、令嬢のことは知りませんと言うつもりだった。そして、令嬢が目覚めたら、何か理由をつけて、婚約を申し込もうと思った。

ああっ、すでにゲットしちゃったか?

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