令嬢から娼婦へ

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娼婦

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 生まれも育ちも一流……だった。

 つまり、現在は最下層ということになる。

 令嬢をやめて娼婦になった。

 理由?

 生きる術がなくなったから。

 人形ハウスのようなマイホームが懐かしい。今では、牢屋みたいな狭苦しい小屋に閉じ込められて、男の相手をしている。女の子の理想を象ったベッドではなく、木でできた硬いベッドに寝っ転がり、男の相手をしている。
 
 処女……清らかなもの?

 王子様と恋に落ちて……子供を授かって……。

 その引き換えなんだよね?本来は。

 そう、でも私には関係ない……。

 いろんな男の、命の源を注ぎ込んでもらった。ああっ、私は何人のママになるんだろう。何人の子供たちを殺してきたのだろう……。

 偽善の愛よりもお金が欲しい……。

 生きるっていうのはそういうことだ。

「君のことが好きだ……」

 たった一度の夜を共にしただけなのに、男は皆そう言う。別にいいんだけど、本当に単純というか、なんというか……。ああっ、お金をくれるんですから、私にとっては皆神様ですよ!


 人は戦いを好む。

 兵士たちを慰めるのも娼婦の仕事。

 実は稼ぎ時だったりもする。

 一日に十人くらいの相手をする。皆、自分が強いことを主張する。何人殺したとか、どれくらいの財産を奪ったとか、そういう話をする。

 そういう兵士の話を聞いていると、なんだか勇気づけられる。

 所詮、みんなアリみたいにちんけだ。

 でも、生きているんだからそれでいい。

 どんな方法を使っても、生きていればそれでいい。

 令嬢の頃は、生きるってことを深く考えていなかった。

 与えられた人生をただ人形のように過ごすだけだった。

 戦争が起きて……名もなき兵士たちの武勇が興る時……私たち貴族は滅んだ。

 本来ならば、

「この愚民ども!」
 
 とでも罵るべきなのかもしれない。

 でも、彼らは私を解放してくれた。言うなれば恩人である。

 不自由な自由ではない。本当の自由を手に入れた。


 性に疎い兵士ってあんまりいないんだけど、たまにはいる。そういう人は、将来英雄になっている。

「君を救いたい……」

 その前に私があなたを救ってあげますよ?

 でも、そういう人は快感というものを知らないらしい。だから……あんまり意味がない。

「この世界を変革するんだ!」

 とりあえず、絵空事に耳を傾ける。

 私は……彼の理想によると、子供たちを育てているらしい。

 子供……そんな希望を私に託すだなんて。

 本当に変わったお人……。


 彼は……しかしながら本当に強かった。私らの生き残りを蹴散らして、人民政府を樹立してしまった。

「君もこれから救われるんだ!」

 彼は私のことを憶えていた。

「救われる……と言いますと?」

「人間として生きることができるんだ」

 そうか……。

 今までは人間じゃなかった。

 一番大切なものを奪われた操り人形だったのか……。

「僕が……君の将来を約束する」

「はいっ……ありがとうございます……」

 将来について考えたことはなかった。

 とりあえず、令嬢でもなく、娼婦でもない、単純な女としての人生がスタートした、ということだ。

 今後ですか?

 さあっ……どうなるんでしょうね?

 私にも分かりませんよ。
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