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その11

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私は当然、ある種の怒りを感じていた。でも、今回は怒りばかりで済ませたら、また過去と同じになってしまうことを知っているから、そうしない。

屋敷は、オープンドアのように自由だった。この自由さは、私が今まで抱いていたホームよりも気休めになった。だが、それに安心して何もしないと、結局意味がないのだ。

とりあえず、帰る家があることに感謝しよう。そして……いつものように編み物をしている母親が、私の姿を見て、

「一体どうしたんですか?」

と質問をしてくる。ここまでは予想通りだ。問題は、この後の返事をどうするかだ。ハルトマン王子に婚約破棄された事実を明らかにして、家に帰ってきたと告げればいいのだろうか。それだと、母親とは変なムードに巻き込まれて、話がややこしくなると思った。でも、かといって、隠すことなんてできないから、やんわりと伝えることにした。

「ハルトマン王子様から、少しのお暇を頂きましたの。ほら、私みたいな令嬢がいきなり王宮に入りますと、それまでの生活が大きく変わってしまうので、そこに色々な不自由がありますでしょうと。ハルトマン王子様は、私のことをとても大切に思ってくださるみたいですわ。ですから……私のことを配慮して下さっているのです。それで……お暇を頂いたのでございます……」

私がこのように説明すると、母親は一応納得したようだった。

しかしながら、やはり、疑問が残ったのだろう。非常に不思議そうな顔で、私の方を何度もチラチラと見た。

あるいは、ローズのように何もかもお見通しということだろうか?それならば、再び厄介である。

ならば、このまま、ローズの件について話してしまってもいいのではないか、と、そんなことも考えてみた。しかしながら、私よりも遥かに可愛がっているローズのことを悪く言うと、それはそれで問題になりそうだったから、それに関しては胸の中にしまいこんだ。

「どうして……どうしてこんなことになってしまったのかしら……」

母親は確かにそう言っていた。何度も何度も自問自答を繰り返しているようだった。

でも、その理由を本当に知りたいのは、他ならぬ、この私だった。

私にだって知る権利はあるんだから。そんなものを否定することができるのは、精々神様くらいなんだから。このまま言うことをきけば、あるいは…………………………?






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