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その2
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「ところで、スミスはこの遺跡を探検しに来たのよね?」
「ああ、そうだよ?」
「よかった!!!ならば、この遺跡の暮らしに興味があるのね?それだったらさ、私と一緒にここで生活しない?」
「ここで生活って……ここは遺跡じゃないか?ここでどうやって生活するって言うんだよ?」
「ああ、それなら大丈夫。ここは人間世界とは隔絶した時空になっているの。そして、地下には、私たち魔物のコミュニティーが広がっているの。そこで、生活すればいいのよ!!!」
隔絶した時空、魔物たちのコミュニティー……話を聞くだけでも、恐ろしくなってきた。そんなところに、人間が足を踏み入れたら……すぐに殺されそうな気がした。
「あらっ……ひょっとして私たちのこと怖がっているの?ああ、そうか……」
イーストは何かを思い出したようだった。
「私たち魔物と、スミスたち人間は敵対関係にあるのか……そして、私たちの方が圧倒的に強いから……人間には勝ち目がない……そうか、だから、私たちを恐れているのね?」
ようやく理解してくれたようだった。僕は何度も頷いた。冗談じゃない。このまま、魔物の世界に引きずりこまれたら、本当に自分がどうなってしまうか分からないんだから。いくら人間世界が嫌いとは言え、魔物に食い殺されるよりはましだ。人間世界で、一人で生きている方が……よっぽどましなんだ……。
「なんだ、だったら最初からそう言ってくれればよかったのに。安心して?ほら、さっき上げた石、あれはスミスとすごく相性がよさそうだから。ほら!!!」
イーストは、さっきの石を再び僕に手渡した。
「ポケットにでも入れておきなよ。そうすれば、あなたも魔物みたいに強くなれるから!!!」
「ということは……これは、魔物の力を引き出すマジカルストーンなのかな?」
「人間世界ではそう言うの?知らなかった。まあ、多分そうじゃないかしら?」
なるほどなるほど……僕はある程度納得した。
「それじゃ、今から地下に降りるわね!!!」
そう言って、僕の意志を確認しないままに、イーストはワープを始めた。もちろん、イーストは僕の手を放そうとしなかった。結果、イーストと一緒に、遺跡の地下とやらにやって来てしまった。
「はい、到着しました。さてと、とりあえず、学校に行こうかしら?」
「学校?魔物にも学校があるのかい?」
「ええ、もちろんよ。さあ、行きましょう。ああ、転入届は、着いたら私が出しておくから!!!」
そう言われて、イーストに招かれ、僕は魔物の学校に足を踏み入れた。
「あら、愛しの王子様がやっと見つかったの?」
「こいつは……ひょっとすると人間か?」
「ええっ、イーストは人間と恋に落ちたっての?」
見た目はみんな人間なのだ。だが、彼らは僕のことを人間だと見抜いてしまう。何かが違うのだ。ニオイだろうか?魔物特有の獣臭さが、僕にはないのだろうか?
「イースト様が恋人を作ったって?しかも相手は雑魚の人間だとっ!!!」
他の教室から飛び込んできた男(オス?)の魔物たちが、集団で僕の周りを囲い込んだ。ひょっとして……こっちの世界にも、好きな女の子のファンクラブ的なやつがあるのだろうか?人間と同じなのかな。あははは……。それにしても強そうだな……。
「俺たちの許可なしに、なに勝手にイースト様と一緒になってるんだ?しかも、人間だと!!!このクソッタレが!!!俺様が食い殺してやらああっ!!!」
一番屈強そうな魔物が、文字通り、僕の首筋目がけて飛んできた。間違いなく、このままだと食い殺される。ああ、やっぱり来るんじゃなかった、と後悔したそのとき。
「お止めなさい!!!」
突如、イーストの険しい声が、教室内に轟いた。イーストの姿を見ていると……とても凶暴な面構えだった。そして、他の魔物たちをものすごい形相で睨み付けていた。まさに、食い殺そうとしているようだった。
「あなたたち……私の命の恩人であるスミスを傷つけようとしましたね?ええっ?」
声には迫力があった。魔物たちはガクガクと震えていた。
「いいえ、決してそのようなことは……」
「私のスミスを傷つけようとした者は、この私が容赦しませんよ!!!」
「ひええええっ!!!申し訳ございません!!!」
どうやら、イーストは相当強い魔物のようだ。恐らく、スクールカーストのトップなのだろう。
そんなことを考えている内に、僕は一つの疑問が浮かんだ。
「スミス!!!大丈夫ですか?」
魔物たちが去っていくと、イーストが子犬のように飛びついてきた。そして、私の首筋や顔を面前でペロペロと舐め始めた。これには、さすがの僕も恥ずかしくなった。
「イースト!!!止めてよ!!!」
「いいえ、止めません。私の大切な旦那様を癒すためには、こうするしかないのです!!!」
「そうは言ったって……みんな、見てるじゃないか……」
僕は本当に恥ずかしくて、せめて、場所を移そうと思ったが、イーストがものすごい力で僕の身体を押さえつけているので、身動きが取れなかった。
「それに……こうやってマーキングを見せつければ、私たちの間を引き裂こうとする輩はやってこないのでございますよ???」
マーキング……なんか、言葉の響きに一種の狂気を感じたが、それは聞かないことにした。
イーストのマーキング……いやいや、愛撫が一段落して、僕は質問をした。
「そう言えば、これだけの力を持っているのに、どうしてあの時は力を使うことができなかったの?」
「ああ、それはですね。私の性格によるものなのです。私の性格は内弁慶と申しましてね、この魔物の世界では、莫大なる威力を発揮することができるんですけど、人間世界に近付くと、その力がものすごく落ちてしまうんですよ。ですから……ああやって人間に追われてしまいますと、私には勝ち目がないんです」
なるほど、それを聞いて、ある程度納得した。
「ですから!!!スミスがあのとき、颯爽とやって来て私のことを助けてくれたので、スミスは私の大切な王子様なんです!!!お分かりですか?」
そう言われると、納得した。
「ああ、そうでした!!!マーキングもいいですけれど、もっともっと明らかに見せつける方法があるのを忘れていました。スミス、目を閉じてくれますか?」
イーストに促されて、僕は言われた通りに目を閉じた。そして……何か柔らかいものが、僕の唇に触れた。
その瞬間、クラスに居合わせた女(メス?)の魔物たちが、
「きゃああああああっ!!!」
と声を張り上げた。驚いて目を開けると、そこには顔を真っ赤に染めて瞳をウルウルと震わせているイーストがいて、その唇を僕の唇と重ねていた。
「ああ、スミス……私は幸せなんです!!!もう死んじゃいそう!!!」
死んじゃいそうなのは、僕の方だった。マーキングは愚か、公然でキスをするだなんて、魔物はこれほどまでに大胆なのだろうか、と思った。いや、大胆にも程がある。恥ずかしいという次元を通り越して、これは……言葉じゃ言えないけれど、大変なことなのだと思った。
「どう?嬉しい?」
でも、目の前にいるイーストは、こうしてきちんと見つめると、やっぱり可愛い女の子だ。こんな女の子が僕のことを本気で好きになってくれるんだったら……やっぱり嬉しい。そして、イーストのことを守ってあげたいと思った。そう、人間と同じなんだ。これが恋なんだ。僕はいいものを見つけた。
「それにしても……イーストってやっぱり大胆だよね……」
魔物たちは、そんな僕たちの恋バナに花を添えていた。でも、彼ら彼女らの大半は、僕が人間であることをなんとも思っていないようだった。魔物は人間を滅ぼす存在……歴史書や神話にはそう書かれていた。そして、現実の僕たちも、魔物たちを恐れ、戦いの準備をしている。つまり、一触即発というわけだ。
それなのに、どうしてこれほど和やかなのだろうか?人も魔物も、その一部が偏見に基づいて行動しているだけなのだろうか?そうだとしたら……。
「いやあ、久しぶりだね。僕のイースト…………」
イーストはどうやら、この魔物の世界で最も美しいのかもしれない。異属種であるこの僕が、恋に落ちるくらいなのだから、魔物たちの間では、相当の人気者なのだろう。そして……僕はやっぱりよそ者なのだ。
「イースト、こちらの新入りは……あれ、ひょっとしてあの下劣な人間どものお仲間かな?」
下劣な人間どものお仲間……そう聞いて、僕ははっと我に返った。目の前に現れた魔物は、血生臭かった。
「ピリミジン……あなた、また人間を殺したの?」
イーストは叫んだ。
「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでくれよ。正当防衛だよ。向こうが武器を持って襲い掛かってきたから、食い殺しただけさ……。それがいけないことなのかい?」
ピリミジンと呼ばれたこの魔物は、恐らく僕が想像しているよりもパワフルで、僕が長年抱いてきた人間の脅威そのものだった。
「君は……ひょっとすると、人間のスパイなのか?ああ、そう言うことか。でもね、私の目をごまかすことはできないんだ。さあ、この場で死んでもらおう!!!」
「ピリミジン、止めて!!!」
イーストが制止をかけても遅かった。魔物は僕の方目がけて飛んできた。さっきの魔物よりも素早く、そして獰猛なめつきだった。今度こそ死んだ……僕はそう思った。そして、思わず、あの時のグーパンチが出てしまった。
「なにっ……?」
魔物は僕のグーパンチがヒットしたのか、腹から火が出ていた。
「どうしてだ!!!!」
魔物は叫んだ。僕のグーパンチがヒットした?でも相手は魔物だし……。解せなかった。て言うか、そんな場合じゃなかった。このままだと、この魔物は焼け滅んでしまうと思った。
「誰か!!!水を持ってきて!!!この火を消さないと。危ないよ!!!」
僕がこう言ったので、クラスにいた魔物たちが、井戸から水を汲み、魔物目がけて水をかけた。
そして、なんとか火はおさまった。
「あり得ない……ピリミジンがやられるだなんて……」
本当に信じられないのは、僕自身だった。
どうして……僕は普通の人間なのに……これほどの力を発揮してしまうのだろうか?
燃えかけた魔物は、何も言葉を発しなかった。私は魔物の元に近寄った。
「申し訳ない。君を傷づけるつもりはなかったんだ。さあ……僕の命を持って、神様にお伝え申し上げよう。どうか、その魂が天に迷われているのであれば、今一度、この世界にまかり給わん……」
聞き覚えのない不思議な呪文を、僕はまた独りでに語っていた。これまた、イーストからもらった石の力のおかげなのだろうか?そんなことを考えながら、僕は魔物の無事を祈り続けた。
「ああ、そうだよ?」
「よかった!!!ならば、この遺跡の暮らしに興味があるのね?それだったらさ、私と一緒にここで生活しない?」
「ここで生活って……ここは遺跡じゃないか?ここでどうやって生活するって言うんだよ?」
「ああ、それなら大丈夫。ここは人間世界とは隔絶した時空になっているの。そして、地下には、私たち魔物のコミュニティーが広がっているの。そこで、生活すればいいのよ!!!」
隔絶した時空、魔物たちのコミュニティー……話を聞くだけでも、恐ろしくなってきた。そんなところに、人間が足を踏み入れたら……すぐに殺されそうな気がした。
「あらっ……ひょっとして私たちのこと怖がっているの?ああ、そうか……」
イーストは何かを思い出したようだった。
「私たち魔物と、スミスたち人間は敵対関係にあるのか……そして、私たちの方が圧倒的に強いから……人間には勝ち目がない……そうか、だから、私たちを恐れているのね?」
ようやく理解してくれたようだった。僕は何度も頷いた。冗談じゃない。このまま、魔物の世界に引きずりこまれたら、本当に自分がどうなってしまうか分からないんだから。いくら人間世界が嫌いとは言え、魔物に食い殺されるよりはましだ。人間世界で、一人で生きている方が……よっぽどましなんだ……。
「なんだ、だったら最初からそう言ってくれればよかったのに。安心して?ほら、さっき上げた石、あれはスミスとすごく相性がよさそうだから。ほら!!!」
イーストは、さっきの石を再び僕に手渡した。
「ポケットにでも入れておきなよ。そうすれば、あなたも魔物みたいに強くなれるから!!!」
「ということは……これは、魔物の力を引き出すマジカルストーンなのかな?」
「人間世界ではそう言うの?知らなかった。まあ、多分そうじゃないかしら?」
なるほどなるほど……僕はある程度納得した。
「それじゃ、今から地下に降りるわね!!!」
そう言って、僕の意志を確認しないままに、イーストはワープを始めた。もちろん、イーストは僕の手を放そうとしなかった。結果、イーストと一緒に、遺跡の地下とやらにやって来てしまった。
「はい、到着しました。さてと、とりあえず、学校に行こうかしら?」
「学校?魔物にも学校があるのかい?」
「ええ、もちろんよ。さあ、行きましょう。ああ、転入届は、着いたら私が出しておくから!!!」
そう言われて、イーストに招かれ、僕は魔物の学校に足を踏み入れた。
「あら、愛しの王子様がやっと見つかったの?」
「こいつは……ひょっとすると人間か?」
「ええっ、イーストは人間と恋に落ちたっての?」
見た目はみんな人間なのだ。だが、彼らは僕のことを人間だと見抜いてしまう。何かが違うのだ。ニオイだろうか?魔物特有の獣臭さが、僕にはないのだろうか?
「イースト様が恋人を作ったって?しかも相手は雑魚の人間だとっ!!!」
他の教室から飛び込んできた男(オス?)の魔物たちが、集団で僕の周りを囲い込んだ。ひょっとして……こっちの世界にも、好きな女の子のファンクラブ的なやつがあるのだろうか?人間と同じなのかな。あははは……。それにしても強そうだな……。
「俺たちの許可なしに、なに勝手にイースト様と一緒になってるんだ?しかも、人間だと!!!このクソッタレが!!!俺様が食い殺してやらああっ!!!」
一番屈強そうな魔物が、文字通り、僕の首筋目がけて飛んできた。間違いなく、このままだと食い殺される。ああ、やっぱり来るんじゃなかった、と後悔したそのとき。
「お止めなさい!!!」
突如、イーストの険しい声が、教室内に轟いた。イーストの姿を見ていると……とても凶暴な面構えだった。そして、他の魔物たちをものすごい形相で睨み付けていた。まさに、食い殺そうとしているようだった。
「あなたたち……私の命の恩人であるスミスを傷つけようとしましたね?ええっ?」
声には迫力があった。魔物たちはガクガクと震えていた。
「いいえ、決してそのようなことは……」
「私のスミスを傷つけようとした者は、この私が容赦しませんよ!!!」
「ひええええっ!!!申し訳ございません!!!」
どうやら、イーストは相当強い魔物のようだ。恐らく、スクールカーストのトップなのだろう。
そんなことを考えている内に、僕は一つの疑問が浮かんだ。
「スミス!!!大丈夫ですか?」
魔物たちが去っていくと、イーストが子犬のように飛びついてきた。そして、私の首筋や顔を面前でペロペロと舐め始めた。これには、さすがの僕も恥ずかしくなった。
「イースト!!!止めてよ!!!」
「いいえ、止めません。私の大切な旦那様を癒すためには、こうするしかないのです!!!」
「そうは言ったって……みんな、見てるじゃないか……」
僕は本当に恥ずかしくて、せめて、場所を移そうと思ったが、イーストがものすごい力で僕の身体を押さえつけているので、身動きが取れなかった。
「それに……こうやってマーキングを見せつければ、私たちの間を引き裂こうとする輩はやってこないのでございますよ???」
マーキング……なんか、言葉の響きに一種の狂気を感じたが、それは聞かないことにした。
イーストのマーキング……いやいや、愛撫が一段落して、僕は質問をした。
「そう言えば、これだけの力を持っているのに、どうしてあの時は力を使うことができなかったの?」
「ああ、それはですね。私の性格によるものなのです。私の性格は内弁慶と申しましてね、この魔物の世界では、莫大なる威力を発揮することができるんですけど、人間世界に近付くと、その力がものすごく落ちてしまうんですよ。ですから……ああやって人間に追われてしまいますと、私には勝ち目がないんです」
なるほど、それを聞いて、ある程度納得した。
「ですから!!!スミスがあのとき、颯爽とやって来て私のことを助けてくれたので、スミスは私の大切な王子様なんです!!!お分かりですか?」
そう言われると、納得した。
「ああ、そうでした!!!マーキングもいいですけれど、もっともっと明らかに見せつける方法があるのを忘れていました。スミス、目を閉じてくれますか?」
イーストに促されて、僕は言われた通りに目を閉じた。そして……何か柔らかいものが、僕の唇に触れた。
その瞬間、クラスに居合わせた女(メス?)の魔物たちが、
「きゃああああああっ!!!」
と声を張り上げた。驚いて目を開けると、そこには顔を真っ赤に染めて瞳をウルウルと震わせているイーストがいて、その唇を僕の唇と重ねていた。
「ああ、スミス……私は幸せなんです!!!もう死んじゃいそう!!!」
死んじゃいそうなのは、僕の方だった。マーキングは愚か、公然でキスをするだなんて、魔物はこれほどまでに大胆なのだろうか、と思った。いや、大胆にも程がある。恥ずかしいという次元を通り越して、これは……言葉じゃ言えないけれど、大変なことなのだと思った。
「どう?嬉しい?」
でも、目の前にいるイーストは、こうしてきちんと見つめると、やっぱり可愛い女の子だ。こんな女の子が僕のことを本気で好きになってくれるんだったら……やっぱり嬉しい。そして、イーストのことを守ってあげたいと思った。そう、人間と同じなんだ。これが恋なんだ。僕はいいものを見つけた。
「それにしても……イーストってやっぱり大胆だよね……」
魔物たちは、そんな僕たちの恋バナに花を添えていた。でも、彼ら彼女らの大半は、僕が人間であることをなんとも思っていないようだった。魔物は人間を滅ぼす存在……歴史書や神話にはそう書かれていた。そして、現実の僕たちも、魔物たちを恐れ、戦いの準備をしている。つまり、一触即発というわけだ。
それなのに、どうしてこれほど和やかなのだろうか?人も魔物も、その一部が偏見に基づいて行動しているだけなのだろうか?そうだとしたら……。
「いやあ、久しぶりだね。僕のイースト…………」
イーストはどうやら、この魔物の世界で最も美しいのかもしれない。異属種であるこの僕が、恋に落ちるくらいなのだから、魔物たちの間では、相当の人気者なのだろう。そして……僕はやっぱりよそ者なのだ。
「イースト、こちらの新入りは……あれ、ひょっとしてあの下劣な人間どものお仲間かな?」
下劣な人間どものお仲間……そう聞いて、僕ははっと我に返った。目の前に現れた魔物は、血生臭かった。
「ピリミジン……あなた、また人間を殺したの?」
イーストは叫んだ。
「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでくれよ。正当防衛だよ。向こうが武器を持って襲い掛かってきたから、食い殺しただけさ……。それがいけないことなのかい?」
ピリミジンと呼ばれたこの魔物は、恐らく僕が想像しているよりもパワフルで、僕が長年抱いてきた人間の脅威そのものだった。
「君は……ひょっとすると、人間のスパイなのか?ああ、そう言うことか。でもね、私の目をごまかすことはできないんだ。さあ、この場で死んでもらおう!!!」
「ピリミジン、止めて!!!」
イーストが制止をかけても遅かった。魔物は僕の方目がけて飛んできた。さっきの魔物よりも素早く、そして獰猛なめつきだった。今度こそ死んだ……僕はそう思った。そして、思わず、あの時のグーパンチが出てしまった。
「なにっ……?」
魔物は僕のグーパンチがヒットしたのか、腹から火が出ていた。
「どうしてだ!!!!」
魔物は叫んだ。僕のグーパンチがヒットした?でも相手は魔物だし……。解せなかった。て言うか、そんな場合じゃなかった。このままだと、この魔物は焼け滅んでしまうと思った。
「誰か!!!水を持ってきて!!!この火を消さないと。危ないよ!!!」
僕がこう言ったので、クラスにいた魔物たちが、井戸から水を汲み、魔物目がけて水をかけた。
そして、なんとか火はおさまった。
「あり得ない……ピリミジンがやられるだなんて……」
本当に信じられないのは、僕自身だった。
どうして……僕は普通の人間なのに……これほどの力を発揮してしまうのだろうか?
燃えかけた魔物は、何も言葉を発しなかった。私は魔物の元に近寄った。
「申し訳ない。君を傷づけるつもりはなかったんだ。さあ……僕の命を持って、神様にお伝え申し上げよう。どうか、その魂が天に迷われているのであれば、今一度、この世界にまかり給わん……」
聞き覚えのない不思議な呪文を、僕はまた独りでに語っていた。これまた、イーストからもらった石の力のおかげなのだろうか?そんなことを考えながら、僕は魔物の無事を祈り続けた。
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