アポクリファの黄昏

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第一章

突然の飛来

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 1945年3月8日未明。静岡県片取村。アメリカ空軍戦闘機墜落。パイロットの安否は不明。9日付けの新聞が一斉に報じた。

 終わりのない戦いに足を踏み入れる。愚かしいという考えを持ったとしても、大きな声で唱えることが出来ない。芋虫のように蹲って国が、人々が滅んでいくのを見ることしかできない。

「日本が勝つに決まってるじゃないか。アメリカ人なんかに負けるわけないだろう!」

 私の父は、熱狂的に日本国の勝利を毎晩のように叫んでいた。いざとなったら、自分が特攻隊に入って、敵の空母に突っ込む覚悟である、と日ごろから口にしていた。
 
「隆司。お前はどうなんだ?」
 私は父の拳骨を何よりも恐れていた。だから、
「はい。私も父のように、日本国のため、身を砕いてでも戦う所存です」
 と答えた。

 アメリカ軍人は生きている。片取村のどこかに潜伏している。いや、ひょっとしたら、泳いで大島に向かったか?

 憶測が広がった。

「なんとしてでも見つけてぶっ殺してやるさ。アメリカ人のやつらめ……。待ってろよ」
 よりにもよって、熱狂的愛国者の多い集落に墜落するものだから、本当に不運な人だ。

 
「いいか。見つけ次第、殺すんだ。生かしておく価値のない人間だ。いいな」
 殺す、という言葉を何度使ったのだろうか。殺気立つ父の説教を聴いているうちに夜が明けた。烏の鳴き声が暁を空に誘い出す。ほんのり赤く染まった水平線の先には海原が広がっている。東のほうへずっと進めば、私たちと同じ人間の住む大陸がある。
「アメリカ人ってのは人間じゃないんだ。あれは犬みたいなものだ」
 犬もまた人間である。そんなことを言っても殴られるだけだから言わない。

 赤く染まった水平線はやがて、海色に染まっていく。空は一面青く、さざ波が白くゆれる。一日の終わりには星たちの舞踏会。月と大三角を中心に、過去からやってきた先輩と未来に向けて出発する後輩たちが語り合う。

 大地には、海には、空には戦いがない。人間の性に戦いをインストールした神様は一体全体何を考えているのだろう。そんなことを4年間も考えている。答えなんかない。あったらとっくに終わっている。私の未来は……希望は……間もなく終わるのだろうか?神様の下に招かれたら問い詰めてみよう。善良な市民の代表として、戦いを好まざる人間として……その時は購っても許されるだろう。



 片取村には、碁石浜という小さな漁港がある。子供らはみな、ここで泳ぎを覚える。
「浜っこなんだから泳げて当たり前だろう!」
 これが父の口癖だった。確かに泳げるようになった。中学の頃は、大島まで往復できるほどになった。遠くまで旅をしたことがないのだが、間違いなく一番美しい浜辺である、と断言できる。白浜と海原のコントラスト、加えて、快晴の空。3つの条件は大概揃っている。夏になると時折暴れることがある。それは粗方、反抗期と同じようなもので、和解のときがやってくる。翌日の浜はいつもどおりである。
 そんな浜辺を散歩するのが私の日課である。ただでさえ人気のない村なのに、この浜はその上をいく。日中の来客はない。人気がないからこそ、伸び伸びと美しい浜辺になる。自然との対話。昔は当たり前のことだったが今は違う。世間は戦争一色。この浜だけは……私が子供だった頃の時間で止まっている。

 いつまでも落ち着く場所。安らぎを与えてくれる秩序だった空間。もうじきこの楽園にも穴が開く。砂時計のように、何もかもが崩れていくんだ……。


「hello?」
 確か、英語でこんにちはという挨拶だ。英語を話す人……つまり……。
「へっ…ぁっ……? まさか……!」
 日本に住んでいる外人といえば、中国か朝鮮の人と決まっている。彼らは英語を話さない。つまり……。

「まさか、あなたが……?」
 よく観れば日本人ではない。図鑑で見た西洋人に瓜二つである。
「アメリカ空軍の……フィッシャーです」

 流暢な日本語で挨拶されるとは思ってもいなかった。止まっていた時間が現在をとっくに通り越して、未来へ向けて動き出したようだった。

 
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