ラジオ塔の死角

tartan321

文字の大きさ
1 / 1

その1

しおりを挟む
32回目のクリスマスがやってくる前に、彼はこの世を去ってしまった。私に最後にさよならを告げることなく、いつの間にか、まるで、ジュースに浮かんだ氷のように消えていたのだった。

私は結局、彼にとってどういう存在だったのだろうか。そんなことを、時々考えてみたくなる。もちろん、それで何かがわかると言う事は無い。でも、無性にそういうことを考えてみたくなるものなのだ。そして、その答えにたどり着くことができたとしたら、私もまた、この世界の死角になるのかもしれないと思った。

「まもなく本番が始まりますよ!!!」

そんな私の仕事は、ラジオである。ただ単純に、田舎の小さなラジオに出演して、眠気のない夜をリスナーと共に過ごすわけである。私はいつからか、全く眠らなくても平気なようになってしまった。昔はねぼすけで有名だったわけであるが、今では1日2時間位しか眠らなくても平気になった。それぐらい、考えることが多いといるのだろうか、それでも22時間しか考えていないことになる。本音を言わせてもらうと、1日は少なくとも28時間ぐらい欲しいと思う。そうすれば、私がこれからどういう風に人生を勉強して、少しでも有意義に過ごせるものかと、考えることができるのだ。少なくとも14時間は、ラジオで話す内容について考えなければならない。だから、今の私は将来についてたった8時間しか考えられないと言うことになるわけだ。これでは少なすぎる。だから私は、毎日毎日、仕事が始まる前にお祈りをするのだ。神様に1日の時間を28時間にしてくださいと頼んでみる。もちろん、そんな事は不可能であるとわかっている。でもいつしか、これが習慣になってしまった。

「三笠さん。どうしたんですか。大丈夫ですか???」

自分では全く大丈夫だと思っているんだけど、何かとみんなに心配されることが多いのだ。別に血相が悪いと言うわけではないと思う。でも、他の人たちは、私が何か重大な問題を抱えていて、毎日毎日そのことについて悩んでいると言うことを知っているのかもしれない。

「ああ、ごめんなさい。うっかりしていました。これが今日の原稿ですね」

最近は、誰かに原稿を書いてもらい、私がそれを読むスタイルになってしまった。私が勝手にラジオを盛り上げてしまうと、少なからず反感を買うことになるからだ。私は中途半端な恋する乙女なのかもしれない。だけど、世間はそんなものを求めていない。うちわにくすぶっているそんなしょうもない女の魂を聞きたいわけではないのだ。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

婚約者を寝取った妹に……

tartan321
恋愛
タイトル通りです。復讐劇です。明日完結します。

欲しいものが手に入らないお話

奏穏朔良
恋愛
いつだって私が欲しいと望むものは手に入らなかった。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...