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第一王子マルサス

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第一王子であるマルサスが、この世界の影の統治者にして、私を悪役に仕立てた張本人であると言っても過言ではない。彼は人一倍女癖が悪いことで有名である。諸国の美しき令嬢を側室として迎え入れては捨てることを繰り返している。捨てるとは当然、死を意味する。

娘を差し出した貴族たちには、命と引き換えに爵位と金が与えられる。娘など大量生産すればいいのだから、一人二人死んでしまっても気にしない。彼らの魂胆は腐っていた。

私にもいつしか、マルサスから宮仕えの通知が来るようになった。

「いい社会経験になるから!」

当然両親は勧めた。もはや、私のことを愛していないことがよく分かった。



私は……マルサスにとって最上の女だった。

「ユフィ―……君が私の正妻だ……」

マルサスは正妻を10年も探していた。それが私になった。私は当時、マルサスの悪事なんか知らなかった。だから、ハーレムに100人くらいの女の子がいたと記憶しているが、私は彼女らのになった。彼女たちがどこか脅えているのに、私は気が付かなかった。

私が愛されれば愛されるほど、女の子たちは一人、また一人と姿を消していった。最初は気が付かなかったが、残り30人くらいになると、初めて事の重大さに気が付いた。

私はハーレムの管理人であるマルサスの側近チャールズに尋ねたことがある。彼は笑ってこう答えた。

「彼女たちにとって、あなたはたった一人のお姉様なのでしょう。ですが、ユフィ―様。あなたにとって、彼女たちは30分の1の妹なのです……」

「あなたにとって、彼女たちは30分の1の妹なのです……」

私はその時、気が付いた。今まで消えていった70人の少女たちの顔を早く思い出さなくちゃ。私の代わりになって死んでいった、無垢なる命にお詫びをしなければいけないと思った。

その日から足繁く教会に通うようになった。神の前に跪き、例えわが身をすり減らしたとしても、消えていった魂が安らかなる神の使いになれるよう祈った。私は食事の量を減らした。

「どこか調子が悪いのか?」

マルサスはそれでも、私のことを気遣ってくれた。

「いいえ、平気です……」

「そうか?口に合わないのか?それなら、私が新しい料理を作ってあげよう……」

マルサスが本心から私のことを心配しているのか、そんなことは分からなかった。しかしながら、一人調理室に籠って、料理人と同じように手を動かし、この世のものとは思えないくらい、秀逸な料理を作る姿には違和感と共に、悲しみを憶えた。


どうして私にだけ優しいの?いっそのこと、私を殺して?

無垢なる天使たちを土に中に埋めないで?

これはあなたの罪なのよ?






私はマルサスの作った料理にだけ、口を通すことにした。マルサスの野心に満ち溢れた毒牙を摂取すれば、すぐに死ぬことができると思ったからだ。
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