Melting Dead 最弱の科学者が紡ぐ世界

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2081年 12月31日 その1

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 伊能正は、高校最後の冬休みを全て、勉強に費やしていた。去年、一昨年はと言うと、コタツにこもって漫画を読むといった具合だった。不運にも男子校通いが長いため、年頃の恋話は縁遠かった。しかしながら、今年だけは勝手が違う。どれほど嘆いても無駄。著しく少子化の進んだ社会。親の操り人形となった子供達は、節目の度、ただ黙々と受験勉強に励む日々を送ることになる。


 正は元々、大の勉強嫌いで、風来坊だった。中学の頃は、家出と称して、日本全国を訪ね歩いた。東京を離れれば、どこも同じく一面緑。過度な一極集中のおかげで、地方の自然は、見事に生き返った。正は、草木の息吹、鳥のさえずり、虫の音色を求めに旅をした。案内役をかって出るのは、空、太陽、星のどれかであり、正は時折、彼らと対話した。

「今晩の夜会はどんな感じだい?」
「とっておきの演目があるの。シベリウスなんてどうかしら?演奏家たちはすでに揃っているわ。あとはあなただけよ。さあ、森の木立を抜けて行きましょう」
「僕が指揮していいの?」
「あなた以外、他にはいないでしょう」

 正は、勢いよく木立を駆け下りた。閉ざされた視界が一気に開けると、そこは一面、まるでサッカー場のように手入れの行き届いた草原だった。正はその場に立ち尽くしてしまった。身体が言うことを聞くようになって、
「これも君たちの仕業かい」
 と問いかけた。
「さあ、どうでしょう」
 星は答えた。
「そんなことより早く始めましょうよ」
「………………まあ、そうだな」

 正は一晩中、演奏会に興じた。人差し指を天に立てて、拍子を刻む。月、星、草木、そして虫のみんなが正を中心として音を奏で始めた。正はうっすらと目をつぶる。皆それぞれ音は違えど、大した問題ではない。こうして人を愉しませてくれる。指揮者たる人間が偉いのではない。正も、自然の奏でるハーモニーに新たな音を加えていく。そう、みんな、宇宙を作る仲間なのだから。

 正の奏でるメロディーを受け入れてくれるのは彼らだけ。だから思いっきり歌うことが出来る。星々は正を、普遍のアルト、と呼ぶ。

 「今日は僕のバースデーソングを歌います」
 「あら、今日が誕生日なの?」
 「ええ、正確に言うと、毎日が誕生日なのです」
 「まあ、可笑しい!」
 一同笑いの渦に飲み込まれてしまう。しかしながら、正の歌を耳にすると、その笑いはいつしか、悠久の天の川へ変わっていく。

            授けられた命を
            僕は受け入れた
            旅の果てはどこ
            一筋の光と涙
            神様に導かれ
            夜をあゆむ

            

            尊さを思い出し
            気付けば終わり
            消えゆく魂よ
            その光に救いを
            もとめたい
            お赦し下さい



            星の汽車が
            汽笛を響かす
            片隅に身を置き
            天の川を渡る
            涙はとっくに
            涸れはてた

            




     決して夢絵巻ではない。それは遥か遠くの近い記憶である。



            のはずなのだが……。

「正! 正はいないか?」
 そう大声を上げて教室に飛び込んできたのは、担任の相川だった。今年で70とは思えない迫力。本当に元気だと思う。
「はいはい。何ですか」
 だるそうに返事を返す。
「何ですか、じゃないだろう。何だこの成績は?」
 この前に受けた模試のことを言っているのだろうか。自分なりには良く出来た気がしていたんだけど。そんなに怒らなくてもいいじゃん。

 相川は、正の成績表を勢いよく、机に叩きつけた。
「穴が開くまで見ろ!」
 はいはい、その短気な性格をブラックホールにでも突っ込みたいですよ。

 正は言われた通り、穴が開くほどじっくりと成績表を眺めた。
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