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政略それとも愛?
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「私はどうも君のことが気に入らないんだよな……マリアよ」
王子アントンの妃として、公爵家から嫁いだマリアは、婚約してすぐに、アントンから様々なダメ出しを受けた。
元はと言えば、これは政略結婚であるわけだから、別にマリアがアントンのことを真底愛しているというわけではないし、その逆もそうである。
「私はこれでも、アントン様に尽くす所存でございます。それなのに……どうしてあなた様は私のことばかり非難されるのですか?」
このような喧嘩を繰り返すしかない。
「非難って……君以外に誰がいると言うんだ!ねえ、教えてくれよ?ああ、君は一体どんな教育を受けて来たのか……このままだと婚約破棄…………」
婚約破棄、と言いかけたその時だった。
「アントン様!大変でございます!アケメネス軍が攻めてい参りました!!!」
軍人たちが、二人のプライベート空間に入ってきた。因みに、アケメネス軍とは、アントンの父である皇帝が国を統一した際、唯一参加しなかった残党たちである。
「そんな輩の相手など、君たちで十分だろう?戦況だけ後で教えてくれればそれでいい。私は今、忙しんだ」
国の一大事よりもプライベートの方を優先する……役立たず貴族の典型だった。しかし、本来ならば残党の処分など、王子であるアントンが指揮しなくても、複数の軍人が指揮官となって攻撃を加えれば、それで解決する話なのだ。今回はどうも違ったようだ。
軍人たちのけたたましい声が城にまで響いた。残党たちは、遥かに強くなって帰って来たのだ。
「このままでは、城までやって来るでしょう!早く手を打たないと、手遅れになってしまいます!!!」
戦いの声を耳にしたアントンは、いよいよ焦り始めた。
「それでは……これより軍議をはじめ…………」
突如、砲弾が飛んできた。城壁を貫き、プライベート空間に着弾した。静寂を切り裂く大きな爆風とけたたましい光にやられて、マリアはその場に倒れこんだ。
「マリア!!!大丈夫か?」
アントンは、マリアの元に駆けよって、抱き寄せた。
「アントン様……お逃げください……私のことは置いていって……」
ケガをしているわけではなかったが、マリアは中々起き上がることができなかった。
「すぐに医者を呼んでくるんだ!さあ、早く!!!」
アントンは軍人たちに指示を出した。
「それと、この戦を終結させるためには、全軍投入しても構わないから、とにかく早く終わらせろ!!!指揮は全て、君たちに任せるから!!!」
「あれっ……私は一体何をしているんだろう?ここはどこ?そっか……あの時、すごくぴかぴかして、意識をなくしちゃったんだっけ?あれっ……この手はアントン様?」
「お目覚めになりましたか、マリア様?」
聞き覚えのある声だった。侍従だった。
「アントン様が、一生懸命看病して下さったおかげでしょう……」
マリアはこの時初めて、アントンに感謝した。自分の身体を半ば犠牲にして、献身的に介抱してくれたアントンに感謝するしかなかった。そして、これほど下らない婚約、と心の中で嘆いたことが恥ずかしくなった。
「私のことが嫌いか?」
昔だったら、間違いなく、面と向かって、
「はい」
と答えたはずだ。しかしながら、今回の件をもって、マリアはやり直す方策はないか、考えをめぐらせるようになった。
「おや……目が覚めたのか?生きてて良かったな……」
アントンは言った。
「ありがとうございます」
「おや?君にしては珍しいな。何かいいことでもあったのかな?あれだけ憎まれ口をたたいていた君が、どういう風の吹き回しなのかね?」
「これが、私の本心です」
「そうか……なんか変な気分だな……」
アントンは笑い出した。マリアも起き上がって、一緒になって笑った。
「事件が起きて、夫婦の絆が深まる……ですか?」
「あんまりいい話ではないが……君にしては随分と積極的だな?」
マリアは、とにかくアントンが救済してくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
「もう一度……やり直してみるか?」
「それができますのなら、私は望みますよ」
「そうか……考えてみる……」
その結論は、もう明白だった。
マリアは子猫のように、アントンの元に歩み寄って、抱き着いた。
王子アントンの妃として、公爵家から嫁いだマリアは、婚約してすぐに、アントンから様々なダメ出しを受けた。
元はと言えば、これは政略結婚であるわけだから、別にマリアがアントンのことを真底愛しているというわけではないし、その逆もそうである。
「私はこれでも、アントン様に尽くす所存でございます。それなのに……どうしてあなた様は私のことばかり非難されるのですか?」
このような喧嘩を繰り返すしかない。
「非難って……君以外に誰がいると言うんだ!ねえ、教えてくれよ?ああ、君は一体どんな教育を受けて来たのか……このままだと婚約破棄…………」
婚約破棄、と言いかけたその時だった。
「アントン様!大変でございます!アケメネス軍が攻めてい参りました!!!」
軍人たちが、二人のプライベート空間に入ってきた。因みに、アケメネス軍とは、アントンの父である皇帝が国を統一した際、唯一参加しなかった残党たちである。
「そんな輩の相手など、君たちで十分だろう?戦況だけ後で教えてくれればそれでいい。私は今、忙しんだ」
国の一大事よりもプライベートの方を優先する……役立たず貴族の典型だった。しかし、本来ならば残党の処分など、王子であるアントンが指揮しなくても、複数の軍人が指揮官となって攻撃を加えれば、それで解決する話なのだ。今回はどうも違ったようだ。
軍人たちのけたたましい声が城にまで響いた。残党たちは、遥かに強くなって帰って来たのだ。
「このままでは、城までやって来るでしょう!早く手を打たないと、手遅れになってしまいます!!!」
戦いの声を耳にしたアントンは、いよいよ焦り始めた。
「それでは……これより軍議をはじめ…………」
突如、砲弾が飛んできた。城壁を貫き、プライベート空間に着弾した。静寂を切り裂く大きな爆風とけたたましい光にやられて、マリアはその場に倒れこんだ。
「マリア!!!大丈夫か?」
アントンは、マリアの元に駆けよって、抱き寄せた。
「アントン様……お逃げください……私のことは置いていって……」
ケガをしているわけではなかったが、マリアは中々起き上がることができなかった。
「すぐに医者を呼んでくるんだ!さあ、早く!!!」
アントンは軍人たちに指示を出した。
「それと、この戦を終結させるためには、全軍投入しても構わないから、とにかく早く終わらせろ!!!指揮は全て、君たちに任せるから!!!」
「あれっ……私は一体何をしているんだろう?ここはどこ?そっか……あの時、すごくぴかぴかして、意識をなくしちゃったんだっけ?あれっ……この手はアントン様?」
「お目覚めになりましたか、マリア様?」
聞き覚えのある声だった。侍従だった。
「アントン様が、一生懸命看病して下さったおかげでしょう……」
マリアはこの時初めて、アントンに感謝した。自分の身体を半ば犠牲にして、献身的に介抱してくれたアントンに感謝するしかなかった。そして、これほど下らない婚約、と心の中で嘆いたことが恥ずかしくなった。
「私のことが嫌いか?」
昔だったら、間違いなく、面と向かって、
「はい」
と答えたはずだ。しかしながら、今回の件をもって、マリアはやり直す方策はないか、考えをめぐらせるようになった。
「おや……目が覚めたのか?生きてて良かったな……」
アントンは言った。
「ありがとうございます」
「おや?君にしては珍しいな。何かいいことでもあったのかな?あれだけ憎まれ口をたたいていた君が、どういう風の吹き回しなのかね?」
「これが、私の本心です」
「そうか……なんか変な気分だな……」
アントンは笑い出した。マリアも起き上がって、一緒になって笑った。
「事件が起きて、夫婦の絆が深まる……ですか?」
「あんまりいい話ではないが……君にしては随分と積極的だな?」
マリアは、とにかくアントンが救済してくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
「もう一度……やり直してみるか?」
「それができますのなら、私は望みますよ」
「そうか……考えてみる……」
その結論は、もう明白だった。
マリアは子猫のように、アントンの元に歩み寄って、抱き着いた。
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