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その13

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その屋敷は、老人が一人で生活するには、随分と不自由しそうな構造をしておりました。無駄に、と言っては失礼かもしれませんが、部屋数が多く、部屋と部屋の間は間隔があいていて、また、勾配のきつい階段があったりと、足腰の弱った老人には、とても向いていないと思いました。

恐らくは、昔々のそのまた昔に、貴族が住んでいた屋敷なのでしょう。飾られている絵画や置物などを見ると、嘗ては栄えていたことがうかがえます。まあ、今となっては住む人がいなくなって、魔法聖者であるポートさんの仮住まいになっている、ということなのでしょうか。

「ああ、お前さんの部屋は……そうだな、3階にある部屋は、全て使っていいぞ」

ポートさんはそう言いました。

「ポートさんは???」

「ああ、私は2階をメインに使っているから。ああ、それと、お前さんも精霊を呼び出す魔法くらいは知っているじゃろ???この屋敷にはたくさんの精霊が住み着いておるから、何か困ったことがあったら、精霊を呼び出してみなさい……」

「精霊ですって???あの……この屋敷にメイドはいないのですか???」

私がこう質問すると、ポートさんは少し驚いた顔をして、

「ああ、そんな者はいないよ。ここはずっと、私が一人で住んでいるんだから」

と答えました。

「ずっとですって???それでは、生まれてから……今までずっとですか???」

「ああ、そう言うことだな……」

「今まで、自分の生活は自分でしていた、ということですか???」

「ああ、若いうちに両親を亡くしてから……私はまともに人と関わったことがないんだ。第一、めんどくさいだろう???人間と関わるって言うのは???」

「まあ、そうですけど……」

私の答えは微妙でした。どちらとも言えなかったのです。めんどくさい面、そして、面白い面、その両方があると思ったからです。

「それにひきかえ、精霊を相手にするのは、随分と気が楽なんだ。相談事とか、あるいは、日常で困ったことがあったら、力になってくれる。彼らはいつも、私たちの味方をしてくれる。私は自慢じゃないが、精霊と付き合うようになってから、あまりウソをつかなくなった。真実を告げる勇気のある人間に聖なる魂は宿ると……神様が教えてくれたからな…………」

なるほど、ポートさんの言うことはもっともだと思いました。

ところで……精霊を呼び出す魔法と言うのは……私には分かりませんでした。


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