婚約破棄の理由は私ですか?

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その1

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私の名前はメディチ・ラクナと申します。今、私はこの世界で最も下品な女として扱われています。いえいえ、決してオーバーに言っているわけではございません。これは事実なのです。

今までは、自慢ではありませんが、誠実な女だと言われてきました。ですから、家柄は本当に低いんですけれども、驚くことに、王子様と婚約することが可能になったわけです。もちろん、世間は納得しなかったでしょう。それでも、王子様は私を選んでくださいました。私の人柄に好かれたらしいです。

そんな私が一度の過ちを犯して、それが婚約破棄の原因になったのだとすれば、本当に悲しい話なのです。あれは、婚約が決まった翌日のことでございました。


「王子様。これで私はやっと幸せ者になれます」

「ラクナ。私も幸せだ……」

「ああっ、王子様……。」

そんな私が王子様にいきなり悪態をついてしまいました。

「ところで、今日はこれからどうするんですか?」

「どうするって?」

「もちろん、今夜のことですわ……」

私は王子様の肩に手をあてて、にこりと微笑みました。

「いや、今日は仕事があるからな。そういうのは、正式に婚約してからにしようよ」

その時、分かりました、とでも言えば済んだ話でございます。しかしながら、私は、

「はあっ?何をおっしゃいますの?」

と言いました。

「ラクナ?どうしたんだ?」

私の態度が変わってしまったので、王子様は驚いているようでした。

「どうするもこうするも、あなたは私と仕事のどちらが大事なんですか?」

「そんなの、どっちもだよ……」

「どうして!私だと言えないんですか!このクズが!」

私はとうとう王子様を恫喝してしまいました。

「ラクナ……僕は怖いよおっ!」

とうとう泣き出して、私の元から逃げてしまいました。

私に弁明の余地を与えて頂けるのであれば、申し上げましょう。少し怒っただけでした。それがいきなり、一発アウトですか?数日後、王子様の使者がやってきて、私に言いました。

「ラクナ様との婚約は正式に破棄されました。また、ラクナ様の不貞行為により、メディチ家の爵位を最下層貴族に格下げ致します……」

私の婚約破棄と、我が家の不名誉……ダブルパンチでした。

それにしても、どうしてあの時、私は王子様に怒ったのでしょうか?その理由がいまいち分かりませんでした。あんなに怒ったことは今までありませんでした。無意識のうちに、発作的に、怒りが込み上げてきたということでしょうか?とにかく、謎でした。

私の愚行により、王子様から婚約破棄されたのはともかくとして、家族にも影響を及ぼしたことをお詫びしたいと思います。

表向きは私のことを責めませんでしたが、それでも……なんとなく風当りはよくありませんでした。

私は家族に迷惑をかけたことを反省し、家を出ていこうと考えました。お母様やお姉様は、気にしなくてもいいと言ってくれました。しかしながら、これも表向きであって、私のことをよく思っているはずなどありませんでした。

「あなたのことなんか、一生かけて苛め抜いてやるわ!」

女って怖い……いえいえ、全て私が蒔いた種なのですから、私は何も言う権利がありませんでした。

「ラクナ……なにもあなたが全て悪いわけじゃないのよね……」

お母様はそう言ってくれました。

「でもね、けじめはつけないといけないから。見ての通り、我が家の爵位は無くなったも同然ね。あなたのお父様は騎兵隊から除隊されて、今は職がない状態よ。このままだとまずいから、畑でも耕すとおっしゃるけれど……はあっ。ラクナ、あなたが全て悪いわけではないのよ。私は知っているわ。だけどね……分かるかしら?私の気持ちが」

私はお母様の嘆きを理解しました。しかしながら、この事態を解決する有効な手立てがありませんでした。王子様に対する愚行は事実です。しかしながら、あれが私の意志によるものではなかった気がします。それを証明することができれば、あるいは、我が家の爵位は復活し、お父様を始め、家族の生活を保つことくらいはできるのでしょうか?

「ラクナ……あなたが全て悪いわけではないのよ。でもね……」

このまま立ち止まっていると、お母様はきっと病に倒れると思いました。だから、あの発作の原因を突き止めなければならないと思いました。

ひょっとすると、王子様と私の婚約を嫌った人間による干渉だったのかもしれません。でも、そうだとすれば、犯人は、この世界の貴族ほとんど、と言うことになるでしょう。

端的に無理です。

「あなたが全て悪いわけではない。でも、あなたが悪いのよ」

お母様と違って、お姉様は私のことを直接責めることがありました。私と王子様が婚約すると決まった時、

「そんなのあり得ないでしょう」

と冗談交じりに言っていました。はい、振り返ると、本当にあり得ませんでした。

「女の欲望を満たす機関じゃないのよ、男は」

別に私は飢えているわけではありませんでした。それは、私のことを嫌う令嬢様方のあらぬ噂でした。

「おかげで、私の婚約も頓挫した」

お姉様の婚約もまた、私のせいで破棄されました。これは、私が100%悪いのです。そう認めるしかありません。

「私の人生を返して……妹にそんなこと言えないわね……」

暫くして、お姉様は姿を消しました。私はお姉様を探そうとしました。しかしながら、お母様が、

「その必要はない。時が来たら戻ってくるはずよ」

と言いました。お母様はお姉様の所在を心得ているようでした。

「あなたが悪いわけではない……しかしながら、けじめはつけないといけないね」

お母様は言いました。

「私の意志ではないことを証明します……」

私はお母様にしっかり伝えました。しかしながら、その方法は難しかったのです。貴族の中から探すと言っても、何一つあてがありません。強いて言えば、友人のニーコに尋ねるくらいでした。彼女は私と違って、社交界でそこそこ活躍している令嬢であり、あちらこちらから情報を得ていました。だから、この事件に関して何か知っているかもしれないと思いました。

友人とはいっても、こんなふうになってしまった私と口をきいてくれるのでしょうか?私は心配し始めました。しかしながら、彼女に頼るよりありませんでした。私はニーコの家を訪れることにしました。

家の前について、玄関のベルを鳴らすか、10分くらい考えました。ひょっとすると、私と話しているところを見られるだけで、ニーコは社交界から排除される可能性もありました。罪人である私が関わるばかりに……そんなことが起きたら、私は友人まで失うことになります。

「ラクナ……こんなところで何してるの?」

ニーコは自室から私のことを覗いているみたいでした。私がずっと玄関の前で立ち往生していたので、とうとう家から出てきました。

「あら……こんにちは」

「どうしたの?そんなに畏まっちゃって……」

「いや……今日は少しお話がしたくて」

「ラクナ、ひょっとして、あなた、はぶられてるの?」

「それは元からだけど……我が家もすごくピンチなのよ」

「ははーん……なるほど、それで私に助けを求めに来たと?」

「……やっぱり虫が良すぎるかしら?」

「ラクナ……あなたって本当にバカなのね……」

はいっ、私は相当のバカですよ。

「私まで信頼できないってわけ?」

おやおや。ニーコは少し違います。

「そんなことはないよ。もしかしたら助けてくれるかもしれないと思って、はるばるやって来たのよ」

「ならば、頼っていいんじゃない?」

「……そうなの?」

「あなたって人は……。何年友達やってると思ってるの」

ニーコはそう言って、私を迎え入れてくれました。

「噂は……色々なところから聞くわ」

「やっぱりね……」

「でも、私はあなたのことを信じているから。そうじゃないと、そもそも王子様があなたを気に入るわけないでしょ?」

「……どういうこと?」

私はニーコが言わんとしていることに薄々気が付いていました。それは例えば、容姿であったり、家柄であったり、まあ、その他諸々です。確かに、私は他の令嬢様と比較して、劣っていたはずです。少なくとも外見は。

「あなたの内面を、王子様は評価したのでしょう?」

「多分……そういうことなんだよね……」

「だから。そんなあなたが、王子様を恫喝することなんてあるわけないのよ。私は信じているわ。噂なんて言うのはね、自分にチャンスが回って来た令嬢たちのネガティブキャンペーンなのよ。あなたを徹底的に潰すための作戦ね。だとすると、次に王子様と婚約する人が犯人と言うことかしら……」

「犯人?」

「あなたを操っている犯人よ」

「私を操っている?」

「そう」

私はそれが真実だとすれば、きっと納得して喜びました。しかしながら、人の気持ちを操作することなど、可能なのでしょうか?しかも、あの瞬間だけでした。

「きっと、そうなのかもしれない。方法は分からないけど。何かあるのよ」

「そうなんだ……」

「次に王子様と婚約するのは……きっと、キムリア公爵令嬢様ね……」

キムリア様……私は令嬢様の名前に覚えがありました。確か、高等学院で同じクラスで、しかも隣の席でした。

彼女が犯人?と言うより、彼女が最有力候補ですか?

容姿、学業、運動、全て私と同じくらいで、しかしながら、家柄は非常に高い……。

ああっ、家柄だけで王子様と婚約できるのですね。羨ましい話です。

私が婚約者に選ばれたので、それを回避するための作戦……彼女が犯人だとして、一体どんな方法を用いたのでしょうか?私は考えを巡らせ始めました。
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