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クトゥルフ遠征 その2

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「この世界の住人はみな、復讐に命を燃やしている方々ばかりなの。私も例外ではないわ。お父様が政敵に殺されて、お母様は気が狂い死んだ。救済を求めたって、誰も話を聞いてくれない。当たり前よね、テルリッツ国の王様相手なんかじゃ……」

テルリッツと聞いて、私も背筋が震えた。これほどの少女が敵にするには、あまりにも大きすぎる存在だった。スコット王子の第一帝国ですら、敵うはずがなかった。噂話ではあるが、その軍事力はおよそ100倍であり、この秩序なき世界の統一に一番近い国とされていた。

「お姉様が想像されているように、この私では敵いません。でもね、このクトゥルフには力添えしてくれる神様がいるみたいなの。神様に会うためには、色々な試練を乗り越えないといけないみたいなんだけど……でも、私ね、どうしても戦いたいの。お姉様……」

少女は再び私の耳元に唇を持っていった。

「私に力を貸してくれないかしら?」

うん、うん…………えっ?

「どうして私が?」

疑問に思うのも無理はなかった。だって、別に人助けをしに来たわけじゃないんだから……と言いたかったんだけど、そのままにはできそうもなかった。子猫を養う親猫とでも言ったところだろうか。

「私はどうすればいいの?」

「何もしなくていいんですよ。ただ……」

少女は私の頰をそっとあかね色にする口付けをした。

「私のことを応援し続けてくださいね」

この子はやっぱり悪魔だと思った。

ええ、助けてやろうじゃありませんか。今更失うものなんてないのですから。

第一帝国? テルリッツ国?

そんなのまとめてぶっ壊してやる!

少女はこの国に神様がいると言っていた。まずは神様を見つけるのが先か。私はフィールドワークを始めた。なるべく早く、この世界の住人と仲良くなって、神様という叛逆者のありかを探そうと思った。

手始めに、100年前のスラム街と底なしの欲望が渦巻くスナックエリアに入った。

「いらっしゃいませ。新入りの方ですか?

スラム街の住人にしてはジェントルすぎるマスターに案内されて、酒とタバコに良い浸る屈強な痩せ男たちの輪に入った。

「お邪魔いたしますわ」

男たちはそれまで賭けで失った金の多さを競っていたが、目の色を変えた。

「マスター……この嬢さんは新入りかい?」

「どうもそのようだな」

「へえっ、そうかい!ちょうどいいや!そうだよな、マスターもマスターだけんど、これほどエレガントなレディーが来るんだから。ふんっ、俺たちとは住む世界の違う貴族様だ!」

男は獣のように叫んだ。





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