最後だけは幸せな婚約破棄

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幸せ?

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「君とは上手くいかないようだ……」

「そう……分かった」

 令嬢は一人歩き始めた。間もなく夕日が完全に海へ沈む。ただ一人、明日の空へ向かって歩き出す。


「もうゴールしてもいいよね?」

 令嬢は叫んだ。王子様に聞こえるように。

「……………………」

 王子様は何も答えなかった。

「意気地なし!」

 令嬢は怒鳴り散らした。このままカモメにでも連れられて、空まで登っていきたかった。


 私の人生ってなんだったの?

 親の言いなりになって、王子様と結婚して、それがこういう形で終わって……。

 それでもあなたは生きろって言うの?

 生き恥を世間に曝せと言うの?

 もう、止めよう。こんなこと。

 一歩ずつ海へ足を進める。

 冷たい。心地いいくらいだ!

 私は泳げないから……このまま潮が満ちれば……月の光に導かれ海洋を流離う。誰もいない、私だけの世界。次の旭が昇る頃、私は空に向けて旅立つ……。遥か高い世界に誘われる。

「さようなら、をする人なんて……いないじゃない……」

 ここまでくると、開き直るしかなかった。間もなく潮が満ちる。あごの真下まで塩気がやってくる。

「大丈夫……このまま天を見上げて……お星さまが見つけてくださるわ……」


 瞳を閉じた瞬間、満天の星空が映った。


「やっと見つけた……ここにいたんだね?」

 この声は…………えっ、王子様?

「おっ……王子様?そんなはずは?」

「随分と遠くに来たね?探したよ」

「だって……どうしてここにいらっしゃるの?」

「僕は空の上の住人だよ?君が死のうとしているから止めに来たんだ」

 そんなはず……。

「ごめんね。一足先に旅立ったんだ。君の元を。僕は……先にゴールしちゃったから……」

 王子様が婚約破棄したのって……?

「いつまでも僕が引き留めちゃまずいだろうと思ってね……」

「そんな……王子様……」

 王子様は今でも私のことを愛して下さっているんだ……。

「王子様……私は今でもあなたのことを愛しております!このままご一緒に!」

「しかし……君には君の人生があるじゃないか?」

「私の人生は王子様の人生の一部なのです。王子様が人ではなく……神様になったとしても……私は神様に付き従っていきますっ!」

「僕も……君のことを愛しているよ。ずっと、これからも」

「だから、ずっと一緒にいましょう?一緒に、とはいきませんでしたが、私も早くゴールしたいのです。神様の住む空の上に参りたく思います」

「そうか……そうか……分かった」

「ああっ……私の王子様!」

「君との婚約を破棄する。神に誓って」

「謹んでお受けいたします!」

 
 令嬢は王子様と共に人生を終えた。


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