Level9の婚約破棄

tartan321

文字の大きさ
上 下
2 / 4

Level10

しおりを挟む
国境に至る長い長い森を歩いていた。昼間だと言うのに、光は全く届かない。まるで、この世界の孤独を全て背負っているようだった。私の旅の目的は、魔法をきちんと使いこなせるようになること。Level10の称号を頂き、ヤーマン帝国皇帝になることである。

とは言うものの、修行には相当の体力を要する。疲れ切って城に戻っても、出迎えてくれるのは侍従たちで、

「よくお戻りになられました、マルク皇子……」

と発するフレーズが決まっている。

えっと、私も一応男である。だから、例えば、

「お帰りなさいませ!マルク様!」

と元気に迎え入れてくれる令嬢がいてくれたら嬉しいと思う。

「ああーそうなんですね。お国のために頑張っていらっしゃるのですね!私、感激いたしました!」

妄想はこれくらいにしよう。現実はずっとつまらないものである。


サブスタンスジャッジメントの欠点は、コントロールの難しさである。ついつい、攻撃対象以外の物質をも巻き込んでしまうリスクがある。その都度、ヒストリーキャーキュレーションを行えば、それはそれでいいのだが、余計に疲れる。はあっ、それにしても、目標を達成してLevel10に到達した時、私はどう思うんだろうか?

修行を終えて城に戻る道すがら、私は奇妙な少女に出くわした。まだ幼い子供だった。彼女は腹を下にして道に横たわっていた。

「おいっ、大丈夫か?」

私は少女の元へ近づいた。ここは魔法を極めるための空間であり、一般人が足を踏み入れるような場所ではない。ある程度の魔法能力を所持していなければ、プレッシャーに打ちのめされてスライムになってしまうはずである。すると、この少女もまた、魔法を心得ている者なのだろうか?

「うううっ…………」

しばらくすると、少女は目を覚まして起き上がった。私はとりあえず安堵した。皇子たるもの、傷を負った人間を放っては置けない。すぐさま城に連れて行けば、傷の手当てができる。

「気がついたみたいだね。私の名はマルク。この国の第一皇子だ」

そう言って、少女の体に触れようとした瞬間、人一人、いや、五人くらいをいっぺんに麻痺させることができるくらいの強い電流を感じた。

「いててっ…………!」

とっさに防御魔法を発動したため、大事には至らなかった。それにしても、この少女は一体何者なんだ?

少女はじっと私のことを見つめていた。その灰色にくぐもった瞳には、恐らく絶望という二文字のみが映っていた。

「私の名前は……アテナ……」

彼女はまるで、何も知らない子供だった。

しおりを挟む

処理中です...