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プロローグ
天鏡の雷鳴
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天は知を映し、地は天を映し出す。
そこにあるのは鏡。
対面するかのように向き合わされた丸い鏡が、それぞれを互いに写し取っている。
丸さは平面からおうとつを持ち立体的な丸みを帯びた。
それらは一つの巨大なあるものを中心として、まるで卵の真っただ中にそれを囲い込むかのように、殻に閉じ込めるかのように締まっていく。
世界は透明な幕に包まれ、幕は鏡と鳴り、鏡はわずかな光をどこかから取り入れ、まばゆいばかりの光源へと変化する。
熱を帯び、激しく振動した内部の空気は幾度も幾度も揺さぶられて、白光のなかに数千の紫電を生み出した。
雷とそれに晒されるだけでありとあらゆるものが灰と化す熱量を帯びた終焉の兆しが、情けというものをすべて取り払ったかのような幕のなかで、その中心にあるもうすぐ目覚めようとしていた化け物を灼殺する。
数億の雷光が煌めき、それは天上天下のどちらかも鏡を通じて永遠に近い時間を、駆け巡るかのように思わせた。
「なんだ、この地獄は」
蒼い獣人のたくましい腕に抱きかかえられ、黒髪の少女のような存在は目を見開いて驚愕の声を上げた。
あの鏡の幕の向こう側では、死滅させることすら難しいと予見されていた伝説の魔獣があっさりと。
それでいて、荘厳な雰囲気と静けさと共に、滅されていくのが見えた。
普通の人間ならその光の奔流で目が潰されてもおかしくないはずなのに、不思議と幕のこちら側には熱も雷の気配すらも漂ってこない。
「なんだ、あの技は」
再び、彼は呻いた。少女の声は、彼女ではなく低い少年のものだった。
「なんなんだ、お前は! アレックス‥‥‥!」
その存在を咎めるかのように、腕に抱かれたまま黒髪の彼――イオリは呻くように疑問を口にする。
こんな鮮烈な光景は、あまりにも凄惨すぎて他の仲間たちには報告できない。
「俺は俺だ。お前がお前だって言うように‥‥‥俺が、怖いか?」
いくばくかの恐れを含んで。
罵られ、忌避される未来を予想して。
蒼い髪と青と白の獣耳とその尾をもつ獣人は問うた。
まだ十代に見えるイオリとは対照的に、その顔にはすでに皺が深く刻まれており、彼が若くないことを示していた。
「いいや。いいや、ない。それは‥‥‥ない。私も同じものを見て来た。それはない」
「そっか」
宙に浮かび、足元にはまだ灼熱の幕内で最後の断末魔を上げる魔獣のそれを耳にしながら、もう片方には自分の義理の息子を抱いてアレックスは空に立っていた。
いままでの戦闘の後遺症で一時的に動けないイオリは、獣の母親に首元を咥えられ運ばれていく子供になった気分で、その状態に甘んじる。
否定でもなく、拒絶でもなく、肯定よりもより強い受容の言葉。
私たちは似た者同士だ、と言われたような気がして、アレックスは違いない、と頬を上げて笑っていた。
そこにあるのは鏡。
対面するかのように向き合わされた丸い鏡が、それぞれを互いに写し取っている。
丸さは平面からおうとつを持ち立体的な丸みを帯びた。
それらは一つの巨大なあるものを中心として、まるで卵の真っただ中にそれを囲い込むかのように、殻に閉じ込めるかのように締まっていく。
世界は透明な幕に包まれ、幕は鏡と鳴り、鏡はわずかな光をどこかから取り入れ、まばゆいばかりの光源へと変化する。
熱を帯び、激しく振動した内部の空気は幾度も幾度も揺さぶられて、白光のなかに数千の紫電を生み出した。
雷とそれに晒されるだけでありとあらゆるものが灰と化す熱量を帯びた終焉の兆しが、情けというものをすべて取り払ったかのような幕のなかで、その中心にあるもうすぐ目覚めようとしていた化け物を灼殺する。
数億の雷光が煌めき、それは天上天下のどちらかも鏡を通じて永遠に近い時間を、駆け巡るかのように思わせた。
「なんだ、この地獄は」
蒼い獣人のたくましい腕に抱きかかえられ、黒髪の少女のような存在は目を見開いて驚愕の声を上げた。
あの鏡の幕の向こう側では、死滅させることすら難しいと予見されていた伝説の魔獣があっさりと。
それでいて、荘厳な雰囲気と静けさと共に、滅されていくのが見えた。
普通の人間ならその光の奔流で目が潰されてもおかしくないはずなのに、不思議と幕のこちら側には熱も雷の気配すらも漂ってこない。
「なんだ、あの技は」
再び、彼は呻いた。少女の声は、彼女ではなく低い少年のものだった。
「なんなんだ、お前は! アレックス‥‥‥!」
その存在を咎めるかのように、腕に抱かれたまま黒髪の彼――イオリは呻くように疑問を口にする。
こんな鮮烈な光景は、あまりにも凄惨すぎて他の仲間たちには報告できない。
「俺は俺だ。お前がお前だって言うように‥‥‥俺が、怖いか?」
いくばくかの恐れを含んで。
罵られ、忌避される未来を予想して。
蒼い髪と青と白の獣耳とその尾をもつ獣人は問うた。
まだ十代に見えるイオリとは対照的に、その顔にはすでに皺が深く刻まれており、彼が若くないことを示していた。
「いいや。いいや、ない。それは‥‥‥ない。私も同じものを見て来た。それはない」
「そっか」
宙に浮かび、足元にはまだ灼熱の幕内で最後の断末魔を上げる魔獣のそれを耳にしながら、もう片方には自分の義理の息子を抱いてアレックスは空に立っていた。
いままでの戦闘の後遺症で一時的に動けないイオリは、獣の母親に首元を咥えられ運ばれていく子供になった気分で、その状態に甘んじる。
否定でもなく、拒絶でもなく、肯定よりもより強い受容の言葉。
私たちは似た者同士だ、と言われたような気がして、アレックスは違いない、と頬を上げて笑っていた。
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