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第一章

冒険者に

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 古都ペイゼワールには、有名な冒険者ギルドの支部がいくつもある。
 そのうちの一つ、グレンライドファミリアというギルドに、ルークは登録することができた。
 八歳になったばかりの、秋の日だった。

 その日、ルークは生まれて何度目かの容赦のない暴力に晒されていた。
 冒険者になったはずなのに、それを快く受け入れてくれる仲間は、そこにはいなかったからだ。
 右から左から、上から下からも。
 目まぐるしいほどに十数人の男たちに囲まれて、いや、中には女や人ではない獣人もいたような気もする。
 囲まれたのはゆっくりとだったけれど、拳の洗礼がやってきたのは、一瞬だった。

 蹴りも、武器の一撃も、容赦なく、少年の体に傷を負わせていく。
 そのやり方も、骨が折れたり、内臓が潰れたり、死に至るような怪我をさせないように。
 適度に手を抜きながら、それでいて反抗することは絶対にできないような、いやらしげなやり方で彼らはルークを苛め抜く。

 助けて助けて。

 その言葉を口にできないように、一番最初にやられたことは、口の中にぼろ布を押し込まれること。
 両手をがっしりと掴まれ、喉を締め上げられて、息ができなくなり口を開けたら、それが放り込まれた。
 容赦なく、喉の奥にまで。

 それから彼らは、まるで自分が正義の執行者でもあるかのように叫んだ。

「この裏切り者の息子。卑しい身分の俺たちが、貴族であるお前に正しい生き方を教えてやるよ」
「このクソガキが。身分をわきまえないクソガキが。貴族のくせに、冒険者になりたいなんて生意気なことを言いやがる」
「いっそ殺してしまえ。裏切り者の息子なんて、俺たちの仲間には入らないんだよ!」

 そう言って、殴られ続ける。
 何度も何度も、普通に小突かれただけで痛みを伴うようなところを、執拗に狙ってくる。

 体を丸め、顔を両手でかばい、膝を抱きかかえるようにして、背を丸めて地に這うルークには、抵抗することは許されない。 
 そんな抵抗する気力すらあっさりと奪われてしまう。

 これが身分というものか。

 これが裏切り者の息子になった代償というものか。

 父親への恨みがとめどなく心の奥から溢れてきて、それを守ってなんとか立ち上がろうとする。
 怒りではなく、復讐の一念。
 憎悪にまみれた劣等感が、這い上がれ、自由を勝ち取れと、そうささやく。
 でもルークは叫ぶのだ。
 心の中で叫ぶのだ。

「嫌だ! 僕はまだ頑張れる。僕はまだ、生きている。父親のようになりたくない。僕は愚か者になるつもりはない。復讐はするけど‥‥‥裏切り者じゃない」

 復讐だ。
 復讐を力にしろ。
 明るい太陽よりも、どす黒い日蝕のような、闇色の炎をその心にまとえ。
 そうすれば、お前には大きな力が与えられるのに。
 誰かが頭の奥でそういう風に優しく優しく甘くときめくような声で囁いてくる。

 でもそれを受け入れたくはない。
 僕は、小さな騎士だから。

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