アンジュバール~異世界スカッドはアイドル始めました~

和泉鷹央

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第四章

第43話 流星に撃たれたアイドル

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 真昼間だというのに、窓にはカーテンが引かれて室内は薄暗い。
 照明すらつけられてない闇の中で、不気味に光るのは数枚のモニターとゲーミングパソコン本体の光だけだ。
 茜はカタン、と玄関が開く音を聞いて没頭していた作業から現実に引き戻された。

「家族が戻ってきたな」
「ええ、そのみたいね。もう夕方か……」
「作業に集中していたから時間の変化に気づかなかったんだろう。たまには息抜きをした方がいい。集中力が途切れると、精度も低下するからな」

 パソコンモニターの一枚に、黒いサングラスをかけた男が映っていた。
 銀色の背中まである髪をオールバックにして、緑色の軍服に身を包んでいる。
 時折、サングラスの透過光によって見える目は険しく、生気のないもので無機物を思わせた。

「そうするわ。仁菜がしくじったからこんな時間まで徹夜しての作業だもの。肩が凝っちゃった。あなたはずっとそこにいて平気なの?」
「私は単なるプログラムだ。疲れなどというものとは無縁な存在だよ。気にしなくていい」
「プログラム、か……。ばら撒いた画像、全部、どっかの誰かに消されたし、保存していたものも無くなってる。さすがにこのパソコンまで侵入されていないようだけど」
「君に与えている回線は特別製だからね。地球の技術で割り込むのは不可能だ」
「そう」

 うーん、と大きく伸びをした少女は、椅子を机からさげ回転させると、棚に無造作においてあった赤い鉱石――アマノダイトに手を伸ばした。
 見た目よりも重たい核をじっと見つめて、面白く無さげにふん、と鼻を鳴らす。

「これ一個であんなに暴れる仁菜を作ることができた。玲と沙也加もあそこにいたっていうわ……死ねば良かったのに。アンジュバールなんて解散してしまえばいいんだわ」
「物騒なことを言うな、君は」
「でも――いいこともあった。あなたと合体したら、空も飛べるんだから。こんな足で生きていくなんて悔しさしかなかったけど……。いい気分だった」
「君が望むなら、いつだって力を貸すよ。でも代償は必要だ」
「――っ。今回は仁菜を捧げたじゃない!」

 面白く無さげに頬を歪めると、アマノダイトをベッドに叩きつけた。それを拾いあげ、何度も、何度も繰り返す。十数回叩きつけて気が済んだのか、荒い息を吐きながら茜はパソコン画面へと振り向いた。

「次の作戦を考えようか。生贄も探す必要がある」
「仁菜はしばらく使えないから……でも大丈夫よ」

 見上げた壁には、仁菜が所属するアイドルグループ、Eclipse Rhythm(エクリプス・リズム)の写真が貼ってあった。



 二週間が経過した。
 俊太郎とさまざまな意見交換を行い、数日おきにエヴォルの捜査を行うが痕跡はおおろか、反応すら見つけることができない。
 アンジュバールの事務所に俊太郎が話を持ちかけ、資金が提供され解散の危機はひとまず脱した。

 次の新曲は、祭田圭司のプロデュースで発表することが決まり、スポンサーとしての俊太郎は、圭司と仕事に関してなにやら綿密な打ち合わせをしている。
 その間、特に事件が起こることもなく、エヴォルの反応が天眼や俊太郎の機器に感知されることもなかった。

 ヴィクトリアチャームでモーニングからディナーまで入り、配信をし、楽器や歌の練習をして動画撮影をして寝る日々。
 何気ない日常、事件のない平穏な日々。
 オルスでは得ることのできない安息の状態を手に入れた玲と沙也加は、このまま時間が止まってしまったら――。

 平和なままでずっと生きていけたらと頭の片隅で考えてしまう。
 罪悪感を感じ、頭から考えを打ち消して、仕事に励む日々にニュースが舞い込んだのは、二月の頭のことだった。

「玲、客を連れてきたぞ」
「圭司さん」

 やってきたのは、Eclipse Rhythm(エクリプス・リズム)のプロデューサー、祭田圭司だった。
 ランチからディナーの間のカフェタイムに彼が連れてきた客は、二十代の爽やかな青年だ。

「野上です。よろしく、アンジュバールの愛川玲さんですね」
「え、えっと。お待ちください。まだ仕事中で……」
「少しだけ時間取れないか、玲。沙也加も交えて話がしたい。いい話なんだ」
「いや、でもそういうことは神大スポンサーの許可が――」
「俺は来ているよ」

 と、後からいつの間にやってきたのか、俊太郎の声がする。
 店内にいる客は数人。
 バイトリーダーに打ち明けると、十五分くらいなら構わないと許可を出してくれた。
 ソファー席に座り、会議が始まる。
 玲はどんな話が始まるのかと緊張して心が躍るのを感じていた。

「実は私、地方で養護施設を複数経営する病院の広報をしておりまして。入院している子供たちの慰問をしてくださる方を探していたのです」
「はあ……それでどうして私たちに?」
「ボクたちの歌と踊りが評価されたってこと?」

 その通りです、と野上は大きくうなずいて病院のパンフレットと慰問計画の書類をテーブルに広げた。

「『流星に撃たれたアイドル』、愛川玲さん。あなたのファンだった子供のひとりから、今回の提案がありました。是非、我が青山総合病院で慰問を行っていただきたいのです」
「流星――!?」

 あの時だ、と玲は思った。最初にした配信が小さなネットニュースに取り上げられて、玲は『流星に撃たれたアイドル』として一部のSNSで話題になった。

 恥ずかしさと照れや戸惑いが心に湧きたち、カメラの前ではできていたショーが、果たしてリアルのお客さんを前にしてできるのか、という不安が襲ってくる。

「小さな街ですし、地方のテレビ局から撮影したいという話も出ています」
「玲、沙也加。アンジュバールの活動再開を地上波で伝える、いい機会だ」
「地方だけでなく、大きなテレビ局のニュースでも扱ってもらえるように、いま事務所が交渉中だ。もちろん、資金は俺が出す」

 俊太郎が自信満々に固めた手で胸をどんと叩いた。
 外堀を埋められてしまい、もう逃げ場がないことに玲と沙也加は気づく。

「こうなったら――やるしか……」
「そうね、沙也加。やります。いえ、やらせてください! アンジュバールの名前を全国に!」
「お願いします!」

 玲と沙也加は席を立って、腰を折った。
 全国ニュースになれば、他のメンバーにも伝わるはずだ。
 そうなれば、スカッドのみんなと合流できる――。
 二人の必死の想いが通じて、玲と沙也加は慰問でN県にある青山総合病院を訪れることになった。

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