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第二話
「結婚して家に入って子供を産んでまた子育てを始める。それが悪いわけじゃないんだけどね―ー」
と、普段はそうでもない母親が、この夜に限っては陽気だったのでしばらく放っておくことにした。
母の話題は、女性が結婚して家に入ったらというものから、自分の若い頃のそれと変化する。
いつのまにか、だいぶ前になるという、父との新婚旅行に話題は突き進んでいた。
子育ての話はどこに行ったのだろう。
ちょっと呆れながら私はそれを耳にする。
「あれはもう二十年近く前の話よ。お父様に、新婚旅行で海外に連れて行って頂いたの。レイノートの東海岸はとても華やかで素晴らしい夜だったの」
「そう。それでお母様。その夜がどうしたっていうの」
「……昼間のパーティに誘われたの。もちろん、お父様と一緒にね」
「へえ」
レイノートとは、海を挟んだ対岸にその姿を見ることのできる、帝国の避暑地だ。
温暖な気候で年中を通して海に入ることができるという。
そんな場所だから、もちろん、開放的な気分になるのも、理解はできた。
母は四十代後半。
もうすぐ、四十歳を迎えようとしていた。
十代後半で結婚、私を生み、それから家の中でじっとだまって夫をささえる賢い女性をこなしてきた彼女。
その口から、お酒に酔ったとはいえまさかこんな一言が飛び出してくるなんて。
私は夢にも思わなかった。
「そこで見てしまったの。自分と同年代の若い水夫の青年だった。見習いだったかもしれない。あの真紅のルビーのように輝く情熱的な光をはなつその目に‥‥‥私は思わず見惚れてしまったわ」
「ちょっと! お母様?」
いきなり何を言い出すの、と姉のロージが小さく叫ぶ。彼女の母譲りの銀髪が揺れた。
妹のエマも黒い腰まである長髪を結い上げたその頭を振ってぼやいた。
「あー……信じられない。これで子爵婦人なんだから」
「まあ、まあ……ははは」
エマの一言に、なぜかシュラスは同じく黒髪を撫でつけた頭を向け、その機嫌を取るように笑ってごまかす。
わたしはその時、恥ずかしさで彼の顔をまともに見れなかったから、異変には気づかなかった。
この時、気づいていれば――あとの悲劇を防げたのかもしれない。
と、普段はそうでもない母親が、この夜に限っては陽気だったのでしばらく放っておくことにした。
母の話題は、女性が結婚して家に入ったらというものから、自分の若い頃のそれと変化する。
いつのまにか、だいぶ前になるという、父との新婚旅行に話題は突き進んでいた。
子育ての話はどこに行ったのだろう。
ちょっと呆れながら私はそれを耳にする。
「あれはもう二十年近く前の話よ。お父様に、新婚旅行で海外に連れて行って頂いたの。レイノートの東海岸はとても華やかで素晴らしい夜だったの」
「そう。それでお母様。その夜がどうしたっていうの」
「……昼間のパーティに誘われたの。もちろん、お父様と一緒にね」
「へえ」
レイノートとは、海を挟んだ対岸にその姿を見ることのできる、帝国の避暑地だ。
温暖な気候で年中を通して海に入ることができるという。
そんな場所だから、もちろん、開放的な気分になるのも、理解はできた。
母は四十代後半。
もうすぐ、四十歳を迎えようとしていた。
十代後半で結婚、私を生み、それから家の中でじっとだまって夫をささえる賢い女性をこなしてきた彼女。
その口から、お酒に酔ったとはいえまさかこんな一言が飛び出してくるなんて。
私は夢にも思わなかった。
「そこで見てしまったの。自分と同年代の若い水夫の青年だった。見習いだったかもしれない。あの真紅のルビーのように輝く情熱的な光をはなつその目に‥‥‥私は思わず見惚れてしまったわ」
「ちょっと! お母様?」
いきなり何を言い出すの、と姉のロージが小さく叫ぶ。彼女の母譲りの銀髪が揺れた。
妹のエマも黒い腰まである長髪を結い上げたその頭を振ってぼやいた。
「あー……信じられない。これで子爵婦人なんだから」
「まあ、まあ……ははは」
エマの一言に、なぜかシュラスは同じく黒髪を撫でつけた頭を向け、その機嫌を取るように笑ってごまかす。
わたしはその時、恥ずかしさで彼の顔をまともに見れなかったから、異変には気づかなかった。
この時、気づいていれば――あとの悲劇を防げたのかもしれない。
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