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プロローグ
第3話 生還率
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テーブルの上に置いてあったクリスタル製の灰皿を手にしたラモスは、手のひらより少し大きいそれを掴んだ。
そして、フリスビーの要領で手前にくいっと引き寄せたかと思うと、キースの頭蓋めがけて叩きつけた。
あまりにも早いその動きに常人ならついていけなかっただろう。
結果として待っているのは灰皿が頭蓋骨にヒットしてそのままあの世行きだ。
ところがキースときたら、「おー、あぶねー」何と言いながら灰皿を避ける。
勢い余り背後の壁に激突したクリスタルの灰皿は、壁材との硬さ比べ押し勝ち、めっきりと壁の中にめり込んでしまった。
もし、廊下の向こうにいた誰かいれが、いきなり突出した透明な物体に驚き悲鳴をあげたことだろう。
それほどにラモスの膂力はすさまじいものがあった。
「あ―――――っ? てめえ、なんで避けた!?」
「よくなきゃ死ぬだろうが……バカか」
「この野郎、あれを受けてさっさと死んでいれば今回の件は不問にしてやったものを……」
「冗談じゃねえよ、役立たずだの、無能だの、死に損ないだの。おまけにあんた自ら殺人を起こそうとするなんて、このギルドは何だよ? 暗殺者のたまり場か? ここは地下迷宮の案内や管理を行う総合ギルドだぞ?」
短めの銀髪をオールバックにした長身の彼は、上司からこんな扱いを受けても慌てることなくどっしりと構えていた。
多分、迷宮の中でも中級モンスターであるオーガとかミノタウロスが出てきたとしても、彼は落ち着き払い物事に対処するのだろう。
実際、ラモスの部下にいる数十名の迷宮案内人のなかでも、彼は使える男だった。
キース・ライドネル。
この世に迷宮の探索や案内を仕事にする冒険者は多くても、この男ほど降りていった他の冒険者たちを生還させる確率が高い案内人は存在しない。
存在しないがゆえに、妙なトラブルばかり持ち込んでくる存在だった。
ラモスは重いため息をつく。
「もういい加減にしてくれ」、と悲鳴を口にする。
「いいか、キース、よく聞け。お前はこの探索者ギルドのお荷物なんだよ。誰も高い生還率なんて望んでないんだよ。俺たち探索者を雇い、迷宮を案内させて冒険者が望むことはレベルアップなんだ。レベルアップと宝物持ち帰ること、そしてそれを売り払い財産にする。一攫千金があいつらが馬鹿な冒険者たちの望みなんだよ、わかるか」
「んまあ……分からないことはない」
「分かるんだったらやれよ、やってくれよ。俺が課長になってからこっち二年間、お前はまともな成果をあげていない。ただ案内し、ただ探索させ、そしてそいつらが戦って勝てるモンスターがいる所に案内する! もっと危険度の高いところに案内してくれよ!」
「嫌に決まってるだろう。死に顔を見るのは俺なんだぞ……俺のやるようにやれば、誰も死ななくて済む。生きて帰ることができるだろ?」
あーもうっ、とラモスは残された左の手のひらで顔を覆うと天を煽った。
こいつは何も聞いてない、何にも理解していない。
どうして俺の足手まといにしかならないんだ、お前は……。
ラモスは悩み、うめき声をあげた。
「それじゃあ金にならないだろう金に!」
「金がすべてじゃないだろう、ラモス」
「いいかよく聞けよっ! ここの地下迷宮は俺たちだけじゃない、他にも盗賊ギルドとか鉱石を加工するためのドワーフたちや、中には王国の騎士団の方々が実戦演習を兼ねて降りられることだってあるんだ」
「……だから?」
「だからじゃねえよ! そのために金もらってんだよこっちは、金もらってまっすぐに俺たちが開拓してきた地下を案内しなきゃならない。この地下迷宮の案内はな、俺たちの祖先が命をかけて探索し開拓し獲得してきた成果の上に成り立ってるんだぞ! お前は、みんなが切り開いてくれたこの財産を、勝手に切り売りしてるのと同じなんだよ。自分勝手に迷宮探索課の財産を黙って、売り飛ばしてる!」
「あー……俺が良かれと思ってやってきたことは、そう思われていたのか?」
「そ、う、だ、よ! この疫病神がっ」
「一言余計だぜ、ギルマス」
心外だという顔をしてキースは銀髪を撫で上げた。
彼の中では案内する客たちのレベルに合わないモンスターと戦わせても、それでレベルが上がるならいい。
だが死んでしまう可能性が高いなら、弱い冒険者でも苦労せず倒せるような低レベルのモンスターの所に案内した方がよっぽどいい。怪我をすることも少ないし命を落とすことない。
「俺が毎日毎日毎日、お前がやらかした生還率の高さで、周りからどれだけ嫌味を聞かされてるか知ってるのか!?」
「いやー興味ないね。生還率こそすべてだろ?」
何度だってここに降りてきて何度だって挑戦すればいい。
そうすればいつかはDランクだってAンクになれるんだから。
銀髪の青年はそう思ってこれまで迷宮案内探索人を続けてきたのだが……どうやら理解されないらしい。困ったものだ。
「儲けの伴わない生還率に、意味なんてねーんだよ! このゴミクズがあああっ!」
ラモスが叫ぶ。まるで雄牛が盛っているみたいな叫びだった。
キースは呆れた顔でそれを言下に否定する。
そして、フリスビーの要領で手前にくいっと引き寄せたかと思うと、キースの頭蓋めがけて叩きつけた。
あまりにも早いその動きに常人ならついていけなかっただろう。
結果として待っているのは灰皿が頭蓋骨にヒットしてそのままあの世行きだ。
ところがキースときたら、「おー、あぶねー」何と言いながら灰皿を避ける。
勢い余り背後の壁に激突したクリスタルの灰皿は、壁材との硬さ比べ押し勝ち、めっきりと壁の中にめり込んでしまった。
もし、廊下の向こうにいた誰かいれが、いきなり突出した透明な物体に驚き悲鳴をあげたことだろう。
それほどにラモスの膂力はすさまじいものがあった。
「あ―――――っ? てめえ、なんで避けた!?」
「よくなきゃ死ぬだろうが……バカか」
「この野郎、あれを受けてさっさと死んでいれば今回の件は不問にしてやったものを……」
「冗談じゃねえよ、役立たずだの、無能だの、死に損ないだの。おまけにあんた自ら殺人を起こそうとするなんて、このギルドは何だよ? 暗殺者のたまり場か? ここは地下迷宮の案内や管理を行う総合ギルドだぞ?」
短めの銀髪をオールバックにした長身の彼は、上司からこんな扱いを受けても慌てることなくどっしりと構えていた。
多分、迷宮の中でも中級モンスターであるオーガとかミノタウロスが出てきたとしても、彼は落ち着き払い物事に対処するのだろう。
実際、ラモスの部下にいる数十名の迷宮案内人のなかでも、彼は使える男だった。
キース・ライドネル。
この世に迷宮の探索や案内を仕事にする冒険者は多くても、この男ほど降りていった他の冒険者たちを生還させる確率が高い案内人は存在しない。
存在しないがゆえに、妙なトラブルばかり持ち込んでくる存在だった。
ラモスは重いため息をつく。
「もういい加減にしてくれ」、と悲鳴を口にする。
「いいか、キース、よく聞け。お前はこの探索者ギルドのお荷物なんだよ。誰も高い生還率なんて望んでないんだよ。俺たち探索者を雇い、迷宮を案内させて冒険者が望むことはレベルアップなんだ。レベルアップと宝物持ち帰ること、そしてそれを売り払い財産にする。一攫千金があいつらが馬鹿な冒険者たちの望みなんだよ、わかるか」
「んまあ……分からないことはない」
「分かるんだったらやれよ、やってくれよ。俺が課長になってからこっち二年間、お前はまともな成果をあげていない。ただ案内し、ただ探索させ、そしてそいつらが戦って勝てるモンスターがいる所に案内する! もっと危険度の高いところに案内してくれよ!」
「嫌に決まってるだろう。死に顔を見るのは俺なんだぞ……俺のやるようにやれば、誰も死ななくて済む。生きて帰ることができるだろ?」
あーもうっ、とラモスは残された左の手のひらで顔を覆うと天を煽った。
こいつは何も聞いてない、何にも理解していない。
どうして俺の足手まといにしかならないんだ、お前は……。
ラモスは悩み、うめき声をあげた。
「それじゃあ金にならないだろう金に!」
「金がすべてじゃないだろう、ラモス」
「いいかよく聞けよっ! ここの地下迷宮は俺たちだけじゃない、他にも盗賊ギルドとか鉱石を加工するためのドワーフたちや、中には王国の騎士団の方々が実戦演習を兼ねて降りられることだってあるんだ」
「……だから?」
「だからじゃねえよ! そのために金もらってんだよこっちは、金もらってまっすぐに俺たちが開拓してきた地下を案内しなきゃならない。この地下迷宮の案内はな、俺たちの祖先が命をかけて探索し開拓し獲得してきた成果の上に成り立ってるんだぞ! お前は、みんなが切り開いてくれたこの財産を、勝手に切り売りしてるのと同じなんだよ。自分勝手に迷宮探索課の財産を黙って、売り飛ばしてる!」
「あー……俺が良かれと思ってやってきたことは、そう思われていたのか?」
「そ、う、だ、よ! この疫病神がっ」
「一言余計だぜ、ギルマス」
心外だという顔をしてキースは銀髪を撫で上げた。
彼の中では案内する客たちのレベルに合わないモンスターと戦わせても、それでレベルが上がるならいい。
だが死んでしまう可能性が高いなら、弱い冒険者でも苦労せず倒せるような低レベルのモンスターの所に案内した方がよっぽどいい。怪我をすることも少ないし命を落とすことない。
「俺が毎日毎日毎日、お前がやらかした生還率の高さで、周りからどれだけ嫌味を聞かされてるか知ってるのか!?」
「いやー興味ないね。生還率こそすべてだろ?」
何度だってここに降りてきて何度だって挑戦すればいい。
そうすればいつかはDランクだってAンクになれるんだから。
銀髪の青年はそう思ってこれまで迷宮案内探索人を続けてきたのだが……どうやら理解されないらしい。困ったものだ。
「儲けの伴わない生還率に、意味なんてねーんだよ! このゴミクズがあああっ!」
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キースは呆れた顔でそれを言下に否定する。
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