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第一章 ダークエルフ
第7話 バーの片隅で
いや、もう明日から休みになるから金曜日の夜か。
俺はまだ明日も仕事があるというのに。
キースはどんよりとした空気を背中に背負いながら、杯を重ねる。
とはいっても、明日は夕方からの日雇い勤務だ。
どれだけ酔っ払ったところで、明日の朝になれば意識はしゃっきりと目覚めている。
大酒飲みの種族としてドワーフが有名だが、そんな連中と飲み比べをしてもキースはこれまで負けたことがない。
よほど内臓が丈夫なのか、朝まで飲んでいても、数時間も眠れば元気になる。
そんな彼は成人してからというもの、毎晩毎晩、夜通し飲んでばかりだった。
「案内人とはそれほどに大変な職業なのか」
「大変? それはどうかなー……やり方によるだろ」
「と言うと?」
「やり方はいくつかあるが、依頼人の生還を優先するか、それともレベルアップを優先するか。そのどっちかによって、生き残る確率が大幅に変わってくる。さじ加減は案内人次第だ」
「なるほどなるほど」
と、続きを促すような催促がやってきた。
一体いつのまに座ったのか、彼の隣にはまだ若い女性が一人。
大人とは言い難いそんな外観で手足を精一杯広げて、足が届かないその席に一生懸命に座ろうとバランスを取っている。
なんだか、妙に気遣いをしなくていい相手だった。
こちらの警戒心を削ぐような。そんな場を和ませる雰囲気を持っている相手。
そして、何とも話しやすい相手だった。
「あの仕事は完璧に数字を叩き出すことは求められる。クソみたいな仕事だ。最悪の仕事だよ」
「ほう。そんな仕事に身を置いていた、と?」
酒の席で自分の身の上話を語ることぐらい馬鹿なことはない。
誰かの話に混ぜ合わせて愚痴ることぐらいはあるが、さすがに俺はこんなことをしてきたんだぞなんて語るより、実のある会話にした方がいい。
愚痴が多い男は嫌われる。
節度のない男も嫌われる。
こういった場所では、お互いに綺麗に遊ぶのがマナーというものだった。
「みんな言うだろ? 成績は優秀な方がいいって。誰かに教えることで私も学ぶんです、とかさ。そんなバカな話あるわけない」
「それほどに辛い役回りだったと?」
「そうだな。迷宮に降りた冒険者が十人いたら、戻ってくるのが良くて二人。三人が、いいところだ。他の職業に就いた方が相手からも自分も学びながら成長することができる」
「でも、沢山の方々を生還させてきた?」
「……自慢するわけじゃないが、俺の生還率は九割。それを切ったことはなかった‥‥‥」
キースが寂しげにそう言うと、
「素晴らしい成果だ。それは誇るべきことだ!」
彼女はふむっと自分のことのように鼻息を荒くする。
「そんな大したもんじゃない。俺もそんなに偉そうに言えるほど歳を食ってない」
「あー……。そういえば何歳だったか?」
今さっきあったばっかりの奴に、教えてやる義理もないもんだ。
「俺に問うなら、自分から言うのが先だろ」
「女性に年齢を問うのは失礼だろう」
「言ってろ。どうせ俺は単なるガキだ」
そうすねたように言うと、「そうでもないがな」と否定とも肯定とも受け取れる言い方をして、彼女は自分のグラスを飲み干した。
グラスにはジュースなんかじゃなく、立派なお酒が注がれていた。
「どんな仕事でも、経験は大事だ。それが若いとしても‥‥‥」
そんな相槌と共に、空になったキースのグラスに、またエールが注がれていく。
バーテンダー酒をグラスに注ぐと、カウンターのどこかへと去ってしまった。
「おい、俺はそんなに持ち合わせがないぞ」
「気にするな。たまにはゆっくりと飲んでみるがいい。お金を気にせずに」
「……いい、のか?」
ごくり、と喉が鳴る。
いま就いている仕事の給料は以前のものよりも安く、安価で大量に飲める薄まったエールはまずくて、そろそろ嫌気がさしてきた頃だった。
お金を気にせずにどうぞ、なんて言われたらそれこそ、高価でうまい酒をふるまってもらうしかないじゃないか。
宵越しの金をもたない意地汚い冒険者根性が心の中に染み付いている。
キースは遠慮なしに、店でも上から四番目くらいに高いワインを開けた。
飲み屋においてただ酒ほどうまいものはない。
調子に乗ってぱっか、ぱっかと喉に流し込んでいく。
そうしたら、またさっきの話の続きをしてくれと、彼女はせがんできた。
「そんなに大したもんじゃないんだよ。冒険者‥‥‥。そうだな冒険者には何種類か存在する。三種類か」
「ぜひ伺いものだ」
いつのまにかワインのボトルを片手に彼女はグラスにそれを注いでくれていた。
いいね、お酌付き。
悪くない。
ついつい饒舌になってしまう。
「まず公務員だ。冒険者と聞いて公務員か隣に並ぶのは奇妙に聞こえるかもしれない。公務員は国に雇われている人間で、冒険者はそうじゃない。それが世間の常識だからな。でも少し違うものがあってダンジョンとか、古代魔法文明の遺産とか。活用しがいがあるそれらを開発するためには、どこか一つの団体に任せておくわけにはいかないんだ」
「あー……それで公務員ですか」
彼女はふむふむ、とうなずいた。
俺はまだ明日も仕事があるというのに。
キースはどんよりとした空気を背中に背負いながら、杯を重ねる。
とはいっても、明日は夕方からの日雇い勤務だ。
どれだけ酔っ払ったところで、明日の朝になれば意識はしゃっきりと目覚めている。
大酒飲みの種族としてドワーフが有名だが、そんな連中と飲み比べをしてもキースはこれまで負けたことがない。
よほど内臓が丈夫なのか、朝まで飲んでいても、数時間も眠れば元気になる。
そんな彼は成人してからというもの、毎晩毎晩、夜通し飲んでばかりだった。
「案内人とはそれほどに大変な職業なのか」
「大変? それはどうかなー……やり方によるだろ」
「と言うと?」
「やり方はいくつかあるが、依頼人の生還を優先するか、それともレベルアップを優先するか。そのどっちかによって、生き残る確率が大幅に変わってくる。さじ加減は案内人次第だ」
「なるほどなるほど」
と、続きを促すような催促がやってきた。
一体いつのまに座ったのか、彼の隣にはまだ若い女性が一人。
大人とは言い難いそんな外観で手足を精一杯広げて、足が届かないその席に一生懸命に座ろうとバランスを取っている。
なんだか、妙に気遣いをしなくていい相手だった。
こちらの警戒心を削ぐような。そんな場を和ませる雰囲気を持っている相手。
そして、何とも話しやすい相手だった。
「あの仕事は完璧に数字を叩き出すことは求められる。クソみたいな仕事だ。最悪の仕事だよ」
「ほう。そんな仕事に身を置いていた、と?」
酒の席で自分の身の上話を語ることぐらい馬鹿なことはない。
誰かの話に混ぜ合わせて愚痴ることぐらいはあるが、さすがに俺はこんなことをしてきたんだぞなんて語るより、実のある会話にした方がいい。
愚痴が多い男は嫌われる。
節度のない男も嫌われる。
こういった場所では、お互いに綺麗に遊ぶのがマナーというものだった。
「みんな言うだろ? 成績は優秀な方がいいって。誰かに教えることで私も学ぶんです、とかさ。そんなバカな話あるわけない」
「それほどに辛い役回りだったと?」
「そうだな。迷宮に降りた冒険者が十人いたら、戻ってくるのが良くて二人。三人が、いいところだ。他の職業に就いた方が相手からも自分も学びながら成長することができる」
「でも、沢山の方々を生還させてきた?」
「……自慢するわけじゃないが、俺の生還率は九割。それを切ったことはなかった‥‥‥」
キースが寂しげにそう言うと、
「素晴らしい成果だ。それは誇るべきことだ!」
彼女はふむっと自分のことのように鼻息を荒くする。
「そんな大したもんじゃない。俺もそんなに偉そうに言えるほど歳を食ってない」
「あー……。そういえば何歳だったか?」
今さっきあったばっかりの奴に、教えてやる義理もないもんだ。
「俺に問うなら、自分から言うのが先だろ」
「女性に年齢を問うのは失礼だろう」
「言ってろ。どうせ俺は単なるガキだ」
そうすねたように言うと、「そうでもないがな」と否定とも肯定とも受け取れる言い方をして、彼女は自分のグラスを飲み干した。
グラスにはジュースなんかじゃなく、立派なお酒が注がれていた。
「どんな仕事でも、経験は大事だ。それが若いとしても‥‥‥」
そんな相槌と共に、空になったキースのグラスに、またエールが注がれていく。
バーテンダー酒をグラスに注ぐと、カウンターのどこかへと去ってしまった。
「おい、俺はそんなに持ち合わせがないぞ」
「気にするな。たまにはゆっくりと飲んでみるがいい。お金を気にせずに」
「……いい、のか?」
ごくり、と喉が鳴る。
いま就いている仕事の給料は以前のものよりも安く、安価で大量に飲める薄まったエールはまずくて、そろそろ嫌気がさしてきた頃だった。
お金を気にせずにどうぞ、なんて言われたらそれこそ、高価でうまい酒をふるまってもらうしかないじゃないか。
宵越しの金をもたない意地汚い冒険者根性が心の中に染み付いている。
キースは遠慮なしに、店でも上から四番目くらいに高いワインを開けた。
飲み屋においてただ酒ほどうまいものはない。
調子に乗ってぱっか、ぱっかと喉に流し込んでいく。
そうしたら、またさっきの話の続きをしてくれと、彼女はせがんできた。
「そんなに大したもんじゃないんだよ。冒険者‥‥‥。そうだな冒険者には何種類か存在する。三種類か」
「ぜひ伺いものだ」
いつのまにかワインのボトルを片手に彼女はグラスにそれを注いでくれていた。
いいね、お酌付き。
悪くない。
ついつい饒舌になってしまう。
「まず公務員だ。冒険者と聞いて公務員か隣に並ぶのは奇妙に聞こえるかもしれない。公務員は国に雇われている人間で、冒険者はそうじゃない。それが世間の常識だからな。でも少し違うものがあってダンジョンとか、古代魔法文明の遺産とか。活用しがいがあるそれらを開発するためには、どこか一つの団体に任せておくわけにはいかないんだ」
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