冒険者を生還させるな!と命じられた超一流の迷宮ガイド、魔獣生物学者の助手に転職する~高年収な上に美少女ダークエルフと旅ができて最高です~

和泉鷹央

文字の大きさ
14 / 52
第二章 聖女と黒狼

第13話 ライシャの来訪

 悲鳴になる寸前に、足元から吹きつける突風に押し返される形で、ケリーはキースの懐へと転がり込んだ。

 必死にもがいて抵抗しようとするが、相手は男だ。
 ほっそりとした体型。

 大して運動に打ち込んでこなかったケリーの腕力では、キースの力に敵わない。
 掴み上げられ、駅舎の建物の壁際に降ろされて、ケリーはがっくりと肩を落とした。

「このままじゃ、あいつの愛人にされちゃう。お父さんの借金、先生が払ってよね!」
「元先生じゃなかったか?」
「知らないわよ! そっちが勝手に介入してきたんでしょ」

 自分の抵抗が無意味なものに終わり、ようやく解放されると思った痛みから、まだ逃れることができないのだと悲しみに暮れる。

「だからまた死のうとするのを邪魔するなってか? 自分だけ都合よく現実から逃げて、あとに残された問題を丸投げするなんて、やりすぎだろ」
「だってそうでもしなきゃ、あたしの苦しみなんてあなたに伝わらないでしょ」
「俺が悪いのか?」
「知らないわよ」

 ケリーは視線を地面へと這わせたまま、そう悲しそうに返事をする。
 そこには、自分がしたかったことを奪った、キースに対する怒りも幾分か含まれていた。

 理不尽な感情に晒されてキースどうしろっていうんだ、とまた呻くように呟く。

「あたしはあなたに助けてって頼んでない」
「まあそりゃそうだ。俺が勝手に今日この場所に乗るって知っただけだからな」
「何わけのわからないこと言ってるの。あたし、このこと誰にも話してないのに」
「そうだな。君の親父から君のことを聞いて、ここじゃないかと思ってやってきたんだ」

 キースはうそぶいた。
 この場所のことを彼女から聞いたのは本当のことだ。
 彼の能力は【影承】(ダークハント)。

 スキルの範囲内に映った影は全て、彼の思い通りになる。
 影は本体の鏡。ありとあらゆる情報を含んで、光により投射される。

 昨夜、ケリーの影からこの時刻に発車する馬車で、地下へと逃亡しようと考えていることを知ったキースは、それを止めに来たのだった。

 棄民は住む場所が限定的だ。
 この街から他の場所へと移動する際には、必ず許可証が必要になる。

 それを持たずに外壁から一歩でも外に出れば、即死罪だ。
 逃亡は、それほどまでに罪が重い。

 それならば父親から事情を聞いて、この湾岸線にほど近い駅を利用している自分が未森の後をつけてきた、という話にした方が、まだ話に筋が立つ。

「余計なことしなくていい」
「頼まれてもしたくてしたわけじゃない。生徒が逃亡するなんて聞いたらそのまま無視する奴が馬鹿なんだ」
「それは余計なことだって言うのよ」

 黒い豊かな髪を一つにまとめて右肩から垂らした彼女は、言い訳をするようにそれを片手でいじりながら、恨みのこもった視線をキースに投げつけた。

 こんな、厄介事にどうして首を突っ込んでしまったんだろうな、俺は。

「とにかく、外に勝手に出たら、即死刑だ。それが望みならもう邪魔はしない」
「そんなはずないでしょ! どうにかして逃げるわよ!」
「なら、一度戻ろう。俺とお前と、お前の父親の三人とでどうにかなるかもう一度話をしよう」
「そんなことできるはずないじゃない……。金貨十枚も借金があるのに! これでも逃げれなくなっちゃったよ……。最低っ」

 ケリーは大粒の涙を長袖の先で拭うと、置き去りにされていた自分のバッグを拾い上げた。
 そのままゆっくりと歩き出す彼女は、西の空へと沈んでいく冬の夕日にさらされていた。

 長い長いその影はキースの足元まで届いている。
 肩を落としてフラフラと歩く彼女の影に、これから死のうという意思は感じ取れなかった。

「気をつけて家まで帰るんだぞ!」
「うるさぃっ! このバカキース! 邪魔ばっかりして!」

 ありがとう。
 また影から声がする。

 音にならない声。声にならない感謝。その響きを脳裏で聞いて、ケリーを見送る彼の背中に、不躾な一言が投げつけられた。

「なんだ、痴情のもつれか?」
「はあ?」

 いきなりかけられたその声に聞き覚えがある。
 振り返ってよくよく見ると、彼女は昨夜、バーで酒をおごってくれたあの美少女だ。

 幻じゃなかったのか。そう心で呟く。そうなると、財布に押し込められていたあの名刺と、その裏に書かれたメッセージが本物ということになる。

「待っていたんだが? 随分と遅かったな」
「……夢じゃなかったのか」
「夢だと思っていたのか? 人の金で酒をたらふく飲んでおきながら、ひどいやつだ。お前に目からのしかかられて、こっちは迷惑をしたんだぞ」
「それはすまなかった。いやちょっと待て。だとしたらあのメッセージは?」

 彼女は東側にいる。
 太陽と彼女の間にいるキースには、相手の影を読むことができない。

「名刺をやっただろう。名前ぐらい覚えてないのか?」 

 頭の中で覚えている名刺の名前を思い出した。
 ロンギヌス王国ではあまり耳にすることのない、珍しい名前。

「トイルース・ライシャ……何だっけ?」

 記憶にあるようでない、そんな感じだ。
 彼女は苛立ちを覚えたのか、こちらを睨む視線を強めていた。

感想 1

あなたにおすすめの小説

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!