冒険者を生還させるな!と命じられた超一流の迷宮ガイド、魔獣生物学者の助手に転職する~高年収な上に美少女ダークエルフと旅ができて最高です~

和泉鷹央

文字の大きさ
17 / 52
第二章 聖女と黒狼

第16話 思い出の君


「だから、どうしたと? それは普通だろ?」
「普通でも人を殺してきた経験が多いのは異常だ。それほどあいつからは他の人間の血の匂いがした。生臭い匂いだ。ひとりじゃない、数十人かそれとも百人を超えてるかもしれない。そんな香りだった」

 危険なダークエルフ。
 その言葉はキースの背筋を凍らせた。
 
「それで。そいつはなんて言ったんだ」
「お前を殺せと。バクスターの影を私も見た。迷宮の中で随分とたくさんの隠し部屋を知っているらしいな? 不正を疑われたとか。そんなことで職場をクビになるなんて愚かしい」
「俺は俺の職務を果たしただけだ」

 ふっと、ライシャはそれを鼻先で笑った。

「会社が望むことをしないのに、自分が好きなことをするのはお前のエゴだろう」
「だが生還率は高い」
「そうだな。戻る命は多ければ多いほど良い。無事ならば無事なほどに。そうでなければあの娘……ケリーのような親子が増える」

 いきなり出た生徒の名前に、キースの瞳が険しくなる。
 教師という立場に立ち返った彼は、もう恐怖を忘れかけていた。

「あいつの影も、詠んだのか?」
「私は見た、と称するが、詠んだ。けれど忘れた、どうでもいいことの忘れるに限る。その方が人生は長く楽しめる」
「ギルドは生還率よりも達成率を選んだ。生きることより、死ぬリスクの高いルートを冒険者たちに提供した。俺にとってそれは許せないことだ」
「まあ。もう辞めた。人間の社会ではクビになった、というのが正しいのか? それになったのだから今更こだわることもないだろう。お前がしたいことをすればいい」
「昨日の話か。酒に溺れると余計なことを話す」
「私は好きだ」
「は?」

 ライシャは真っ直ぐな視線で、キースの瞳の奥をのぞき込むように、じっと見つめて来る。

 好き。その言葉が表すものは、彼が数週間前から経営を始めた冒険者養成学校ことだろう。

「資金がない。金を手に入れようとしても日雇いでしか働けない、大した賃金にはならない。理想と現実があまりにもかけ離れている。だから引き受けた」
「その話は、ここではしたくない」
「昨日大声で喋ってたのをもう忘れたのか? まあ、あの」

 と、カウンター奥のバーテンダーを見遣る。
 視線を戻して、気にする必要はない、とライシャは言った。

「どういうことだ?」
「昨夜我々がここにいた間の会話を知る者の記憶、ほとんど全て消したからな。どこに滞在した時間だけ」
「また無茶なことをする……。人間の脳はそうそう都合よくできてないんだぞ」
「そんなことはない。うまく帳尻を合わせてやればいいだけだ。酒に酔ってしまったと思えば、大抵の人間は納得する」
「なんて失礼なダークエルフだ」
「褒め言葉だと受け取っておこう。私に感謝の言葉はないのか?」

 一般的に闇の妖精と呼ばれている彼らは、邪悪な存在だとも言われている。
 ライシャの口角が上がったのを見て、キースはその表現もまんざら間違っていないな、と感じた。

「どんな感謝をしたらいいんだ。今酒おごってもらっていることか? 酔えない体質にされたことか? それとも?」
「ダークスターの影を見て、彼が本当に待っていた人物になりすまし、その依頼を受けたことにして、本来の刺客を無力化してやったことだ」
「無力化って」
「探し出すのに三日ほどかかった。だからお前に会いに行くのが昨日になった。何、心配はいらん。その女ダークエルフも、随分と人を殺しすぎていた。それらの怨念を寝ている間にしがみつかせてやっただけだ。心の中にな。恐怖と狂気に錯乱して、自分から飛び降りた。確か彼女のアパートは四階だったか」
「何て酷いことを」
「通行人のふりをして生きているかどうかを確かめた。死んでいた。お前はそれで助かった」
「だけど」

 声を潜めてキースは言う。
 一度失敗したからといって、二度目がないとは限らない。

「二度目はない」
「なぜそう言い切れるんだ」
「昨日お前が言っていたではないか。新しい仕事が決まった。これを達成すれば、棄民から抜け出ることができると」
「……勇者パーティの案内か」
「そうだ。もっともそれは私が手配したものじゃない。私も昨日お前に聞いて初めて知った。こんなこともあろうかと、バクスターには監視の妖精を張り付けておいた」
「ギルドが命令を取り消した?」
「一時的に停止したようなものだ。だが、任務を達成すればそれは永久に凍結される。そういうことだと言っていた」

 ラモスとバクスターが。
 思いもしなかった人物の名前が飛び出して、キースはワインを吹き出しそうになる。

 俺を追い出した元上司と刺客の手配人が繋がっていた。
 二度とあそこには戻れない。

 そんな気がした。
 肩を落とすキースに追い打ちをかけるように、ライシャは言う。

「キース。とりあえず就職おめでとう。戻ってきたら、私をそこに案内してくれ。私はそれまでゆっくりとこの地下世界を堪能することにしよう。ああ、それから」
「なんだよ!」
「もう少し、影を操ることを覚えた方がいい。他人に考える読まれるなんて愚の骨頂だ」
「もう帰れ! お前だけ酔っ払ってるんじゃないか!」
「ははは。かもな? 今夜の酒はうまい。他人と交わす杯なんて数年ぶりだ」

 酔っ払って上機嫌になったダークエルフはそう言うとバシバシと手のひらでキースの背中を叩きまくった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!