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第三章 罪深いオフィーリア
第20話 明るい未来と侵入者
これも聖なる人に選ばれた責務だ、と勇者は言う。
その顔にはいつものように希望が満ち溢れている。
彼は二人が頑張れば、明るい日が来るはずだと言う。
オフィーリアはその前に、王国が滅んでくれないかと思ってしまった。
「理解しておくれ、オフィーリア。俺は勇者だから仕方ないんだ、今は俺と君が最高レベル。この王国で魔物と戦える最も強い戦力が、俺たちなんだとか」
「あれね。魔導科学で作った計測装置、カウンターとかいう。あの総合ギルドが開発を手掛けたっていう……。全ての力を、数値で測ることのできる装置。あれがあなたをそういう風にしてしまったのね」
「それは目安に過ぎない。大事な目安だ、だからこそちか迷宮『禍福のフランメル』を攻略する意味がある。なんでも、案内してきた冒険者パーティを、ほとんど全て生還させた凄腕の男がいるらしい。彼に案内を頼むことにしたよ」
「そんなにすごい人?」
「ああ、九割を超える生還率を誇るとんでもない男だよ」
どこかで聞いたような話だ。
オフィーリアはちょっと戸惑い、少し前の記憶を遡る。
そんな話、あの暗闇の中で出てなかったかしら?
「そうなのね。あなたが無事に戻ってくることを期待しているわ。ああ、そうね。私も途中から参加するんだった」
「忘れちゃだめだよ。最も君が参加する前に、俺達が攻略してしまってると思うけれど。君には、魔王軍との戦いで疲弊した各地を、他の神殿の聖女達と共に協力してある程度癒してから、地下に降りてきてほしいんだ。地下迷宮を攻略したはいいものの、地上の王国が疲弊したままでは意味がないからね」
「あなたの御心にかなうように頑張ります」
アレク、あなたと結婚することが、私が唯一救われる方法だから。
「そういえばあの男何と言っていたかな」
「え?」
「その案内人の名前だよ。どこかで聞いた名前にそっくりなんだ」
「誰かしら?」
アレクは人差し指を顎に当ててしばらく考え込む。
やがて思い出したのか、パチンと指を鳴らした。
「キースだ。そうだ、思い出した。キースだ」
「……兄の名前にそっくりだわ」
「嫌な思いをさせたよ。すまない」
「いえ、いいの。兄のことはもう忘れることにします」
「それがいいよ。彼の分を俺たちが幸せになることで、彼も、あの世で見守っていてくれるはずだ」
「はい」
がっしりとしたアレクの手が、華奢なオフィーリアの肩に、そっとまわされる。
どうやら今夜、彼とは長い時間を過ごすことになりそうだ。
オフィーリアは、窓から差し込む光によって床上に映し出された自分の影を、肩越しにそっと見る。
お許しください、我が主よ。
結婚まで、慎み深い女ではいられないようです。
聖女の謝罪に対して、影はまるで生きているかのように、形を変える。
大きく巨大な獣ように姿が変わった。
犬のようにも見えるそれは、オフィーリアを許すかのように、うなづいて消えた。
◇
「寒い……」
微睡のなかで、冷たい風が毛布から出ている首筋をまさぐって、どこかに行ってしまう。
キースはさらに二度、三度と肌に襲い掛かる寒風から逃れるようにして、目を覚ました。
目を覚ますとそこには見慣れない天井がある。
いや違った。新しい住まいの天井だった。
一月ほど前にギルドの寮を追い出されて以来、常宿としているのは月単位で貸し出されるアパートの一室。
築年数は半世紀を越えているらしい。
天井や柱にはヒビが入り、外壁に面している壁に打ち付けてある木材がはがれそうになっていて、その隙間から北風が入り込んだらしい。
自分で補修をするのは勝手だと宿屋の主人は言っていたから、さっさとそれをやるべきなのだが。
あいにくと、日雇い派遣をこなし、夕方から夜にかけて開講する、最近開いた冒険者養成塾の講義をこなし、それからすぐに酒場に直行する。
そんな生活をしていたら、補修をする暇もない。
いつのまにか季節は秋から冬へと変わり、二枚しかない毛布では耐えきれない寒さになってきた。
「二枚……?」
おや、と頭を巡らす。
手にある毛布の感触はどう数えても一枚だ。
もう一枚はどこに行った? 蹴飛ばすほど、俺は寝相が悪かったか?
そう思って隣を見たら、見慣れない金色の何かが一つ。
生暖かいそれでいて柔らかくてふわふわしている弾力性の良い二つの胸が、腕に当たっている。
いや、抱き締められている。
それは金色の塊じゃなくて、エルフだ。
金色のそれは彼女の髪。豊かにうねる波打つようなブロンド。
墨色、というよりは墨を限りなく水で薄めたような、チョコレート色の肌。
まさかと思い、そっと毛布をめくると、そこには少女がいる。
というより、彼のベッドの半分以上を占領して、毛布を強奪しているのはライシャだった。
「おいおいおいおい……!」
キースは叫び、大慌てて起き上がった。
こんな関係にもつれ込んだ覚えはない。キースはベッドの壁際へと飛び退いた。
途端、彼女の全身を覆う毛布がめくれて、一糸まとわぬ肢体が露わになる。
今度は彼女が、隙間風に晒される番だった。
その顔にはいつものように希望が満ち溢れている。
彼は二人が頑張れば、明るい日が来るはずだと言う。
オフィーリアはその前に、王国が滅んでくれないかと思ってしまった。
「理解しておくれ、オフィーリア。俺は勇者だから仕方ないんだ、今は俺と君が最高レベル。この王国で魔物と戦える最も強い戦力が、俺たちなんだとか」
「あれね。魔導科学で作った計測装置、カウンターとかいう。あの総合ギルドが開発を手掛けたっていう……。全ての力を、数値で測ることのできる装置。あれがあなたをそういう風にしてしまったのね」
「それは目安に過ぎない。大事な目安だ、だからこそちか迷宮『禍福のフランメル』を攻略する意味がある。なんでも、案内してきた冒険者パーティを、ほとんど全て生還させた凄腕の男がいるらしい。彼に案内を頼むことにしたよ」
「そんなにすごい人?」
「ああ、九割を超える生還率を誇るとんでもない男だよ」
どこかで聞いたような話だ。
オフィーリアはちょっと戸惑い、少し前の記憶を遡る。
そんな話、あの暗闇の中で出てなかったかしら?
「そうなのね。あなたが無事に戻ってくることを期待しているわ。ああ、そうね。私も途中から参加するんだった」
「忘れちゃだめだよ。最も君が参加する前に、俺達が攻略してしまってると思うけれど。君には、魔王軍との戦いで疲弊した各地を、他の神殿の聖女達と共に協力してある程度癒してから、地下に降りてきてほしいんだ。地下迷宮を攻略したはいいものの、地上の王国が疲弊したままでは意味がないからね」
「あなたの御心にかなうように頑張ります」
アレク、あなたと結婚することが、私が唯一救われる方法だから。
「そういえばあの男何と言っていたかな」
「え?」
「その案内人の名前だよ。どこかで聞いた名前にそっくりなんだ」
「誰かしら?」
アレクは人差し指を顎に当ててしばらく考え込む。
やがて思い出したのか、パチンと指を鳴らした。
「キースだ。そうだ、思い出した。キースだ」
「……兄の名前にそっくりだわ」
「嫌な思いをさせたよ。すまない」
「いえ、いいの。兄のことはもう忘れることにします」
「それがいいよ。彼の分を俺たちが幸せになることで、彼も、あの世で見守っていてくれるはずだ」
「はい」
がっしりとしたアレクの手が、華奢なオフィーリアの肩に、そっとまわされる。
どうやら今夜、彼とは長い時間を過ごすことになりそうだ。
オフィーリアは、窓から差し込む光によって床上に映し出された自分の影を、肩越しにそっと見る。
お許しください、我が主よ。
結婚まで、慎み深い女ではいられないようです。
聖女の謝罪に対して、影はまるで生きているかのように、形を変える。
大きく巨大な獣ように姿が変わった。
犬のようにも見えるそれは、オフィーリアを許すかのように、うなづいて消えた。
◇
「寒い……」
微睡のなかで、冷たい風が毛布から出ている首筋をまさぐって、どこかに行ってしまう。
キースはさらに二度、三度と肌に襲い掛かる寒風から逃れるようにして、目を覚ました。
目を覚ますとそこには見慣れない天井がある。
いや違った。新しい住まいの天井だった。
一月ほど前にギルドの寮を追い出されて以来、常宿としているのは月単位で貸し出されるアパートの一室。
築年数は半世紀を越えているらしい。
天井や柱にはヒビが入り、外壁に面している壁に打ち付けてある木材がはがれそうになっていて、その隙間から北風が入り込んだらしい。
自分で補修をするのは勝手だと宿屋の主人は言っていたから、さっさとそれをやるべきなのだが。
あいにくと、日雇い派遣をこなし、夕方から夜にかけて開講する、最近開いた冒険者養成塾の講義をこなし、それからすぐに酒場に直行する。
そんな生活をしていたら、補修をする暇もない。
いつのまにか季節は秋から冬へと変わり、二枚しかない毛布では耐えきれない寒さになってきた。
「二枚……?」
おや、と頭を巡らす。
手にある毛布の感触はどう数えても一枚だ。
もう一枚はどこに行った? 蹴飛ばすほど、俺は寝相が悪かったか?
そう思って隣を見たら、見慣れない金色の何かが一つ。
生暖かいそれでいて柔らかくてふわふわしている弾力性の良い二つの胸が、腕に当たっている。
いや、抱き締められている。
それは金色の塊じゃなくて、エルフだ。
金色のそれは彼女の髪。豊かにうねる波打つようなブロンド。
墨色、というよりは墨を限りなく水で薄めたような、チョコレート色の肌。
まさかと思い、そっと毛布をめくると、そこには少女がいる。
というより、彼のベッドの半分以上を占領して、毛布を強奪しているのはライシャだった。
「おいおいおいおい……!」
キースは叫び、大慌てて起き上がった。
こんな関係にもつれ込んだ覚えはない。キースはベッドの壁際へと飛び退いた。
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今度は彼女が、隙間風に晒される番だった。
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