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第四章 暗殺者たち
第26話 戻らぬライシャ
迷宮案内でこなしてきたさまざまな経験が、彼を鍛え上げていた。
路地裏に数人ぶんの悲鳴が大音量になって響き、それらが大理石の壁や床に吸い込まれた頃、二人はようやくその顔を上げた。
「無計画すぎるだろ、お前!」
「助かったからいいじゃないか。こういう戦い方でもしなきゃ、七人に勝てるわけないだろ? どんなに強い冒険者だって、四人に囲まれたら死ぬよ」
「……確かに、お主の戦い方は見事だった。私の!」
と、ライシャはすこしだけ焦げた金髪の先を示して見せる。
「この髪を焦がした罪は重いからな!」
「命が助かっただけマシだろうが! それよりもなんだよこいつら……」
ぼやいていると、第二波が来た。
今度の奴らは予め死を覚悟している。
影を詠む必要なんてなかった。その胸に爆薬を抱えて突進してきたのだから。
「ちょっとは命を大事にしやがれ!」
キースは叫ぶと、突入してきた三人のフードを被った男たちを、一刀のもとに切り伏せる。見事な腕前、凄まじい剣の切れ味だ。
ライシャが感嘆の声を上げるより早く、彼は転移魔法の詠唱を終え、彼女に走り寄るとその場から掻き消える。
次の瞬間、三つの爆弾が裏路地に炸裂した。
「……一体どうなってやがる。俺をここまで付け狙うなんて」
「ダークエルフ達が、本気を出したということだ」
「またあれか? バクスターとかいう、内務調査局の男に取り付けてる妖精が報告してきたのか」
「むう」
転移したビルの屋上から、燃え盛る炎を見下ろしつつ、そんなことを言うとライシャは顔を曇らせた。
「なんだよ。スパイが消えたってか」
「ある場所に入るまでは連絡が取れていたのだ」
「どこだよそれって」
「あそこだ」
ライシャの指さした方向を見る。
そこには数週間前にキースがクビになった、総合ギルドの本部ビルがそびえている。
「ギルドか。中はいろんな結界が施してあるからな。そうなっても不思議じゃない」
「あれはそんなに弱い存在ではないのだ。あのビルの中のセキュリティ結界程度なら、遊んでいても交わせるぐらいの能力がある」
「だけど消えてしまったんだろう?」
そうじゃない、と彼女は首を小さく振った。
「内務調査局の入っているフロアの、これまで一度も入ったことのない小さな部屋に足を踏み入れた途端に、消されてしまった。あれ以上の魔力を持つ何者かに」
「俺にはその魔力のレベルがどんなものかよくわからん」
これから資材屋に向かうとしたら、また襲われるんだろうか。
あたりの影を検索できるだけ検索して、先ほどの襲ってきた連中は、あれで全部だという確認が取れた。
二回の襲撃に失敗したのだ。
これからもう少し用意周到にやるだろうから、今すぐのそれは考えなくてもいいかもしれない。
「ほら行こうぜ? 部屋の修理しなきゃ、まだ寒いままだ」
「……それは嫌だな」
「寝ている間に襲われるのはもっと最悪だしな。家の周りの結界を、もっと強力なものにしないといけない」
「家? 部屋ではなくてか?」
不思議そうに、キースの脇に抱えられたままの彼女は、顔を上げて訊いた。
「ケリーと親父さんも守ってやんないと。グイレス亭が今では俺の家だ」
「なるほど。そういうことか」
「レベルの高い防御結界を封じた、高額の魔導具を購入しないと……また財布から金が抜けていく」
もっと日雇い派遣の仕事増やさないと、今月の食費がない。
そう嘆いていると、腕から降りて自分で立ったライシャは「まあ、そう案じるな。どうにかなる!」と気休め程度の慰めをしてきた。
「しかし不思議だ。あれを消滅させるほどの魔力の高い者がいるとは。おい、キース。お前は、あのギルドにいた時どの程度の強さだった?」
「はあ? 俺? いや、どうだろうな……」
総合ギルドでは、魔力や実力の高さにより、冒険者のレベルを決定する。
それは色によって分かれ、最高位が青。最底辺が白。
白、黒、浅黄、緑、赤、青。
六段階あるうちの、キースは黒だった。青はたぶん、地上世界の勇者や聖女、ということになるだろう。
「なんだ、黒か」
それを告げると、呆れたような顔をされる。
これには理由があるのだ。
「俺は棄民なんだよ! 棄民は黒から上に行けないんだ! だから分からん」
「なるほど。そこまで差別があるのか。総合ギルドのクセに」
「ギルドを悪く言うなよ」
「何を言うか。総合ギルドと言えば、世界にまたがる三大国際組織、超法規的な機関だぞ? どこの国どんな場所どんな民族においても、そのレベルは実力で評価される。それがギルドの本質だ」
「まるで、そこに所属していたかのように言うんだな?」
「当たり前だろう。私は青だからな」
「冗談も休み休み言え、馬鹿。そんな最高位の冒険者が、こんなところで棄民の俺の巻き添えになって、暗殺に狙われたりするもんか」
「そういう考え方もあるな」
よし、方針を変えよう。
そう言うと、彼女はふわりと宙に浮かび上がる。
それは浮遊魔法とかでなく、風の精霊を使役した、上位の精霊魔法だ。
「話をつけてくる、あそこの連中と。お前は私の部屋を直していろ。それが報酬だ」
「もうちょっと待ってよ。報酬とかは何を訳のわからん」
と、そこでキースの言葉は止まってしまった。
たまたま触れたライシャの影から、彼女のギルドカードの記憶がちらっと見えたからだ。そこには確かに、青い色分けがされていた。
「嘘だろ、おい……」
修復用の建材を購入して互いの部屋の壁に空いた隙間を修繕すること半日。
翌朝になっても、ライシャは戻ってこなかった。
路地裏に数人ぶんの悲鳴が大音量になって響き、それらが大理石の壁や床に吸い込まれた頃、二人はようやくその顔を上げた。
「無計画すぎるだろ、お前!」
「助かったからいいじゃないか。こういう戦い方でもしなきゃ、七人に勝てるわけないだろ? どんなに強い冒険者だって、四人に囲まれたら死ぬよ」
「……確かに、お主の戦い方は見事だった。私の!」
と、ライシャはすこしだけ焦げた金髪の先を示して見せる。
「この髪を焦がした罪は重いからな!」
「命が助かっただけマシだろうが! それよりもなんだよこいつら……」
ぼやいていると、第二波が来た。
今度の奴らは予め死を覚悟している。
影を詠む必要なんてなかった。その胸に爆薬を抱えて突進してきたのだから。
「ちょっとは命を大事にしやがれ!」
キースは叫ぶと、突入してきた三人のフードを被った男たちを、一刀のもとに切り伏せる。見事な腕前、凄まじい剣の切れ味だ。
ライシャが感嘆の声を上げるより早く、彼は転移魔法の詠唱を終え、彼女に走り寄るとその場から掻き消える。
次の瞬間、三つの爆弾が裏路地に炸裂した。
「……一体どうなってやがる。俺をここまで付け狙うなんて」
「ダークエルフ達が、本気を出したということだ」
「またあれか? バクスターとかいう、内務調査局の男に取り付けてる妖精が報告してきたのか」
「むう」
転移したビルの屋上から、燃え盛る炎を見下ろしつつ、そんなことを言うとライシャは顔を曇らせた。
「なんだよ。スパイが消えたってか」
「ある場所に入るまでは連絡が取れていたのだ」
「どこだよそれって」
「あそこだ」
ライシャの指さした方向を見る。
そこには数週間前にキースがクビになった、総合ギルドの本部ビルがそびえている。
「ギルドか。中はいろんな結界が施してあるからな。そうなっても不思議じゃない」
「あれはそんなに弱い存在ではないのだ。あのビルの中のセキュリティ結界程度なら、遊んでいても交わせるぐらいの能力がある」
「だけど消えてしまったんだろう?」
そうじゃない、と彼女は首を小さく振った。
「内務調査局の入っているフロアの、これまで一度も入ったことのない小さな部屋に足を踏み入れた途端に、消されてしまった。あれ以上の魔力を持つ何者かに」
「俺にはその魔力のレベルがどんなものかよくわからん」
これから資材屋に向かうとしたら、また襲われるんだろうか。
あたりの影を検索できるだけ検索して、先ほどの襲ってきた連中は、あれで全部だという確認が取れた。
二回の襲撃に失敗したのだ。
これからもう少し用意周到にやるだろうから、今すぐのそれは考えなくてもいいかもしれない。
「ほら行こうぜ? 部屋の修理しなきゃ、まだ寒いままだ」
「……それは嫌だな」
「寝ている間に襲われるのはもっと最悪だしな。家の周りの結界を、もっと強力なものにしないといけない」
「家? 部屋ではなくてか?」
不思議そうに、キースの脇に抱えられたままの彼女は、顔を上げて訊いた。
「ケリーと親父さんも守ってやんないと。グイレス亭が今では俺の家だ」
「なるほど。そういうことか」
「レベルの高い防御結界を封じた、高額の魔導具を購入しないと……また財布から金が抜けていく」
もっと日雇い派遣の仕事増やさないと、今月の食費がない。
そう嘆いていると、腕から降りて自分で立ったライシャは「まあ、そう案じるな。どうにかなる!」と気休め程度の慰めをしてきた。
「しかし不思議だ。あれを消滅させるほどの魔力の高い者がいるとは。おい、キース。お前は、あのギルドにいた時どの程度の強さだった?」
「はあ? 俺? いや、どうだろうな……」
総合ギルドでは、魔力や実力の高さにより、冒険者のレベルを決定する。
それは色によって分かれ、最高位が青。最底辺が白。
白、黒、浅黄、緑、赤、青。
六段階あるうちの、キースは黒だった。青はたぶん、地上世界の勇者や聖女、ということになるだろう。
「なんだ、黒か」
それを告げると、呆れたような顔をされる。
これには理由があるのだ。
「俺は棄民なんだよ! 棄民は黒から上に行けないんだ! だから分からん」
「なるほど。そこまで差別があるのか。総合ギルドのクセに」
「ギルドを悪く言うなよ」
「何を言うか。総合ギルドと言えば、世界にまたがる三大国際組織、超法規的な機関だぞ? どこの国どんな場所どんな民族においても、そのレベルは実力で評価される。それがギルドの本質だ」
「まるで、そこに所属していたかのように言うんだな?」
「当たり前だろう。私は青だからな」
「冗談も休み休み言え、馬鹿。そんな最高位の冒険者が、こんなところで棄民の俺の巻き添えになって、暗殺に狙われたりするもんか」
「そういう考え方もあるな」
よし、方針を変えよう。
そう言うと、彼女はふわりと宙に浮かび上がる。
それは浮遊魔法とかでなく、風の精霊を使役した、上位の精霊魔法だ。
「話をつけてくる、あそこの連中と。お前は私の部屋を直していろ。それが報酬だ」
「もうちょっと待ってよ。報酬とかは何を訳のわからん」
と、そこでキースの言葉は止まってしまった。
たまたま触れたライシャの影から、彼女のギルドカードの記憶がちらっと見えたからだ。そこには確かに、青い色分けがされていた。
「嘘だろ、おい……」
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