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第五章 生き別れた二人
第34話 聖女の覚悟
手足はそれぞれ片方ずつの手足が縛られているのだろうと感触で判断する。
情けないことに、背を床に向けて大の字になれば、胸やお腹や、下着で隠している部分だって露わになってしまうような。そんな縛り方だ。
……どれだけ悪趣味なのよ!
そうぼやくが声は相変わらず声にならずどこかの空間へと消えていくばかりだ。
人の気配がしないのは幸いというべきか、それとも最悪と考えるべきか。
たった一つ理解できたのは、自分はあの戦いで負けて捕虜になったということだ。
信じた青牙団の仲間に不意打ちをくらい――このままだと奴隷商人に売られるだけの末路しかない。
逃げなきゃ……そう思い、四つん這いになろうとしたが。
ガンっ、と頭を何かで打ってしまい悲鳴が漏れ出る。
しばらくうめいてからゆっくりと手足を伸ばして確認するとそこは寝返りも打てないような、狭い空間で四角い箱のような中だということが分かった。
ただ片面だけ……数本か十数本の鉄の柱で構成された。
そんな奴隷用の箱だということだけは、クラリスにも理解できた。
* * * *
そこで、はっと他人の記憶から現実に引き戻される。
この後、キースの闇属性が発覚し、彼はオフィーリアの前から姿を消した。
オフィーリアの頬を、黒狼がざらりとした舌先で舐める。
「セッカ様」
「そろそろ神殿に着く」
カーテンを開き窓の外を確認すると、馬車はあと少しで正門に差し掛かるとこだった。
夢遊病者のようにぼーっとした顔をしたまま乗り込んでいたら、馬車の扉を開けた神殿騎士はさぞや驚くに違いない。
「助かりました」
「気にしなくていい。俺も一つ質問がある」
「何でしょうか?」
彼が質問してくるなんて珍しい。
そのことにこちらも興味を持った。
先ほどの記憶の内容だ、と黒狼は言う。
公然と行われる子供たちの誘拐と、奴隷売買。
戦争の真っ只中で、王都の治安が今に比べてまだ悪かった時代のことだ。
「あのクラリスという娘。今はどうなった?」
「……冒険者になったようです。名前を変えてロンディーネと言ったかと」
「では、あの商人の息子アレクというのは、まさか」
オフィーリアは困ったように微笑んで見せる。
彼にとって、守るべき対象かそうでないか。
その判別はあまりにも簡単で。法律に守られているもの、自分に都合悪く敵対するもの、自らを守れない弱い者たち。
そんな人々が全て彼にとって利用できる何か、だ。
「そうかもしれません」
はっきりとは答えなかった。
商売のために自分と同年代の敵対する子供たちを部下の大人たちにさらわせて、奴隷の身分に落としていたのは彼だから。
そんな罪深さを知っても、オフィーリアは彼のこと拒絶できないでいた。
罪深い彼と、罪深い自分。彼が自ら非道を歩くなら、神がそれを許すなら。
愛してしまった者の弱みだ。いずれ、妻になる女として、彼とともにその道を歩こうと、オフィーリアは考えていた。
いつか誰かに、背中から刺し殺されるようなことになったとしても。
◇
ロンギヌス王国において、地下迷宮は一時的な休戦協定により、軍需産業で儲からなくなった者たちを受け入れる、新たな仕事の場として期待されている。
その階層は五十四まであるとされており、初代国王は最下層までたった一人でダンジョンを踏破したとされる、英雄だ。
彼はその名をロンギヌスといい、ダンジョンを踏破した者のみに与えられる権利を行使して、地上に王国を作り、光の神の神殿を建立した。
地下迷宮からでる多種多様な財宝や豊富な鉱物資源、場所によっては農作に適した土地がある階層もあり、それらを自由に使い王国に永久の富を約束したといわれている。
王国につけられたその名は、彼の偉業を称える名残だ。
しかし、『禍福のフランメル』と称するこの地下迷宮の最下層にいたる地図はどこにも存在しない。
また、人がたどり着いたとされる階層は現在のところ、三十二階層までで、それ以下には誰も降りることができないとされていた。
その理由は簡単だ。
棲息するさまざまな種族。魔獣もそうだし、妖精族や精霊、獣人もいれば魔族もいる。
彼らとの軋轢、戦争、そして上位魔獣たちを撃破できるだけの才覚を、古代の冒険者たちならばともかく現代の冒険者たちは持ち合わせていない。
魔法が衰退し、魔導科学が隆盛した現代では、純粋な魔法を扱える上位魔獣に対して、魔石や神聖魔法を簡易的に封印し、爆発や治療、防御や遮断などに特化した加工を施した魔導具の魔法では、通用しないからだ。
その理由は、魔力の濃さ。濃度の壁があるからだと言われている。
加工した魔法では、威力は高くとも濃度はどうしても薄くなってしまうのだ。
そんな中で、神たちの能力をダイレクトに借り受けて扱える聖なる者たち。
勇者や聖女、聖騎士や剣聖たちが参加した、国の掲げるダンジョン攻略政策の実施は国民たちからも高い支持を得て始められた。
しかし、初代国王を除いて記録に残らない形でダンジョンの最奥部にもっとも肉薄したのは、彼らではなく。
ただの棄民。四十二階まで踏破した若い迷宮探索人、キースとその仲間たちだった。
情けないことに、背を床に向けて大の字になれば、胸やお腹や、下着で隠している部分だって露わになってしまうような。そんな縛り方だ。
……どれだけ悪趣味なのよ!
そうぼやくが声は相変わらず声にならずどこかの空間へと消えていくばかりだ。
人の気配がしないのは幸いというべきか、それとも最悪と考えるべきか。
たった一つ理解できたのは、自分はあの戦いで負けて捕虜になったということだ。
信じた青牙団の仲間に不意打ちをくらい――このままだと奴隷商人に売られるだけの末路しかない。
逃げなきゃ……そう思い、四つん這いになろうとしたが。
ガンっ、と頭を何かで打ってしまい悲鳴が漏れ出る。
しばらくうめいてからゆっくりと手足を伸ばして確認するとそこは寝返りも打てないような、狭い空間で四角い箱のような中だということが分かった。
ただ片面だけ……数本か十数本の鉄の柱で構成された。
そんな奴隷用の箱だということだけは、クラリスにも理解できた。
* * * *
そこで、はっと他人の記憶から現実に引き戻される。
この後、キースの闇属性が発覚し、彼はオフィーリアの前から姿を消した。
オフィーリアの頬を、黒狼がざらりとした舌先で舐める。
「セッカ様」
「そろそろ神殿に着く」
カーテンを開き窓の外を確認すると、馬車はあと少しで正門に差し掛かるとこだった。
夢遊病者のようにぼーっとした顔をしたまま乗り込んでいたら、馬車の扉を開けた神殿騎士はさぞや驚くに違いない。
「助かりました」
「気にしなくていい。俺も一つ質問がある」
「何でしょうか?」
彼が質問してくるなんて珍しい。
そのことにこちらも興味を持った。
先ほどの記憶の内容だ、と黒狼は言う。
公然と行われる子供たちの誘拐と、奴隷売買。
戦争の真っ只中で、王都の治安が今に比べてまだ悪かった時代のことだ。
「あのクラリスという娘。今はどうなった?」
「……冒険者になったようです。名前を変えてロンディーネと言ったかと」
「では、あの商人の息子アレクというのは、まさか」
オフィーリアは困ったように微笑んで見せる。
彼にとって、守るべき対象かそうでないか。
その判別はあまりにも簡単で。法律に守られているもの、自分に都合悪く敵対するもの、自らを守れない弱い者たち。
そんな人々が全て彼にとって利用できる何か、だ。
「そうかもしれません」
はっきりとは答えなかった。
商売のために自分と同年代の敵対する子供たちを部下の大人たちにさらわせて、奴隷の身分に落としていたのは彼だから。
そんな罪深さを知っても、オフィーリアは彼のこと拒絶できないでいた。
罪深い彼と、罪深い自分。彼が自ら非道を歩くなら、神がそれを許すなら。
愛してしまった者の弱みだ。いずれ、妻になる女として、彼とともにその道を歩こうと、オフィーリアは考えていた。
いつか誰かに、背中から刺し殺されるようなことになったとしても。
◇
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その階層は五十四まであるとされており、初代国王は最下層までたった一人でダンジョンを踏破したとされる、英雄だ。
彼はその名をロンギヌスといい、ダンジョンを踏破した者のみに与えられる権利を行使して、地上に王国を作り、光の神の神殿を建立した。
地下迷宮からでる多種多様な財宝や豊富な鉱物資源、場所によっては農作に適した土地がある階層もあり、それらを自由に使い王国に永久の富を約束したといわれている。
王国につけられたその名は、彼の偉業を称える名残だ。
しかし、『禍福のフランメル』と称するこの地下迷宮の最下層にいたる地図はどこにも存在しない。
また、人がたどり着いたとされる階層は現在のところ、三十二階層までで、それ以下には誰も降りることができないとされていた。
その理由は簡単だ。
棲息するさまざまな種族。魔獣もそうだし、妖精族や精霊、獣人もいれば魔族もいる。
彼らとの軋轢、戦争、そして上位魔獣たちを撃破できるだけの才覚を、古代の冒険者たちならばともかく現代の冒険者たちは持ち合わせていない。
魔法が衰退し、魔導科学が隆盛した現代では、純粋な魔法を扱える上位魔獣に対して、魔石や神聖魔法を簡易的に封印し、爆発や治療、防御や遮断などに特化した加工を施した魔導具の魔法では、通用しないからだ。
その理由は、魔力の濃さ。濃度の壁があるからだと言われている。
加工した魔法では、威力は高くとも濃度はどうしても薄くなってしまうのだ。
そんな中で、神たちの能力をダイレクトに借り受けて扱える聖なる者たち。
勇者や聖女、聖騎士や剣聖たちが参加した、国の掲げるダンジョン攻略政策の実施は国民たちからも高い支持を得て始められた。
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