39 / 52
第六章 仲間の裏切り
第38話 勇者の婚約者
やばい。これはやばい。まさか見抜かれたかと、心が早鐘のように警告を鳴らす。
「空間魔法が使えるらしいじゃないか」
「は? あ、ああ……。半径五メートル以内の空間に侵入してきたものや、存在している何かを感知することはできますが」
「ほう。それでそれで、ああそうか。このスキルは、感知してもそれが何かまではわからないのか」
「生きてるとか死んでるとか。動いてるとか、ただそこにあるだけとか。人間が魔獣かくらいの判別はできますけど、そんなレベルはどこまでは分からないんですよ」
一般的によく使われているスキルです。
なんとか言い繕う。
嘘がないように、ごまかしがばれないように。端的な事実だけを述べてやる。
「あー。確かにそうみたいだね。もっともっと頑張ったら、レベルが高くなる。頑張ってくれ」
「あ、ありがとうございます。勇者様」
アレクが眼鏡を通して読み取れた物もその程度の情報らしい。
影使いは、ほっと胸をなでおろした。
目的の場所まで着いたら、彼らがアルトボロスを撃破するのを、静観していよう。
もし、言葉通りに彼らが活躍できなかったら、その時は見捨ててさっさと逃げよう。
キースは心にそう固く誓った。
ようやく問題の転送装置に到着する。
三十階層のそれは、大きな人工の門で閉ざされていた。
何かの間違いで、人が地下に転送されないようにするためだ。
そこを守護していた王国の騎士が、恭しく勇者たちに一礼する。
「それでは、この門を開きます。どうかご無事にお戻りください」
祝福の言葉を口にして、キースたちは転送装置の門をくぐった。
四十二階層まで、十五分ほどかかる。
ここまでの単調な旅に飽きたのか、おしゃべりな弓使いが話し合いて欲しさに語りかけてきた。
「なーなー、面接の時に聞いたんだが、生還したらいくつかやりたいことがあるって?」
「はい。冒険者養成学校を地上で開きたいと思います」
「地上に戻れるのか?」
勇者の不思議そうな声を出した。キースが棄民だからだ。棄民は生涯、骨になってからも地上に戻ることは許されないはずだった。
「特別に許可を頂きまして。生還できたらの話ですが」
「なるほど。生還できるまで仕事してくれたら、俺たちに対する君の奉仕はとても大きいものになる。それは妥当な報酬だな」
「ありがとうございます」
「しかしどうして冒険者養成学校なんだ?」
弓使いは、転送装置の壁に背中を預けてそう質問する。
女魔道士も不思議そうな顔をしていた。
最奥で、長槍を構え退屈そうにしている槍使いも、興味を覚えたのかこちらに視線を向けてくる。
「地下世界では、冒険者になるのはとても難しいです。冒険者と言っても、正規雇用される冒険者。いわば公務員ですね。それになるためには莫大なお金が必要です。試験も一発で合格しないと二度目がない」
「なるほどなるほど。じゃあ養成学校作っても儲けたいってことか?」
「ああいえ、そうではなくて。もう一種類あるんです。日雇い。現場も仕事内容も毎日変わります。賃金も安くて、公務員みたいに安定してません。でもこっちは誰でもなれる」
「よくわからないな? 何のための養成学校なんだ?」
「日雇い冒険者になって、生還率の高い冒険をして欲しいと俺は願ってます」
「だけど生還率を求めたら、レベルの達成率は落ちるわよね?」
ロンディーネは矛盾している、と首をかしげた。
「レベルを上げる達成率はおっしゃる通り落ちします。通常の冒険者よりも達成速度は遅くなると思います。ですが」
「生きているだけ、何度でも冒険に挑戦できる。挑戦する回数が増えれば、比例して発生率も上がっていく。最終的にはその方が、早くて精度の高い冒険の達成ができる……そういう話かな?」
アレクはしばし考えて、そんなこと言った。
さすが勇者だ。
キースはアレクの慧眼に心の中で拍手した。
「さすがです。その通りです。生きていれば何度でも冒険に立ち向かえる。そのためには、最速のレベルアップよりも、最高の生還率を誇る方が結果的には早いんです」
仲間も増やすことができる。経験値だって他の冒険者よりもたくさん積むことができる。すべてがうまくいく。
生還率が高ければ。
「じゃあ生還率を高めるための冒険者養成学校をやりたいっていう話?」
「その通りです、女魔導師様」
「なるほどね。生還率か……紹介してくれた迷宮探索家の課長の話では、お前さんの生還率は九割を超えてるって言う話だった」
「実際に結果を出している人が言うと重みがあるわね」
「とんでもありません。俺はただ、戦いが苦手なだけです」
「臆病な奴ほど最後まで生き残ることができる、それは間違いないよ」
勇者が確認するようにそう言った。
「そんなこと言ったら案内人さんが臆病者みたいに聞こえますよ、勇者様」
「これはすまない。そんなつもりはなかった」
「いいえ気にしておりません。本当のことですから」
ふと脳裏にある少女の影が浮かんでは消えていく。
最初の会話の方に出てきた、聖女の名前が原因だった。
十五年前に生き別れた妹。
あの当時はまだ二歳か、三歳だったはず。
勇者の婚約者は生き別れの妹と同じ名前だった。
あなたにおすすめの小説
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!
克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。
アルファポリスオンリー
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。