冒険者を生還させるな!と命じられた超一流の迷宮ガイド、魔獣生物学者の助手に転職する~高年収な上に美少女ダークエルフと旅ができて最高です~

和泉鷹央

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第六章 仲間の裏切り

第40話 仲間の墓標


 一人残されたキースが、質問する。

「なあ、俺はどれくらいなんだ?」
「はあ? あんたの場合……って、言うかあんた誰?」
「勇者パーティの迷宮案内役だけど」

 自分の役職をつけると、騎士は見るからに嫌そうな顔した。
 棄民かよ。そんな屈辱の言葉を投げつけてくる。

「自分でやれよ。このボタン押して、光を自分に向けて照射したら、後は勝手に機械が計測してくれる。この画面に数値が出るから、それを勝手に見てどうかに行っちまえ」
「あ、そう。それはどうも」

 数人いた騎士達は勇者の機嫌を取りに向かう。
 監視台に残されたのは、キースと同じく棄民の出身だろう。

 衛兵が一人だけだった。

「悪いんだけど、このボタン押してもらえないか?」
「まあいいだろう。勝手にしろって言ってたしな」

 仲間意識が働いたのか、衛兵は快くボタンを押してくれた。
 しかし監視業務があるということで、すぐに外へと視線を戻してしまう。

 計測が終わり自分で数値を見たキースは、その内容に息をのむと、さっさと計測装置のスイッチを切ってしまった。

 もう一度スイッチを入れる。

「これって、一度使ったら記録とか残るのか?」
「いや。普通は残らない」
「さっきのは普通か?」
「そうだが。どうかしたのか?」

 声だけの返事が戻ってくる。いや何でもない、そう言い残して、キースは監視塔の入り口まで降りて行った。

 早くあの部屋を立ち去りたかった。
 まさか自分のレベルが……だったなんて。

 勇者の機嫌がまだまだ戻らないらしい。入り口まで降りていくと、弓使いと女魔導師が暇そうにしていた。

 遮蔽結界の範囲は広く、高さ四メートルほどある監視台をすっぽり覆ってもまだ余力がある。

 半径三百メートルほどを覆っていると言っていた。
 その辺りに出るくらいだったら、魔獣と出くわす可能性は低そうだ。

「どうした?」
「今ちょっと外に行こうと思って」
「アレクが怒ってる。機嫌が直るのはだいぶ先になると思うぞ」

 弓使いが気遣ってそう言ってくれた。
 女魔導師が困ったように微笑んでいる。

「いやそうじゃなくて、ちょっと」
「ちょっと?」

 入り口の外を見ながら、キースは口ごもった。
 あの数メートル先にある大木の向こうで、彼らは腐蝕の巨大魔獣アルトボロスと遭遇したのだ。

 メンバーの誰もが気配の経ち、辺りを警戒して、魔獣との遭遇に備えているはずだった。

【影承】で詠んだ情報にも、アルトボロスが近い期間で、このあたりをうろついたという情報はなかった。

 だからこそ油断が生まれてしまったのだ。
 魔獣そのものが、自分の肉体に転送魔法をかけて、いきなり出現するとは誰も予測しない。

 いきなりの遭遇。
 仲間の一人は片足を失い、仲間の一人は片腕を失い、仲間の一人置き去りにして、キースもまた腐蝕の霧で肺を焼かれた。

 転送装置までたどり着き気づいたことは、この装置は誰かが起動しないと動かないということ。

 つまり誰かがここに残らなければいけないということだ。
 彼女が残ってくれた。

「仲間が死んだ場所があそこにある」
「ああ……そういうこと」
「それは辛い過去だな」
「遮蔽結界の範囲内にあるみたいなんだ。後から救助隊が訪れたけど、遺体は見つからなかった。祈りを捧げたい」
「そういう事なら俺たちも付き合うよ、今は仲間だからな」
「そうよ。私も祈りを捧げるわ」

 二人は本当の自分の仲間が死んでしまったかのように悲しみ、そう言ってくれた。
 まさかその言葉がこれから捧げられる死者への祈りが、自分に向けられたものになるなんて。

 この時のキースには、まさしく予測だにしなかった。

 ブナの木によく似た樹齢数百年は経過しているだろう大木を横切ると、その向こうに誰が作ったのか太い棒を突き立てただけの小さな墓標が立っていた。

 その棒の一部が平面に削り取られて、死者の名前がそこに刻まれている。

『ライナ・スィード・イオリ』

 そう読めた。
 記憶の彼女が、まだそこに立っているように鮮明に思い浮かんだ。

 背格好は百六十とあまり高くない。
 見た目だけならば、黒めに黒い瞳の美少女。

 猫のような二重で目もとが薄いせいか、たまにいつも怒っているような存在だった。

 薄い唇に透けるような白い肌、高い鼻梁もまた人を寄せ付けない。そして頬骨あたりから、顎にかけて二本の線が縦筋を引いている。

 両方に二つずつ。合計、四本のそれは、見ようによってはタトゥーのように見えないこともない。
 そんな過去の思い出の彼女は、そこに無表情で佇んでいた。

「棄民か?」
「棄民なら、こんな墓標すら立ててもらえませんよ」
「ああ、確かに」

 フォンが墓標を見て声をかけてきた。
 はっと意識を戻して否定する。

「どんな人だったの? 女の人」
「そうですね。まだ若い人でした。俺が十六歳だった。似たようなもんですよ」
「人生まだまだこれからって時に仲間を救って死んだのか。英雄だな」
「本当にそう思います。あの子がいなかったら俺たちは生きていなかった」
「おまえさんの生還率もそこで終わりだったってことか」
「間違いないですね」

 軽口を叩き合う。
 それから黙祷して、彼女の冥福を祈った。

 棄民ではない。でも、王国の民でもない。
 この墓標は、あの場で助かった仲間の誰かがお金を出して建てたのだろう。

 あの頃の仲間とは長い間連絡を取っていない。
 片足を失った、彼以外は。

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