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第七章 救いのダークエルフ
第43話 魂の慟哭
テラスから身を乗り出す形で、弓使いがこちらを見ている。
隣には女魔導師もいた。
なんでそんなに薄ら笑いを浮かべて、この無様な姿を見て喜んでるんだ!
助けてくれよ。
もう無理だ、本当に無理だ。これ以上は保てない……本当に、死を迎えるしかない。
下に落ちたら、間違いなくあの暗闇の底へと吸い込まれていってしまう。
くそったれ、それはまずい。とんでもなく最悪にまずい。
地上には、王都には俺の妹がいるはずなんだ。
とにかくここで死ぬわけにはいかないんだ……と、叫んでみた。
あらん限りの声を振り絞って、恨みつらみの丈をぶちまける。
「フォーン! ……必ず復讐してやる―――――っ!」
その程度のことを言う余裕しかなかった。
弓使いたちはテラスからまさしく高みの見物。
いまはこの迷宮がキースの墓場になりつつある。
落ちる感覚は、上に登る感覚の数百倍、自由覚えた。
最初の攻撃を受けた時、自分の用意してきた魔導具をいくつか使った。
大した性能ではない。
せいぜい、持ち主が受けた攻撃のダメージを半減したり、それを引き受けて、代わりに壊れたりする程度の依代のようなものだ。
今それが、意外にも役に立っている。
用意したのは五個。
ダメージ受けた場所ごとに、丸い魔石がついた依代がキースの代わりとなって、パリンパリンと割れていく。
胸の傷が回復した。
右足がゆっくりと生えていく。右手がのんびりと再生されている。
最後のひとつのおかげで、保護を失いかけていた血液が肉体を駆け巡り、うっすらと光の中に包まれつつあった意識が現実へと引き戻される。
「うおおおおおーっ!」
欠損した部位があっという間に再生され、同時にとてつもない途方もない威力の痛みが、脳を焼いた。
魂の慟哭、というのは多分こういうことをいうのだろう。
最後なんて音になってない。
空気をびりびりと振動させたその声に、引き上げようとしていた弓使いたちがテラスの走ると駆け寄ってくる。
だが残念なことに、彼らの魔法が届く距離に、迷宮案内人はいなかった。
「あいつまだ生きてるかも!」
「だったらお前の魔法で、広範囲に灼熱の溶岩の雨を降らせたらいいだろう? さっきやったみたいに!」
「ではこんなに広い空間に打ち出しても……」
「なんだよ効果がないっていうのか?」
「冷たい空気にさらされて、数分で効果をなくしちゃうよ」
「なんだ? 役に立たない奴だな! それでもいい、あいつが死ぬ可能性が高。ならさっさとやれよ!」
ひどい暴言が上から降ってくる。
仲間だったんじゃないのかお前たち。
そんな嫌味を言える余裕すら生まれた。
全身の痛みが意識をはっきりとさせて、ただただ痛い。
体力を消耗するが、奈落の底へ落下するわけにも行かない。
仕方なく浮遊魔法の魔力を制限しながら、どこか不時着できる場所を探して、降下するしかない。
こんなところを、腹をすかせた飛行型魔獣にでも襲われたりしたら、それこそ一巻の終わりだ。
「うるさいっわね! なら、特大のお見舞いしてやるわよ! これくらいの穴だって、覆えるほどのやつをね!」
浴びせられる毒の声、叩きつけられる絶縁状、そして仲間の裏切り。
女魔導師ロンディーネは、言葉通り、彼女が使える最大級の火炎魔法を竪穴に向けて落とし込んだ。
それはさも、薄暗い地下迷宮のなかに堕ちた、小型の太陽のような眩しさだった。ゆっくりと落ちてきて、じんわりと全身を焼き尽くしていく。
溶けていく、解けていく、体も、魂も、心の隅々に至るまで、分解されて消えてしまう。
もう一度戻らなければ。
どうにかしてここまで生き延びてきたけれど、もう無理かもしれない。俺を許してくれオフィーリア。
おまえがまともな生活をできるようにしてやりたかった。
万能の盾でもあればな……こんな酷い仕打ちを受けることだってなかったろうに。どうして俺のスキルはあいつらに効力を発揮しなかったのか。
生還できたら彼らと肩を並べて、国の英雄として迎えられたかもしれないのに。
パーティメンバーどころか、冒険者ですらもなく、ただの棄民として死んでいくだけの運命に生きるしかないなんて……。だけどもう、これ以上苦しまなくていい。
「今度はあいつのところに行くのか……」
そう呟いたときだった。
「諦めるのは、まだ早いぞ、お主?」
五感が瞬時に回復した。痛みがあっという間に溶けて無くなった。
失ったはずの部位が、視界が、臭いが、触感が、音が復活する。
その優しくてあたたかい言葉は、闇に沈もうとしていたキースの魂を救いあげ、魂は彼に命じた。
生きろ、と。
「オォオオオオオオ――――――っ!」
生きたい! 魂の慟哭が喉の奥から、湧き上がる。
それは自分でも耳を防ぎたくなるほどの、大音量だ。
そして、消えた。
見てしまった。
小型の太陽が、突然現れた巨大な人物のたった一蹴りによって、視界から掻き消えてしまった。
同時に、弓使いたちがいたはずの辺りにどおんっ、と大きな衝撃音とともに、吹き飛ばされたバルコニーの残骸が遠くなっていく。
ゆらゆらと、世界の漂いながら、助けてくれたのは――。
「お前、どうしてここに」
「久しぶりだな。数日ぶりか。大丈夫か、キース? 無事に生還して私に迷宮を案内してくれる約束はどこに消えた」
数日前に出会った、謎のダークエルフがそこにいた。
隣には女魔導師もいた。
なんでそんなに薄ら笑いを浮かべて、この無様な姿を見て喜んでるんだ!
助けてくれよ。
もう無理だ、本当に無理だ。これ以上は保てない……本当に、死を迎えるしかない。
下に落ちたら、間違いなくあの暗闇の底へと吸い込まれていってしまう。
くそったれ、それはまずい。とんでもなく最悪にまずい。
地上には、王都には俺の妹がいるはずなんだ。
とにかくここで死ぬわけにはいかないんだ……と、叫んでみた。
あらん限りの声を振り絞って、恨みつらみの丈をぶちまける。
「フォーン! ……必ず復讐してやる―――――っ!」
その程度のことを言う余裕しかなかった。
弓使いたちはテラスからまさしく高みの見物。
いまはこの迷宮がキースの墓場になりつつある。
落ちる感覚は、上に登る感覚の数百倍、自由覚えた。
最初の攻撃を受けた時、自分の用意してきた魔導具をいくつか使った。
大した性能ではない。
せいぜい、持ち主が受けた攻撃のダメージを半減したり、それを引き受けて、代わりに壊れたりする程度の依代のようなものだ。
今それが、意外にも役に立っている。
用意したのは五個。
ダメージ受けた場所ごとに、丸い魔石がついた依代がキースの代わりとなって、パリンパリンと割れていく。
胸の傷が回復した。
右足がゆっくりと生えていく。右手がのんびりと再生されている。
最後のひとつのおかげで、保護を失いかけていた血液が肉体を駆け巡り、うっすらと光の中に包まれつつあった意識が現実へと引き戻される。
「うおおおおおーっ!」
欠損した部位があっという間に再生され、同時にとてつもない途方もない威力の痛みが、脳を焼いた。
魂の慟哭、というのは多分こういうことをいうのだろう。
最後なんて音になってない。
空気をびりびりと振動させたその声に、引き上げようとしていた弓使いたちがテラスの走ると駆け寄ってくる。
だが残念なことに、彼らの魔法が届く距離に、迷宮案内人はいなかった。
「あいつまだ生きてるかも!」
「だったらお前の魔法で、広範囲に灼熱の溶岩の雨を降らせたらいいだろう? さっきやったみたいに!」
「ではこんなに広い空間に打ち出しても……」
「なんだよ効果がないっていうのか?」
「冷たい空気にさらされて、数分で効果をなくしちゃうよ」
「なんだ? 役に立たない奴だな! それでもいい、あいつが死ぬ可能性が高。ならさっさとやれよ!」
ひどい暴言が上から降ってくる。
仲間だったんじゃないのかお前たち。
そんな嫌味を言える余裕すら生まれた。
全身の痛みが意識をはっきりとさせて、ただただ痛い。
体力を消耗するが、奈落の底へ落下するわけにも行かない。
仕方なく浮遊魔法の魔力を制限しながら、どこか不時着できる場所を探して、降下するしかない。
こんなところを、腹をすかせた飛行型魔獣にでも襲われたりしたら、それこそ一巻の終わりだ。
「うるさいっわね! なら、特大のお見舞いしてやるわよ! これくらいの穴だって、覆えるほどのやつをね!」
浴びせられる毒の声、叩きつけられる絶縁状、そして仲間の裏切り。
女魔導師ロンディーネは、言葉通り、彼女が使える最大級の火炎魔法を竪穴に向けて落とし込んだ。
それはさも、薄暗い地下迷宮のなかに堕ちた、小型の太陽のような眩しさだった。ゆっくりと落ちてきて、じんわりと全身を焼き尽くしていく。
溶けていく、解けていく、体も、魂も、心の隅々に至るまで、分解されて消えてしまう。
もう一度戻らなければ。
どうにかしてここまで生き延びてきたけれど、もう無理かもしれない。俺を許してくれオフィーリア。
おまえがまともな生活をできるようにしてやりたかった。
万能の盾でもあればな……こんな酷い仕打ちを受けることだってなかったろうに。どうして俺のスキルはあいつらに効力を発揮しなかったのか。
生還できたら彼らと肩を並べて、国の英雄として迎えられたかもしれないのに。
パーティメンバーどころか、冒険者ですらもなく、ただの棄民として死んでいくだけの運命に生きるしかないなんて……。だけどもう、これ以上苦しまなくていい。
「今度はあいつのところに行くのか……」
そう呟いたときだった。
「諦めるのは、まだ早いぞ、お主?」
五感が瞬時に回復した。痛みがあっという間に溶けて無くなった。
失ったはずの部位が、視界が、臭いが、触感が、音が復活する。
その優しくてあたたかい言葉は、闇に沈もうとしていたキースの魂を救いあげ、魂は彼に命じた。
生きろ、と。
「オォオオオオオオ――――――っ!」
生きたい! 魂の慟哭が喉の奥から、湧き上がる。
それは自分でも耳を防ぎたくなるほどの、大音量だ。
そして、消えた。
見てしまった。
小型の太陽が、突然現れた巨大な人物のたった一蹴りによって、視界から掻き消えてしまった。
同時に、弓使いたちがいたはずの辺りにどおんっ、と大きな衝撃音とともに、吹き飛ばされたバルコニーの残骸が遠くなっていく。
ゆらゆらと、世界の漂いながら、助けてくれたのは――。
「お前、どうしてここに」
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