冒険者を生還させるな!と命じられた超一流の迷宮ガイド、魔獣生物学者の助手に転職する~高年収な上に美少女ダークエルフと旅ができて最高です~

和泉鷹央

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第七章 救いのダークエルフ

第46話 酷薄な勇者


「なんだ? 陰からこそこそと姿を隠さず、遠隔射撃しかできないような男が、この私に勝てるとでも? 面白い話だ」
「あんだと、この小娘! ガキの癖に偉そうな口叩くんじゃねえ!」
「誰がガキだ!」

 私はこう見えて六十歳だ! そう叫ぼうとして、ライシャは怒鳴るのを止めた。
 それよりも、剣を抜い生意気の弓使いの舌を切り取ってやろうと思いついたからだ。

 六十年。人からしてみればそれは長い時間だが、彼女たち数千年を生きるエルフにとっては、わずかな時間でしかない。
 ライシャはそんなエルフの一つ。ダークエルフの娘で剣と精霊魔法に長けた精霊剣士。

 黙っていればとてつもない金髪黒眼の美少女なのに、短期なのがたまに傷だ。
 そんな彼女は、言葉はきつくても仲間思いの優しい女戦士だった。

「お前と話しても時間の無駄だ、弓使い。勇者とアレクの話し合いの邪魔をするなら、お前とそこにいる魔導師がしたように、私がお前たちを死ぬほどひどい目に遭わせてやろうか? 迷宮のそこからようやく地上まで上がってきたというのに、兄と妹の感動の再会を邪魔するなど、思い上がりにも程がある」
「襲った? どういうことだ、フォン。ロンディーネ」

 初めて聞く話だと、勇者は眉根を寄せて仲間を見た。
 弓使いのフォン。黒髪を短くしてまとめた女魔導師のロンディーネ。金髪の槍使いバイゼル。そして、アレクとここにはいない勇者の婚約者、聖女オフィーリア。

 この五人が、正式な勇者アレクのパーティメンバーだった。
 本日は日曜日ということもあって、空き地の裏手にある神殿では、毎週恒例の礼拝が開かれていた。

 オフィーリアはその主役だ。聖女である彼女の女神を賛美する聖歌が、ちょうど始まったところだった。

 キースはその歌声に懐かしいものを感じてしまい、つい涙ぐみそうになる。
 勇者の視線を受けてフォンとロンディーネは恥じるように顔を背けた。



「違うんだアレク。オフィーリアとこいつが肉親だって認めたらお前の評価に傷がつく! これはお前のためだ」
「そうよ! そんな棄民があの子の! 聖女の兄だなんて知れたら、オフィーリアが責任を取らされる。あの子が悲しむことになると思って……それで」

 悔いるようにロンディーネは言い訳を吐きだした。
 黒い髪が凍り付きそうなほど冷たい風に、後悔の念を彩る。

 フォンはまるで悪びれた素振りもなく、当たり前のことをしたのだと、胸を張って告白した。

「それで? 俺のため? お前たちの独断と偏見じゃないのか。少なくとも俺にはそう思える」
「アレク、そんな。私たちはあなたのためにやったのよ?」

 なぜ理解してくれないの、と女魔導師が叫んだ。

「俺はそんなこと頼んでいない」
「そんなことが神殿に知れたら、お前たちの結婚も怪しくなるんだぞ?」
「それは俺と彼女が決めることだ。違うか?」
「うっ……」

 勇者は眼光鋭く二人をにらみつける。
 それは獰猛な魔獣すらも思わず引くほどに、凄まじいものだった。

 途端、キースを殺そうとしたときあれほど威勢の良かった二人は、蛇に睨まれた蛙のように竦んでしまう。

 その光景は傍から見れば胸の空くものだが、何故かライシャとキースの二人には異様な物のように感じ取れた。

 二人はその理由をすぐに知ることになる。

「不思議な話だ。俺のためになかなかやってくれたことが、今では犯罪かそうでないかを俺が裁かないといけなくなってしまった。俺は勇者だからな。その権限と正義を執り行う責務がある」

 王国において、勇者と聖女は神の代理人。その権力と地位は王族にも勝る。
 でも、彼らに誰かを裁ける権限は与えられていないはずだったからだ。

 ここは法治国家。すべては法典が正式な裁判の元に罪を決める。そういう国なのに。勇者の言葉はあまりにも独善的で、無法を許す内容だった。

「なるほど。それは面白い」
「おや、理解が早いな、さすがダークエルフ」

 瞬きするほどの時間を考えて、ライシャはその矛盾にたどり着く。
 地上の人々に法律は適用される。

 しかし、地下世界の住人であるライシャと、棄民であるキースにはその権限は及ばない。そして、地下から地上へと出てくることは禁じられている。

「どういうことだ、ライシャ」
「キース、頭を使え。生きているうちにしか使えんぞ。違法にこの場に立っている私たちをどうしようと、法律は何も守ってくれないということだ」
「……つまり、地上の民が地下迷宮で棄民相手にどんな罪を犯そうと、裁かれることはない。そう言いたいのか、アレク?」
「そんなにはっきりと発言されると、ちょっと困ってしまうんだけど、ね」

 まあ、そういうことだ。とアレクは仲間に合図で問題ない、と手を振って見せる。
 死にそうな顔をしていたフォンとロンディーネの雰囲気が、パッと明るくなった。

「アレク!」
「やっぱりわかってくれると思ってた!」

 嬉しそうな声を出す二人に、勇者は調子に乗るなと一喝した。

「棄民相手だったから不問にするよ。これが地上の民に向けられたものなら、俺は剣を引き抜いていたところだ。意味は分かるよな?」
「あ、ああ。もちろんだ」
「ええ……これからは気を付けるわ」



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