山極氏の際どい次男坊―姻華横砲編―

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姻華横砲

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 「どうしたハルよ、最近ふさぎ込んでるようだが身体の調子でも悪いのか?」
 「お父はんハルはな、この前歌会で拝見した山極さんとこの幸信はんを好いとんや」
 「山極の、⋯あの弱っちい奴か?」
  霜寺(しもてら)の国は啄爪城(はしづめじょう)の城主鍋田 陣兵衛(なべた じんべえ)は次女のハルに想い人ができ悩んでいた。
 先日将軍主催の歌会が吉名の山であったのだが、鍋田家、山極家共に家族で参加しその時ハルと幸信は仲良くなったようだ。ただしハルは21歳、幸信は4歳。年の差は目をつぶるとしてもさすがに婚姻を望める相手の歳ではない。
 「しかしなハルよ、あちらの意見も訊かんとな⋯」
 その時気の強いハルの姉、スカが思いもよらない提案をしてきた。
 「そんなもん攻め落としたらええがな、それで強引に婿にしたら一石二鳥やで!」

 バタバタバタバタバタ⋯
 「大変です、霜寺の国より大軍が攻めてきます!」
 「馬鹿な、いくら世が戦国といえ城を攻めるにはそれなりの大義名分があるだろ。原因は何だ?」
 「先頭を走る女兵士が叫びまくってます。『幸信を出せ!城を明け渡せ!』だそうです」
 「むちゃくちゃだな」
 ここは横井の国は榊󠄀城(さかきじょう)。城主山極占地守脛暁(やまぎわしめじのかみすねあき)は今まさに起きようとしている戦の対応を迫られていた。
「父上、弟たちを一時亘(わたり)の国に避難させてはいかがですか?」
 脛暁の長男、成幸(なりゆき)が名案を出した。
 「なるほど、亘の国橋志城(はししじょう)の斎上 宗三(さいじょう そうさん)とは懇意の仲ゆえ息子たちを助けてくれよう」
 「それでは私がその役目お勤めしましょう」
 「行ってくれるかタマ」
 「母上、私が参ります!」
 「お前はいい
 「失礼しまむら」
 タマは3男芦足(あしたり)4男筋道(すじみち)5男幸信6男末継(すえつぐ)を連れて榊󠄀城裏の勝手口より外に出た。そして3歳の末継を気遣いつつも急いで亘の国に向かった。次男の武雄丸は訳あって忍者をしているため同行しなかった。

 「妹の婿にするさかい、はよ幸信を出せ言うとるやろ!」
 「あの不細工の妹だ、だいたい見なくても顔が頭に浮かぶ」
 「成幸、このルッキズムの時代に不細工などと言ってはいかん」
 「失礼しまむら」
 「お前しまむらから幾ら貰ってるんだ?」
 「貰ってませんよ。それよりこれだけ大軍で来られると矢も底をつきもはや手に負えませんね」
 「異国には鉄砲という手軽な武器があるらしいのだが⋯」

 城の天守から大軍を見下ろしていたら脛暁のこめかみ辺りに矢が飛んできた。兜を被ってはいたが、新聞で出来ているので安心はできない。
 「おい、そこの色男!」
  脛暁がおずおず手を挙げる。
 「お前やない!そっちの若い方や!ワテも婿が欲しいさかいお前、すぐ降りて来い!婿にしたる!」
  死んでも城門は開けるな、榊󠄀城内に激が飛んだ。そののち籠城続くこと3日、水や食料は御丸の首の部分に貯め込んでいたのでまだまだ余裕だが、精神的に限界が来ていた。絶望の成幸は3日目の夜フラフラと外を覗いたが、霜寺の軍は1キロ程先で野営をしていた。と、いないはずの方向から矢が飛んできて頭に突きささった。恐る恐る紙の兜を脱ぐと上手く髷に突き刺さっていた。あまりに上手く刺さっていたので父に見せようと居間で一人寝ていたところを忍び足で近づいた。
 「父上、⋯父上、⋯父上起きて下さい」
 「はっ!」
 「父上」
 「ははあぁ~っ!お前なんだその頭。⋯ん?」
 刺さっている矢にはフミが付いていた。
 『奥方と息子4人はこちらで預かった、返して欲しくばバテレンの万華鏡をおとなしく差し出せ、バ~イ斎上 宗三』
 なんと、亘の国とは仲良し小好しと思っていたのにこんな裏切リを受けるとは!脛暁は怒りで声も出ない。
 「父上、どうしましょう?」
 「とても外に出られる状態じゃない。武雄丸だな、この案件は。コンコン。武雄丸、これに!」
 「はっ!」
 「⋯どうした黄色のレオタードじゃないか、買い与えた青のレオタードはどうした?」
 「洗濯が間に合いませんでした」
 「⋯替えのレオタードか?」
 「はっ!」
 「色気付きおって、切り捨ててやるわ!」
 「いけません父上、今は迅速に事を進めるのが先決です!」
 「よし」
 「亘の国にバテレンの万華鏡を届ければよろしいんですね?」
 「忍者の特権で勝手に話を聞くな」
 「頼めるか、武雄丸」 
 「わかり申した成幸様」 
 
 ここは亘の国、橋志城の地下にある牢獄。ジメジメとした床に狭い板張りの部屋、鉄の格子を握りしめ叫び続ける親子に粗末な飯が与えられる。脛暁の奥方タマとその息子たちだった。
 「お前たち気を落とさないで、きっと誰か助けてくれるから」
 シュタッ
 「タマ様、大事無いですか」
 「おぉ武雄丸!今日はなんだかあなたが眩しく見えるわ」
 「頭巾とレオタードが黄色のせいかもしれません」
 「ところでどうして私たちが捕まったことが分かったの?」
 「話は長くなりますが、カクカクシカジカのポンです」
 「なるほど」
 武雄丸たちは倒れている見張りを横目に見送り階段を登ると堂々と正面玄関から出ていった。もちろんバテレンの万華鏡は渡していない。一行はそこそこ歩くと子供たちのことを考え休憩をとった。日は昇り、今いる平原は目立つので回り道して林の方を通って帰ろうと歩き出したその時だった。素肌に茶色いジップスーツをまとったくノ一が黒い長髪をなびかせ襲ってきた!
 「危ないじゃないか手裏剣なんか投げたら!」
 「危なくないように投げてるわ」
 「さては忍だな?」
 「よこどりのおツンよ、通称よこツン。バテレンの万華鏡を頂いてないのに奥方と子供たちをみすみす逃がす訳にはいかないわ」
 「はて、バテレンの万華鏡?」
 「しらばっくれても無駄よ、その黄色い格好でそこの松の木の下に何か隠してるところ見たんだから」
 「勝手に取ったら泥棒だぞ」
 「そう思って取ってないわ」
 「じゃそのままにしといてくれ」
 「く~!コイツ私が承諾無しには何も取れないことを知ってるのね」

 その頃榊󠄀城では成幸の精神が崩壊していた。カスの婿になり城を救い自害すると言い出したのだ。
 「変な顔もだんだん慣れて綺麗に見えるって言うぞ、何も自害しなくていいじゃないか」
 「婿の話はありきなんですね!」
 「何か策を考えようではないか」
 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ⋯ガッシャン!
 カラカラカラカラバタン!
 「母上!お前たちも!」
 「只今帰りました」
 「ご苦労であった」
 武雄丸の手引きで榊󠄀城裏の勝手口より無事帰還した一行は脛暁、成幸と合流し改めて霜寺の軍による暴挙をどう収めるか話しあった。
 「父上、将軍様に陳述書を送ってはいかがでしょうか」
 「なるほど、だが将軍様は動いて下さるだろうか?」
 「アヤツらが将軍のアホボケと言っておったと書けば良いのでは?」
 「それでは生ぬるいです」
 一緒に来ていた武雄丸が即座にそう言って兄の意見を切り捨てた。
「鍋田、斎上両家が謀反を企てていると書いてみてはいかがでしょうか」
 「しかしそれでは間に挟まれた我が山極家も同じく結託していると見られるはず」
 「そこは誘いを断ったため鍋田の軍に攻められていると書けばよろしいのでは?」
 「そうだな、しかし榊󠄀城は今勝手口以外抜け出せん状態にある、それに馬が使えんため将軍の居城まで忍者の歩みでも2日はかかるだろう」
 「鷹を使いまする」
 「おう、鳥なら1日かからず将軍まで陳述書を届けられよう」 
 「あ、その手がありましたな」
 「なんだと思ってたんだ?」
 「飛びきり足の速い鷹 恒泰(たか つねやす)、忍者仲間です」
 そうして鷹 恒泰は野山を駆けめぐり川を越え、午後のティータイムを我慢しとうとう将軍の元に着いた。

 「何やってんだ、おツン?」
 上半身裸で身体中黒焦げの男がボケ~っとしているおツンに話しかけた。
 「いいとこに来た毒双、その松の下に何かあるから取っておくれよ」
 「何があんだよ」
 毒双は木の下を探ってみた。すると落ち葉に埋まって桐の箱が置いてあった。箱の上には汚い字で『マンゲキョ』と書いてある。
 「お前これ⋯」
 「いただき!」
 よこどりのおツンは仲間からよこどりした。そしてその時だった。
 シュタッ
 「その箱、置いて行って貰おうか」
 武雄丸は気付かれることなく2人の目の前に現れた。バテレンの万華鏡を回収しに来たのだ。
 「やなこったい、もう私のもんだからね」
 「おツン、そのタイツ野郎はヤバいぜ相手にするな」
 武雄丸と毒双は一度やり合ったことがあるのだ。だがおツンは聞く耳を持たず、安全手裏剣を見せ玉に武雄丸の足元に投げつけた。
 「おツン、やめろ!」
 「よこどりのおツン最大の技、羽化変幻の舞!」
 おツンは右手を上げ叫ぶと足元から紫の粉のようなものが吹き上がり辺りに充満するや自ら姿を消した。
 そして武雄丸も謎の粉で動きが取れなくなった。
 「駄目だ、そいつの動きを封じると変な呪文を唱えて炎の海になるぞ」
 「大丈夫、すぐ終わらせるわ」
 そのとたん武雄丸は姿を消した。そこには紫のモヤがぼんやり残るだけだった。
 「はっ!」
 どこからともなく聞こえるおツンの声でつむじ風が吹き上がり、粉霧が吹き飛んだ。と、そこに茶色のジップスーツが現れた。
 「いや~ん」
 なんと武雄丸がジップスーツを着ているではないか!
 「いや~ん」
 となるとおツンがレオタードを着ている、かと思ったら上半身裸の忍者になっていた。
 「おツンよ意味のない術を使うな」
 ニヤニヤしながら出てきた毒双は黄色のレオタードを着ていた。
 
 「なに、謀反とな!」
 将軍の應田 待崇(おおた まちたか)は
鷹 恒泰の届けた書状を手に震えが止まらなかった。
 「そんなこと書いてますか?」
 「そちは書状を持ってきたのに何も知らんのだな」
 「は!足が速いだけがとりえです」
 「そうか、よし。亘と霜寺めタダてはおかんぞ」
 「将軍様いかがなさいましょう?」
 「よし、橋志城と啄爪城に向け長距離弾道投石機をぶち込め!

 両手で胸を隠しているおツンは木箱を持つことが出来ない。武雄丸がそれを拾おうとしたところ、毒双がいろいろはみ出しながらカエルを吐き出し攻撃してきた。
 「妖術ガマ地獄!」
 そう叫ぶと毒双は身体を震わせ大量の汗のようなモノを振りまいた。そのせいでそこかしこに水たまりが出来、そこでカエルたちは足を滑らせそのたびに大きくなった。大きいカエルを相手にして手刀で戦っていた武雄丸だが、埒が明かないため呪文を唱え始めた。
 「アイアイアイライクエンカ」
 「しめた!」
 毒双はそう言うや黒い布を頭から被り込んで隠れた。
 ぶあっ!
火の呪文が炎を噴き出した、と同時にものすごい勢いで辺りが燃え上がった。水たまりと思ったのは油だったのだ。残念なことに武雄丸は火だるまになってしまった!

 ドスーーーン!
 「なんだなんだ?」
 斎上 宗三は天変地異だと思い城外の橋まで飛び出した。するとそのスレスレに巨大な石が落ちてシーソーのように宗三はどこかに飛んで行った。
ドスーーーン!
 「お父はん、ハルは怖いおす!」
 「大丈夫、ただの地震じゃ」
 ズボッ、ドスーーーン!
 「あ、あ、穴が空いておす!」
 「涼しくてよかろう、ははは⋯」
 啄爪城は穴だらけだが鍋田 陣兵衞と娘のハルは無事だったようだ。将軍怒りの長距離弾道投石機は威力も制圧力もすさまじいものだった。

 「熱っち~なぁ」
 武雄丸は無事だった。入れ替わった時に着たおツンのジップスーツは防炎の機能が備わっていた。炎が噴き出したとき咄嗟に顔を覆ったので顔面は綺麗だが自慢の茶髪はチリチリになってしまった。
 バコッ!
 隠れていた毒双の後頭部を思いきり蹴ってやった。そして起き上がる前にレオタードを脱がせた。
 「貰っていくぞ」
 言うとバテレンの万華鏡が入った箱を持って武雄丸は立ち去った。口惜しそうなおツンは毒双の被っていた黒い布をまとうと亘の国に帰って行った。

 「鍋田の不細工娘が国に引き返している。どうやら事は解決したようですね」
 城の天守にいる成幸は嬉しそうに新聞の兜を脱いで、髷を整えた。タマと弟たちはリビングでみかんを食べている。
 「成幸、何度も言わせるな。今の時代不細工は⋯」
シュタッ
 「武雄丸、只今戻りました」
 「どこに行っておった?て言うかお前は誰だ」
 「服装は違いますが武雄丸にございます」
 「頭も爆発してるぞ」
 「気になさらないで下さい」
 言うと武雄丸は脛暁に箱を差し出して見せた。中には無傷の万華鏡が輝きを放っていた。
 「なんだ、こんな物宗三に渡せばよかったのになぜここにある?」
 「これはタダの万華鏡にございません。ここをこうこうすると⋯」
 武雄丸は万華鏡をひねって分解して見せた。すると数枚の紙が入っているのが見て取れる。
 「この紙がどうかしたのか?」
 「これこそ西洋で爆発的に流行中である鉄砲という物の設計図です」
 「なんと!」
 「では宗三のやつそのことを知っていたのか?」
 「そうです、宗三は流しの修道士に鉄砲を頼んだところ、実物が持ち運べないため設計図を万華鏡に隠しある場所に置いたのです」
 「おかしいな、アレを手に入れたのは確か吉名の山であった歌会のビンゴ大会」
 「そう、宗三と修道士は取引の場所に歌会のビンゴ大会会場を選んだのです!」

―終わり―
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