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1年目 元天才は立ち上がる
紅白戦
しおりを挟む基礎を固めるための練習を積み重ねていると数カ月が過ぎた。1月に新人合同自主トレを経験して智久は自分の立ち位置を理解した。
(正直、ドラ1にはまだ敵わないけど2番手にはいるんじゃないかな)
シーグルズがこの年1巡目に指名したのは社会人出身の右腕、土方投手。球速が150を超えており速球派の即戦力として期待されている。
その合同自主トレで智久は既に面識のある中川と、3巡目で指名されたアンダースローが特徴の大森投手と仲良くなった。
(中川が大卒だとは思わなかったな……)
プロ野球選手の中では小柄な方の中川を、智久は同じ高卒の選手と思っていた。大卒だと知って、思わず叫ぶと中川に頭を叩かれたのはいい思い出だ。
そして2月の上旬の今日、智久はマウンドに立っていた。主に二軍選手を主体とした紅白戦のマウンド、先発投手として2イニングを任される。
紅白戦とはいえ、智久が先発を任されたのは新宮コーチが推薦してくれたからだ。普段は酒を飲み、ふざけた態度だが野球の事となるとしっかりするのである。もちろんビール缶は片時も手から離さないのだが。
一回の表。
まだ誰の足跡もついていないマウンドに降り立つ。
試合で投げるのは久し振りだが智久はそれ以上に滾っていた。
初球、智久はストレートをインハイに投げこむ。
胸元ぎりぎり、これを審判はストライクと宣告した。表情には出さないものの内心では、初球がストライクゾーンの四隅に投げられた事に安堵する。
第ニ球はキャッチャーとサインが合わず智久は何度も首を横に振る。4度目の提案に智久は頷いた。
外角へのチェンジアップ、手を出させるのが目的なのでボール半個分真ん中に寄せて投げる。
引っ掛けた打球はセカンドへ。
ボテボテの打球は難なく処理されワンアウト。
セカンドに手を挙げて感謝を示す。彼らにとっては当たり前のプレーだが智久にとっては初めて取ったアウトだ。やはり嬉しい。
二番打者。球筋を見極めるためかストライクはカットしてファールに、ボール球は徹底的に見逃してきた。
(やりにくい相手だ)
フルカウントからの八球目。
智久は全力のストレートをアウトローギリギリに投げ込む。審判はストライクを宣告し、バッターは項垂れた。
(これ取ってくれるのか。ラッキー)
智久は今までの経験から自分のボールが四分の一個分外れていたと判断していた。思わぬ幸運で初奪三振を奪う。
智久が三番打者に投じた初球、甘めに入った球は痛打される。ひやっとしたがセンターが追いつき、スリーアウト。無難な立ち上がりに智久がベンチに戻ると、チームメイトに手荒く祝福された。
2回の表。
智久は四番と五番を連続三振に打ち取る。紅白戦だからか彼らの大振りなスイングは智久のカーブの餌食になった。
お役御免までワンアウトまでこぎつけ、智久は六番打者と相対する。彼は数年前までは一軍でレギュラーだったが年のせいかサブに回ることが多くなった選手である。培った経験からか彼の出す空気感は智久を圧倒する。
初球、智久はチェンジアップから入る。これまでの打者には使ってこなかったコンビネーションだ。
軽くタイミングを合わせられ、レフト線上に打球が飛ぶが風に煽られファウルとなった。
智久の首筋に冷や汗が流れる。
二球目は内角へのストレート、彼はあっさりと見逃す。ストライクと宣告されるも智久は苦々しい顔をしている。
(今のは打って欲しかった……)
そこから三球続けて釣り球を投げるが反応すらしない。智久は持ち球を全て使ってしまう。
(カーブ、カーブだ。大丈夫、そう簡単には打たれない)
キャッチャーとのサイン交換が終わりボールを握る。智久にとってのカーブは野球そのもの。8年ほど投げてきたカーブに智久は絶対的な信頼を寄せていた。
右打者に向けて投げられたカーブは、一番捉えるのが難しいストライクからボールへと変化するアウトロー。普通なら打ってもゴロかフライ。だがやはりものが違う。
ボール球を振り切り、打った打球は高々と舞い上がり野手の頭を越えてレフトスタンドに突き刺さった。
智久は立ち尽くす。
文字にしたら先制となるレフトへのソロホームラン。だがそれ以上に智久は衝撃を受けていた。
なんとか立て直して二番打者を三振に打ち取る。それでも智久にはあのホームランが描いた軌道は頭の中から消えなかった。
ベンチ裏で笑い声が聞こえる。新宮コーチか。
智久は振り向かえらずにただその声を聞く。
「さて、ここからが本当の勝負だな」
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