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第1話 チュートリアル
3日目③
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魔物に会いに行くに際して、城下町で待ち合わせしているとのことだった。付き添ってくれる人が他にもいるらしい。
待ち合わせ場所までは城下町を歩いて向かった。城下町には色々な店が並んでいて目移りするけど、寄り道をすると確実に日が暮れてしまうから、改めて散策に来たいなとひっそり思った。
「今日は食糧調達のために教会が魔獣を狩る日なので、それに同行します」
「魔獣って食べれるんですね」
「魔獣を食すための研究をされた方がいまして、いくつかの魔獣は安全に食す方法が分かっているんです」
「へぇ、偉大ですね」
「はい。食糧不足改善の一手になりましたので、魔獣食研究は引き継がれて今は3代目といったところですね」
ここで野暮なことを言うつもりはないけど、魔獣を食べることを教会が良しとしているのが意外だ。ファンタジー世界での教会の人は、魔物を邪悪な存在と認識しているイメージだったけど、私が読んできた小説とかの傾向が偏ってたのかな。
朝食の時の会話からも、魔物と戦うことに積極的というわけではないようだし。
借りた本には国の中でのそれぞれの組織の立ち位置は書いてあったけど、教会が信仰しているアインス国の国教シノラ教の内容については触れていなかった。
追々教えてもらおう。
「もしかして王宮の食堂の料理にも使われてるんですか?」
「はい。基本は食材が記載されていたと思いますが、確認されませんでした?」
「見た目で美味しそうかどうかを重視してたので、全然見てなかったです。食材の名前が元の世界とはどうせ一致してないと思ったというのもあるんですけど」
「知ってて損はないと思いますよ」
「少しずつ覚えていきたいと思います」
私既に魔物食べてたかもなんだ。害なく美味しいなら、気にしないからいいけど。
話している内に、待ち合わせ場所の西門に着いた。
白と青を貴重とした軍服を纏った人達が5名ほどいま。ギダさんやサノエさんの服装と配色が似ている。色味で教会の人と認識出来るように統一してるんだろう。銀色がアクセントになっててキレイなんだよなぁ。
「今日の狩りのリーダーを務めるアルゲイトと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「リーナと言います。同行の許可をいただき、ありがとうございます。狩りの邪魔にならないよう気を付けるので、よろしくお願いします」
「では、早速参りましょう。リーナ様の案内役兼護衛として、道中はサノエが側に付きますので、気になることは何でも聞いてやってください」
「遠慮なくお聞きください」
「引き続きお願いします」
挨拶が終了し、騎士5人の後ろを5メートルほど離れて、私とサノエさんが並んで歩くという形で森に向かった。
「今日はオークを10匹狩る予定です。オークは豚に似た魔獣ですが、味は全然違うんです」
「強さはどのくらいなんですか?」
「オークは大体攻撃防御共に2000くらいですね。速さは1000なので基本的に鈍いですが、時々速さの数値が高い個体もいて、要注意ですね。突進の威力がそこそこになるんです」
私が攻撃受けたら死ぬのでは?
そして、この人達はオークを余裕で倒せるくらいの強さがあるんだろうな。表情とか雰囲気がめちゃくちゃ余裕そうだもん。
本当、何で私こんなによくしてもらってるんだろ?
「そして、知能が高くなったオークは覚醒して、ヒト型の魔物ハイオークへと進化します」
出た。私にはないステータス。
「オークはどうやって知能を上げるんですか?」
「オークが群れで生息する中でリーダー格なる存在が生まれて、種族を導く役割を担う中で知能が高くなっていく、というのが魔物学研究者の見解です」
「群れのボスは別格ってことですね。あと、魔物を研究してる人がいるんですね」
「はい。因みに、基本研究者には戦闘能力は求められませんが、魔物研究者は生態系調査の際、自分を守る力が必要になるため、Cランク冒険者と同等以上の戦闘力があります」
「Cランク冒険者の強さはどれくらいです?」
「Cランクの冒険者は平均ステータスが3000です。王宮騎士で言うところの4級よりやや弱い辺りですね」
「私よりずーっと強いですね」
私めちゃくちゃ弱いじゃん!!
というか、一般人弱すぎでは?最早生存出来てるのが奇跡なのでは?
国が戦闘力ある人を少しでも多く確保しようとしてるのも分かる気がする。
「これは余談ですけど、魔獣研究者の近年の目標は魔獣を食用飼育することだそうです」
「魔獣の養殖・・・」
きっと世界はまだまだ未知のことで溢れてるのだろうとぼんやり思ったところで、今日の狩り場に着いたらしい。
「この先にオークの住みかがあります。この辺りでしたら安全ですので、ここで見学をいたしましょう」
「分かりました」
『チュートリアルギャンブル【アタック】ルーレットと【ディフェンド】ルーレットを同時に開始します』
えっ、ここで?いや、魔物に会えって言われたけど。
アタックとディフェンドってまさか、私に魔物と戦えって言ってるの?私、スライムより弱いんだけど!武器もないし!
『それぞれ番号は【1】~【5】です。配当は5倍です。何番にいくら【BET】しますか?』
「すみません。チュートリアルの指示が出たので、少しだけ作業をさせてもらいます」
「あら、分かりました。移動した方がいいですか?」
「いえ、このままで大丈夫です」
100円玉を2枚出して、【アタック】と【ディフェンド】それぞれの【1】に100円玉を1枚ずつかざす。
『【BET】金額【100ギン】をそれぞれ確認しました。No more bet. ルーレットを開始します』
そう言えば、攻撃と防御の配当5倍ってどういう意味?
『チュートリアルボーナスが発生しました。【アタック】ルーレットのホイールの数字が【1】~【3】に変化しました。ルーレットを再開します』
『結果【2】。リーナの敗北です。攻撃力は通常のままです』
『チュートリアルボーナスが発生しました。【ディフェンド】ルーレットのホイールの数字が【1】~【2】に変化しました。ルーレットを再開します』
『結果【1】。リーナの勝利です。防御力が5倍になります』
あ、そういうこと。つまり、今の私はルーレットの結果によって、防御だけステータス500の状態になってるのか。
『戦闘を開始します』
「は?」
「リーナ様、何かありました?」
「えーと、ないと信じたいって感じです」
「?」
何度見直しても戦闘を開始すると書いてある。
ルーレットの結果を体験させるために、たぶん運命補正がかかって、私は今から魔物と戦闘をさせられるんだ。
今からでも急いでステータスを割り振るべき?
いや、スライムがどっかから突然現れてでとかなら防御5倍効果のおかげでたぶんやられはしない。
武器はないけどね!何で攻撃するって言うんだよ!?
取り敢えず、現状で最悪のパターンが起こらなければいいんだけど。
「すまない!!そっちに行った!!頼む、サノエ!!」
「任せてください!!」
とか思ってたら、最悪のパターンが来ちゃったよ。
オークが一匹、中々の勢いでこっちに向かって走ってきている。あれにぶつかられたら、私じゃ一溜りもないのは考えるまでもない。
サノエさんは私より断然強いみたいだし、ここは何もせずに任せよう!万が一のことがあっても大丈夫な人が選ばれて来てるんだろうし。
「【CHANGE】」
サノエさんが落ち着いた声で呪文らしきものを唱えた。
瞬間、地面が鋭く突きだしオークを貫いた。オークは身動きがとれないながらも、必死に踠いて暴れている。あれではどうやらまだ死なないらしい。
「魔物にとって、人間や動物の心臓にあたるものが、魔力核と言います。魔物を倒すには魔力核を破壊するか、魔力を一定値まで消費させることが必要になります。魔力が消費してなくなるというのは、血液がなくなるのと同等です」
「人間が魔力がなくなっても死ぬんですか?」
「人間にとって魔力は生命維持に必要なものではないので、大丈夫ですよ」
よかった。MPを急速に増やさないといけないかと焦った。
「生き物としての作りが本当に違うんですね」
「魔物は自身の傷の修復のために魔力を消費します。知能の低い魔物は自動でそれを行うようなものなので、魔獣を食用で狩る時は傷をつける修復するの繰り返しで倒していきます」
「魔力核を破壊しないんですか?」
「核を破壊すると、靄のように肉体が消えてしまうんです。核の欠片は残るので、倒した証明は残るんですけど、石と同等の素材の核は食べられませんし」
説明をしながらサノエさんはオークに細かく傷をつけていった。サノエさんに付けられた傷をオークは意識的にか無意識的にか直ぐに修復していた。それを何度も繰り返す。
「魔力が空になっても魔物は肉体が消滅してしまうんです。狩りに慣れた騎士は魔物を倒すのに十分な傷を一太刀で与えることが出来ますが、私のように慣れていない者が戦う場合は消滅させないために大きな傷をつけられず、このようにいたぶるような状態になるんです」
淡々と説明するサノエさんの眉間には僅かに力が籠っていた。
「慣れるまではしんどいですね」
「ただ力が強いだけでは不十分だということを思い知らされます」
オークの動きが止まり、手足が力なく垂れ下がった。力尽きたのだろう。
動かなくなったオークを見て、サノエさんがホッと息をついた。サノエさんは熟練の人に見えるけど、魔獣狩りを担当することは少ないんだろう。
「あちらも終わったようですね」
騎士の人達がオークを手にこっちに戻ってきた。10匹のオークを地面にキレイに並べていく。
「食べるためとは言え殺生を行ったので、祈祷をします。基本黙祷です。ご一緒にお願い出来ますか?」
「はい」
騎士達が膝を片膝をついて手を合わせて祈り始める。その後ろに並び、両膝をついて手を合わせるサノエさんに習って、私も祈りのポーズをした。
シノラ教では、魔物も等しく命のようだ。必要以上に倒したりはしないんだろう。
なら何故、この教会は国が行った対魔物の戦力獲得に関わっているのだろう。
祈祷が終わり、騎士達が立ち上がるのに続く。
一匹が人一人と同じくらいの大きさのオークが10匹並んでいるのを改めて見て、ふと疑問が沸いてくる。
「これはどうやって持って帰るんですか?」
「アイテムボックスに入れて帰ります」
アイテムボックス!ゲームに出てきそうなものの名前!
アルゲイトさんが空中でボタンを押す仕草をする。彼のステータス画面の操作をしているようだ。
続けてアルゲイトさんがオークに手をかざすと、オークをスッとその場から消えた。たぶん、今のでアイテムボックスに収納されたんだろう。
「アイテムボックスって何ですか?」
「ステータス画面上の収納システムです。何らかの機会に恵まれると手に入れられるみたいなんですけど、条件は未だに分かってないんです」
「へぇ。あると便利だろうから惜しいですね」
「本当に」
10匹のオークがあっという間に消えた。
アイテムボックス欲しいなぁ。スキル用にお金をたくさん稼いでストックしておきたいから、あったら絶対助かる。
「では、帰りましょうか」
そうアルゲイトさんが言った時、足元に柔らかいものがぶつかってきた。
「何?」
「あら、スライムですね」
見下ろすと、水色の半透明のぷよぷよとした物体が私の足元に居た。
もしかしてこれがチュートリアルの言ってた戦闘?
「これってどうしたらいいですか?」
「倒せば経験値や魔法核の欠片を手に入れられますけど、今のリーナ様では難しいようでしたら、遠くに投げてしまえば大丈夫です」
そうだ。現状のステータスでは私はスライムより弱い。ルーレットの結果防御が上がっていたおかげで、ぶつかられたのは平気だったけど、攻撃力は微妙だから時間がかかるかもしれない。
それに、無駄な殺生を好まない人達の前で、なんとなくで倒すと言うのも気が引ける。
「じゃあ、投げちゃいます」
スライムをパッと両手で掴み、オークの住みかとは別の方向に投げた。
地面に落ちたスライムがそのまま余所へと進んでいくのが、遠目で見えた。
「これで町へ戻る私達についてくるということもないので大丈夫ですよ」
これでチュートリアルが言ってた戦闘も終了したと思いたい。ルーレットの結果を体験することが重要なら、一応は済んだはず。
攻撃はしてないけど、そもそも【アタック】の方は負けたから、攻撃は通常通りでルーレットの効果なんてものは初めからない。
それにゲームの戦闘画面の選択肢には『逃げる』だってあるし。
「では、今度こそ町へ帰りましょう」
「はい」
まぁ、次襲われたとしてもサノエさんが助けてくれるだろう。転移者の私達はまだ国にとって賓客のはずだから、魔物に襲われてそのまま捨て置かれるなんてことはないはずだ。
魔獣狩り一行は行きと同様の身軽さで町への帰路に着いた。結局、帰り道で魔物に襲われることはなかった。
その後は、町のレストランでランチをし、商業ギルドにオークを卸しに行くところまで同行させてもらえた。
待ち合わせ場所までは城下町を歩いて向かった。城下町には色々な店が並んでいて目移りするけど、寄り道をすると確実に日が暮れてしまうから、改めて散策に来たいなとひっそり思った。
「今日は食糧調達のために教会が魔獣を狩る日なので、それに同行します」
「魔獣って食べれるんですね」
「魔獣を食すための研究をされた方がいまして、いくつかの魔獣は安全に食す方法が分かっているんです」
「へぇ、偉大ですね」
「はい。食糧不足改善の一手になりましたので、魔獣食研究は引き継がれて今は3代目といったところですね」
ここで野暮なことを言うつもりはないけど、魔獣を食べることを教会が良しとしているのが意外だ。ファンタジー世界での教会の人は、魔物を邪悪な存在と認識しているイメージだったけど、私が読んできた小説とかの傾向が偏ってたのかな。
朝食の時の会話からも、魔物と戦うことに積極的というわけではないようだし。
借りた本には国の中でのそれぞれの組織の立ち位置は書いてあったけど、教会が信仰しているアインス国の国教シノラ教の内容については触れていなかった。
追々教えてもらおう。
「もしかして王宮の食堂の料理にも使われてるんですか?」
「はい。基本は食材が記載されていたと思いますが、確認されませんでした?」
「見た目で美味しそうかどうかを重視してたので、全然見てなかったです。食材の名前が元の世界とはどうせ一致してないと思ったというのもあるんですけど」
「知ってて損はないと思いますよ」
「少しずつ覚えていきたいと思います」
私既に魔物食べてたかもなんだ。害なく美味しいなら、気にしないからいいけど。
話している内に、待ち合わせ場所の西門に着いた。
白と青を貴重とした軍服を纏った人達が5名ほどいま。ギダさんやサノエさんの服装と配色が似ている。色味で教会の人と認識出来るように統一してるんだろう。銀色がアクセントになっててキレイなんだよなぁ。
「今日の狩りのリーダーを務めるアルゲイトと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「リーナと言います。同行の許可をいただき、ありがとうございます。狩りの邪魔にならないよう気を付けるので、よろしくお願いします」
「では、早速参りましょう。リーナ様の案内役兼護衛として、道中はサノエが側に付きますので、気になることは何でも聞いてやってください」
「遠慮なくお聞きください」
「引き続きお願いします」
挨拶が終了し、騎士5人の後ろを5メートルほど離れて、私とサノエさんが並んで歩くという形で森に向かった。
「今日はオークを10匹狩る予定です。オークは豚に似た魔獣ですが、味は全然違うんです」
「強さはどのくらいなんですか?」
「オークは大体攻撃防御共に2000くらいですね。速さは1000なので基本的に鈍いですが、時々速さの数値が高い個体もいて、要注意ですね。突進の威力がそこそこになるんです」
私が攻撃受けたら死ぬのでは?
そして、この人達はオークを余裕で倒せるくらいの強さがあるんだろうな。表情とか雰囲気がめちゃくちゃ余裕そうだもん。
本当、何で私こんなによくしてもらってるんだろ?
「そして、知能が高くなったオークは覚醒して、ヒト型の魔物ハイオークへと進化します」
出た。私にはないステータス。
「オークはどうやって知能を上げるんですか?」
「オークが群れで生息する中でリーダー格なる存在が生まれて、種族を導く役割を担う中で知能が高くなっていく、というのが魔物学研究者の見解です」
「群れのボスは別格ってことですね。あと、魔物を研究してる人がいるんですね」
「はい。因みに、基本研究者には戦闘能力は求められませんが、魔物研究者は生態系調査の際、自分を守る力が必要になるため、Cランク冒険者と同等以上の戦闘力があります」
「Cランク冒険者の強さはどれくらいです?」
「Cランクの冒険者は平均ステータスが3000です。王宮騎士で言うところの4級よりやや弱い辺りですね」
「私よりずーっと強いですね」
私めちゃくちゃ弱いじゃん!!
というか、一般人弱すぎでは?最早生存出来てるのが奇跡なのでは?
国が戦闘力ある人を少しでも多く確保しようとしてるのも分かる気がする。
「これは余談ですけど、魔獣研究者の近年の目標は魔獣を食用飼育することだそうです」
「魔獣の養殖・・・」
きっと世界はまだまだ未知のことで溢れてるのだろうとぼんやり思ったところで、今日の狩り場に着いたらしい。
「この先にオークの住みかがあります。この辺りでしたら安全ですので、ここで見学をいたしましょう」
「分かりました」
『チュートリアルギャンブル【アタック】ルーレットと【ディフェンド】ルーレットを同時に開始します』
えっ、ここで?いや、魔物に会えって言われたけど。
アタックとディフェンドってまさか、私に魔物と戦えって言ってるの?私、スライムより弱いんだけど!武器もないし!
『それぞれ番号は【1】~【5】です。配当は5倍です。何番にいくら【BET】しますか?』
「すみません。チュートリアルの指示が出たので、少しだけ作業をさせてもらいます」
「あら、分かりました。移動した方がいいですか?」
「いえ、このままで大丈夫です」
100円玉を2枚出して、【アタック】と【ディフェンド】それぞれの【1】に100円玉を1枚ずつかざす。
『【BET】金額【100ギン】をそれぞれ確認しました。No more bet. ルーレットを開始します』
そう言えば、攻撃と防御の配当5倍ってどういう意味?
『チュートリアルボーナスが発生しました。【アタック】ルーレットのホイールの数字が【1】~【3】に変化しました。ルーレットを再開します』
『結果【2】。リーナの敗北です。攻撃力は通常のままです』
『チュートリアルボーナスが発生しました。【ディフェンド】ルーレットのホイールの数字が【1】~【2】に変化しました。ルーレットを再開します』
『結果【1】。リーナの勝利です。防御力が5倍になります』
あ、そういうこと。つまり、今の私はルーレットの結果によって、防御だけステータス500の状態になってるのか。
『戦闘を開始します』
「は?」
「リーナ様、何かありました?」
「えーと、ないと信じたいって感じです」
「?」
何度見直しても戦闘を開始すると書いてある。
ルーレットの結果を体験させるために、たぶん運命補正がかかって、私は今から魔物と戦闘をさせられるんだ。
今からでも急いでステータスを割り振るべき?
いや、スライムがどっかから突然現れてでとかなら防御5倍効果のおかげでたぶんやられはしない。
武器はないけどね!何で攻撃するって言うんだよ!?
取り敢えず、現状で最悪のパターンが起こらなければいいんだけど。
「すまない!!そっちに行った!!頼む、サノエ!!」
「任せてください!!」
とか思ってたら、最悪のパターンが来ちゃったよ。
オークが一匹、中々の勢いでこっちに向かって走ってきている。あれにぶつかられたら、私じゃ一溜りもないのは考えるまでもない。
サノエさんは私より断然強いみたいだし、ここは何もせずに任せよう!万が一のことがあっても大丈夫な人が選ばれて来てるんだろうし。
「【CHANGE】」
サノエさんが落ち着いた声で呪文らしきものを唱えた。
瞬間、地面が鋭く突きだしオークを貫いた。オークは身動きがとれないながらも、必死に踠いて暴れている。あれではどうやらまだ死なないらしい。
「魔物にとって、人間や動物の心臓にあたるものが、魔力核と言います。魔物を倒すには魔力核を破壊するか、魔力を一定値まで消費させることが必要になります。魔力が消費してなくなるというのは、血液がなくなるのと同等です」
「人間が魔力がなくなっても死ぬんですか?」
「人間にとって魔力は生命維持に必要なものではないので、大丈夫ですよ」
よかった。MPを急速に増やさないといけないかと焦った。
「生き物としての作りが本当に違うんですね」
「魔物は自身の傷の修復のために魔力を消費します。知能の低い魔物は自動でそれを行うようなものなので、魔獣を食用で狩る時は傷をつける修復するの繰り返しで倒していきます」
「魔力核を破壊しないんですか?」
「核を破壊すると、靄のように肉体が消えてしまうんです。核の欠片は残るので、倒した証明は残るんですけど、石と同等の素材の核は食べられませんし」
説明をしながらサノエさんはオークに細かく傷をつけていった。サノエさんに付けられた傷をオークは意識的にか無意識的にか直ぐに修復していた。それを何度も繰り返す。
「魔力が空になっても魔物は肉体が消滅してしまうんです。狩りに慣れた騎士は魔物を倒すのに十分な傷を一太刀で与えることが出来ますが、私のように慣れていない者が戦う場合は消滅させないために大きな傷をつけられず、このようにいたぶるような状態になるんです」
淡々と説明するサノエさんの眉間には僅かに力が籠っていた。
「慣れるまではしんどいですね」
「ただ力が強いだけでは不十分だということを思い知らされます」
オークの動きが止まり、手足が力なく垂れ下がった。力尽きたのだろう。
動かなくなったオークを見て、サノエさんがホッと息をついた。サノエさんは熟練の人に見えるけど、魔獣狩りを担当することは少ないんだろう。
「あちらも終わったようですね」
騎士の人達がオークを手にこっちに戻ってきた。10匹のオークを地面にキレイに並べていく。
「食べるためとは言え殺生を行ったので、祈祷をします。基本黙祷です。ご一緒にお願い出来ますか?」
「はい」
騎士達が膝を片膝をついて手を合わせて祈り始める。その後ろに並び、両膝をついて手を合わせるサノエさんに習って、私も祈りのポーズをした。
シノラ教では、魔物も等しく命のようだ。必要以上に倒したりはしないんだろう。
なら何故、この教会は国が行った対魔物の戦力獲得に関わっているのだろう。
祈祷が終わり、騎士達が立ち上がるのに続く。
一匹が人一人と同じくらいの大きさのオークが10匹並んでいるのを改めて見て、ふと疑問が沸いてくる。
「これはどうやって持って帰るんですか?」
「アイテムボックスに入れて帰ります」
アイテムボックス!ゲームに出てきそうなものの名前!
アルゲイトさんが空中でボタンを押す仕草をする。彼のステータス画面の操作をしているようだ。
続けてアルゲイトさんがオークに手をかざすと、オークをスッとその場から消えた。たぶん、今のでアイテムボックスに収納されたんだろう。
「アイテムボックスって何ですか?」
「ステータス画面上の収納システムです。何らかの機会に恵まれると手に入れられるみたいなんですけど、条件は未だに分かってないんです」
「へぇ。あると便利だろうから惜しいですね」
「本当に」
10匹のオークがあっという間に消えた。
アイテムボックス欲しいなぁ。スキル用にお金をたくさん稼いでストックしておきたいから、あったら絶対助かる。
「では、帰りましょうか」
そうアルゲイトさんが言った時、足元に柔らかいものがぶつかってきた。
「何?」
「あら、スライムですね」
見下ろすと、水色の半透明のぷよぷよとした物体が私の足元に居た。
もしかしてこれがチュートリアルの言ってた戦闘?
「これってどうしたらいいですか?」
「倒せば経験値や魔法核の欠片を手に入れられますけど、今のリーナ様では難しいようでしたら、遠くに投げてしまえば大丈夫です」
そうだ。現状のステータスでは私はスライムより弱い。ルーレットの結果防御が上がっていたおかげで、ぶつかられたのは平気だったけど、攻撃力は微妙だから時間がかかるかもしれない。
それに、無駄な殺生を好まない人達の前で、なんとなくで倒すと言うのも気が引ける。
「じゃあ、投げちゃいます」
スライムをパッと両手で掴み、オークの住みかとは別の方向に投げた。
地面に落ちたスライムがそのまま余所へと進んでいくのが、遠目で見えた。
「これで町へ戻る私達についてくるということもないので大丈夫ですよ」
これでチュートリアルが言ってた戦闘も終了したと思いたい。ルーレットの結果を体験することが重要なら、一応は済んだはず。
攻撃はしてないけど、そもそも【アタック】の方は負けたから、攻撃は通常通りでルーレットの効果なんてものは初めからない。
それにゲームの戦闘画面の選択肢には『逃げる』だってあるし。
「では、今度こそ町へ帰りましょう」
「はい」
まぁ、次襲われたとしてもサノエさんが助けてくれるだろう。転移者の私達はまだ国にとって賓客のはずだから、魔物に襲われてそのまま捨て置かれるなんてことはないはずだ。
魔獣狩り一行は行きと同様の身軽さで町への帰路に着いた。結局、帰り道で魔物に襲われることはなかった。
その後は、町のレストランでランチをし、商業ギルドにオークを卸しに行くところまで同行させてもらえた。
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